第250話 愛してるゲームと後輩ちゃん

 

「先輩!」



 突然、俺の太ももを枕にしていた後輩ちゃんが堂々と仁王立ちをした。これは何かを思いついた証拠だ。今度は一体何をするんだろう。


 俺と俺の太ももを枕にしている桜先生は、後輩ちゃんを見上げる。


 ドヤ顔の後輩ちゃんが元気に言い放った。



「愛してるゲームをしましょう!」


「それって、相手に愛してるって言って、反応してしまったら負けってゲームよね、妹ちゃん?」


「その通りだよ、お姉ちゃん!」


「後輩ちゃんは負けるだろ」


「なんで私の負けが確定してるんですかぁ~! 先輩が負けるに決まってますよぉ~!」



 後輩ちゃんが頬をぷくーっと膨らませて、ポコポコと叩いてきた。とても可愛い。



「お姉ちゃんは先攻の人が勝つと思うんだけどなぁ…」



 その様子を見ていた桜先生が何かをボソッと言ったが、小さすぎて聞き取れなかった。


 ムスッとした後輩ちゃんが俺の身体をグワングワンと揺らす。



「やりましょうよぉ~。面白そうじゃないですかぁ~!」



 や、止めて。揺らすの止めて。酔いそう。目が回るから止めて。お願い。



「やりましょうよ~やりましょうよ~!」


「何が目的だ?」


「照れて悶える先輩を愛でたいです! …………はっ!? 誘導尋問に引っかかってしまったぁ~!?」



 後輩ちゃん。誘導尋問じゃないと思いますよ…。後輩ちゃんって時々超絶なポンコツになるよなぁ。とても可愛いけど!


 俺の太ももを枕にしていた桜先生が起き上がった。



「面白そうだからお姉ちゃんもする~! お姉ちゃん権限で強制的に行いま~す!」



 そんな権限あったのか…知らなかった。でも、姉のご命令なら仕方がない。さっさと撃沈させて終わらせますか。


 言う人と耐える人は、じゃんけんで決めることになった。一番勝った人が言って、一番負けた人がそれに耐える。もう一人は見てるだけ。


 早速三人でじゃんけんをする。一番最初は俺が言う立場で、後輩ちゃんが耐える立場だ。


 後輩ちゃんがニヤリと笑って俺を煽ってくる。



「ほらほら先輩! 私の心を撃ち抜く心からの愛の言葉をお待ちしてますよ! いつでもカモ~ン!」



 い、意外と言う方も恥ずかしいな。でも、ここはグッと我慢して、あのニヤニヤ顔の後輩ちゃんを撃沈させてやる!


 俺は後輩ちゃんの瞳を見つめて、心の底から告白する。



「葉月。愛してる」


「ひぅっ!?」



 ポフンと爆発的に顔を真っ赤にさせた後輩ちゃんが、胸を押さえて倒れ込んだ。ビクビクと身体を震わせている。


 はい。俺の勝ち!



「後輩ちゃんの負けだぞ」


「くっ………私の予想の一億倍くらい恥ずかしかったです。これはとても危険ですね」


「それほどなの、妹ちゃん?」


「ゲームを始めたことを少し後悔してきました…」


「ゴクリ…」



 桜先生が期待と恐怖で唾を飲み込み、後輩ちゃんはヨロヨロと起き上がった。まだギブアップはしないらしい。


 後輩ちゃんが一敗でゲームはまだ続く。誰かがギブアップするまで続くらしい。


 じゃんけんをすると、言うのは俺になって、耐えるのは桜先生になった。


 さっきと同様に、桜先生の瞳を見つめて言う。



「姉さん。愛してる」


「ひゃぅっ!?」



 爆発的に顔を真っ赤にした桜先生が、豊満な胸を押さえて倒れ込んだ。でも、すぐにヨロヨロと起き上がる。



「こ、これは危険ね……で、でも、もう一回言って…?」


「愛してる」


「はぅっ!? …………もう何度か」


「愛してる。愛してる。姉さん、大好きだぞ」


「あぅっ………もう幸せよぉ…」



 桜先生が今度こそバタリと倒れた。顔が幸せそうにトロットロに蕩けている。余程嬉しかったらしい。時々ビクビクと痙攣している。これって大丈夫なのか?



「むぅっ! お姉ちゃんだけずるいです! 彼女である私にももっと愛の言葉をください!」



 後輩ちゃんの可愛い嫉妬だ。プクッと頬を膨らませて、俺の服をクイクイっと引っ張っている。


 俺は悪戯心が湧き上がった。決して、いつも揶揄われている仕返しをしようだなんて思っていない。思ってなんかいないからな!


 後輩ちゃんの顎の下に手を添える。そして、クイっと少し上げた。所謂顎クイだ。


 息が混じり合うほどの超至近距離で後輩ちゃんを見つめる。



「葉月は可愛いなぁ。そんなところも大好きだよ」



 止めとして、軽くチュッとキスをしてみた。



「あぅあぅ…」



 後輩ちゃんは顔を真っ赤にして、口をパクパク動かすだけだ。気絶はしないけど、脳の容量をオーバーしてしまったみたい。


 少しはやり返せたかな? やり返せたならいいけど。


 うぅ~とっても恥ずかしい! 何で俺はこんな臭いセリフを言ってるんだろう? 穴があったら入りたい!


 俺は近くにあったクッションで赤くなった顔を隠した。


 部屋の中はカオスな状況。俺はクッションで顔を隠して恥ずかしさで悶え、後輩ちゃんは座ったまま幸せそうにポカーンとしている。桜先生はビクビクと倒れ込んでいる。


 愛してるゲームは二度と俺たちがしてはいけない。超危険なゲームだとわかった。下手をすれば死人が出る。


 俺たちの初めての愛してるゲームは、悲惨な結果を残して、たった数回で終わるのだった。



















<おまけ>


 固まっていた後輩ちゃんと桜先生が動き出した。



「おっ? 後輩ちゃんも姉さんも復活したのか?」


「な、何とか」


「昇天しそうだったわ…」


「そ、そうか。俺は後から猛烈に恥ずかしくなって死にそうだった」


「ちっ! 素の先輩を愛でられなかったのは残念です…。ですが、先輩はまだ耐える側を経験していませんよね?」



 後輩ちゃんが輝く笑顔でニコッと笑って言った。桜先生も美しい笑顔を浮かべる。


 何故か俺の直感が警報を放つ。猛烈な危険が迫っている。死の気配がする。


 背中に冷や汗がドバドバと流れ始めた。



「そ、そうだが、危険だからこのゲームは止めた方がいいかと…」



 俺は言葉の途中で後輩ちゃんと桜先生に抱きつかれて押し倒された。


 スッと両側の耳元で熱い吐息を吹きかけられながら、甘い声で囁かれる。



「先輩。愛してます」


「弟くん。愛してるわ」



 その日、俺は死んだ…。


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