第253話 おねだりする後輩ちゃん

 

 俺は、休日に行う掃除を行っていた。洗濯、床掃除、トイレやお風呂掃除など。


 普通に平日もちょくちょく行っているが、流石に細かいところまで行うことはできない。だから、こういう休みの日に掃除をするのだ。


 俺の部屋が終わったら、次はお隣の後輩ちゃんのお部屋。そして、その次は下の階の桜先生の部屋だ。


 二人はほとんど使用しないため、綺麗なままだ。でも、埃はたまる。だから、空気の入れ換えも兼ねて一通り掃除を行うのだ。


 掃除をしながら思う。二人が最後に自分たちの部屋に帰ったのはいつだろうと。


 学校から俺の部屋に帰り、ご飯を食べ、お風呂に入り、ベッドで寝る。そして、起きる。


 いつの間にか俺の部屋には二人の私物で溢れている。必要なものは全て俺の部屋だ。


 …………部屋を契約している意味はあるのだろうか?


 さっさと掃除を終えて、二人がゴロゴロしているだろう部屋に戻る。


 後輩ちゃんと桜先生は案の定、リビングの床に寝そべって日向ぼっこをしていた。


 気持ちよさそうに抱きしめ合っている。仲の良い姉妹だ。



「ぼえぇ~」


「ふへぇ~」



 間抜けな声がとても可愛い。時々、もぞもぞと身体を動かす仕草も可愛い。


 俺がリビングの入り口でボケーっと見惚れて突っ立っていると、眠そうな二人がゴシゴシと目を開けた。



「先輩。お疲れ様で~っす」


「弟くん、ありがと~!」


「いえいえ。俺さ、掃除しながら思ったんだけどさ、二人は自分の部屋に戻るつもりは…」


「「ないっ!」」


「ですよね~」



 即答された。光よりも早くきっぱりと拒否された。そうではないかと思っていましたけど。


 でも、後輩ちゃんと桜先生がいなくなったらちょっと寂しいかもしれない。賑やかな食事やほのぼのとした団欒の時間がとても心地よい。一緒に寝るのも…気持ちいいですし。


 出て行くって言われたら、俺は必死で止めそうだなぁ。


 あぁ…二人に毒されてしまった…。俺はこの先大丈夫だろうか?


 気持ちよさそうにだらけきっている後輩ちゃんが、横になったまま手を挙げて、こっちに来い、と誘ってくる。



「しぇんぱい、かも~ん! 癒してあげますよ~」


「私たち姉妹の仕事だからね~」



 いつの間にか、俺を癒す仕事が姉妹の仕事になっている。後輩ちゃんだけだった気がするんだけど、いつから桜先生の仕事にもなったのだろう。癒されるのでいいですけど。


 俺は今すぐ二人に抱きしめて欲しい気持ちを必死に我慢する。



「俺、埃だらけだから」


「そうですかぁ~。じゃあ、シャワーでも浴びてきます?」


「お姉ちゃんたちが洗ってあげようか~?」


「結構です!」


「恥ずかしがらなくていいのよ~。もう何回も一緒にお風呂に入って洗いっこしたでしょ?」


「そ、それはいつも二人が突撃して…」


「でも、最近は何も言わなくなりましたよね? 普通に髪を洗ってくれますし、お姉ちゃんは裸だし」


「諦めただけだ…」



 俺は深いため息をついた。


 そう。俺はもう最近諦めた。どうやっても二人が水着姿で突撃してくるのだ。ドアを押さえても疲れるし、長時間だと体が冷えてしまう。


 お風呂は温まって疲れを癒すところだ。疲れることはしなくない。


 そ、それに、俺も年頃の男ですから、そういうシチュエーションには憧れるのですよ。二人の髪を洗うのも好きだし、素肌が密着するし…。


 俺が何も言わなくなったから、最近桜先生は水着を脱いで裸で入ったりするけど、それはどうにかしてほしい。



「一人で入ってきますよ。くれぐれも、突撃しないように!」


「わかりました! フリですね!」


「わかったわ! フリね!」


「違う! 突撃して来たら昼ご飯のおかずを減らすからな!」



 それだけは勘弁して、と泣きそうになる二人に背を向けて、俺は着替えを持って浴室に向かった。


 パパっとシャワーで埃を流す。


 脅しが効いたようだ。後輩ちゃんと桜先生が突撃してくることはなかった。


 髪を乾かして、リビングに向かうと、大人しく座っていた二人が出迎えてくれた。


 二人がビシッと敬礼する。



「ご飯のために待機しておりました!」


「おりました! 偉いでしょ!」


「はいはい。偉いですね」



 頭をナデナデしてあげたら、二人は気持ちよさそうに顔が蕩けた。もっともっと、と言わんばかりに自分からスリスリしてくる。子犬と子猫みたいでとても可愛い。



「二人は何が食べたい?」


「カレー!」


「いいわね、妹ちゃん! お姉ちゃんもカレーが食べたーい!」


「「おねが~い♡」」



 潤んだ瞳で上目遣い & 胸の前で手を合わせる可愛いおねだりポーズ。


 俺の胸がズキューンと撃ち抜かれた。



「ぐふっ!? さ、流石に今からカレーを作るのは…。夜でいいか?」


「「いいでーす!」」


「了解。ということは、昼から買い物にも行かないとな」


「せんぱーい! 私もついて行きまーす」


「じゃあ、お姉ちゃんもー!」



 二人が休日について来るなんて珍しい。いつもは家でゴロゴロお留守番しているのに。


 偶には三人で買い物に行くのも良いな。でも、その前にお昼ご飯を作らないとな。


 愛しい二人のために頑張って作るか!


 俺は気合を入れてお昼ご飯を作り始めるのだった。


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