第249話 お腹が痛い後輩ちゃん
「あぅ……おにゃかが…いちゃい…」
「うぅ…あぅち…」
ウチの女性陣がベッドの上でお腹がを押さえながらぐてーっと脱力している。いつも元気なのにとても弱々しい。時々顔が苦悶で歪む。
俺はそんな二人を甲斐甲斐しく世話をする。
後輩ちゃんが薄っすらと目を開けて手を挙げた。
「しぇんぱい…喉乾きました」
「はいはい。お湯のほうがいいかな?」
「そうですね。お願いしまーす」
「あぁ…お姉ちゃんにも…」
「りょうかーい! ちょっと待っててくださいな」
俺はキッチンに行って、お湯を沸かし、少し熱いお湯を用意して、寝室のベッドの上で苦しむ二人へ持っていく。
後輩ちゃんと桜先生は少しフーフーして、ゆっくりとお湯を飲んだ。喉が艶めかしく上下する。はふぅー、と声を上げるのがとても可愛い。
別に二人は病気ではない。女性が毎月経験する女の子の日なのだ。今日は特に酷いらしい。お腹が痛くて、身体が怠くて、身動きすらしたくないらしい。
男の俺には全然わからない。痛みを理解してあげられない。俺にできることとは二人のサポートをすることだけだ。
二人からコップを受け取って、手を繋いであげる。
「うへぇ~」
「ぼえぇ~」
後輩ちゃんと桜先生がベッドをポンポンと叩いた。どうやら、二人の間に来い、ということらしい。
可愛らしい彼女と姉のご命令だ。素直に従いましょう。
ベッドに寝転がろうと思ったが、フルフルと首を横に振られた。座ったら、うんうんと頷かれた。座るのが正解だったようだ。
二人が俺の手を握って、自分のお腹に誘導させる。なるほど。お腹をナデナデしてほしいということですか。ナデナデすると、二人の顔から険しさが薄れた。
「痛いの痛いの飛んでけ~!」
「うぅ…本当に飛んで行って欲しいです。いちゃい…。でも、先輩のナデナデは気持ちいいです…」
「本当ね。薬よりも効くかも…」
女性は大変だなぁ。なんか男で申し訳ない。
ナデナデを続けていると、だんだんと痛みが無くなっていったようだ。二人の顔が気持ちよさそうに蕩けている。
俺は二人に手を重ねられながら、気持ちの良いお腹を撫で続ける。
「偶に酷いのがくるのよね…」
「だねぇ」
「わかってあげられなくてごめんな」
「先輩が謝ることじゃないですよ。これは仕方がないことです。先輩が理解してくれているので、私たちは本当に助かってます」
「うふふ…時々演技をして弟くんに甘えていたりして…」
桜先生が悪戯っぽい笑顔を浮かべて冗談を言ったので、人差し指でお腹をポンポンと叩いてあげる。
「別に演技しなくても、甘えたいときは甘えていいんだぞ?」
「じゃあ、甘えまーす」
「お姉ちゃんも!」
二人が密着してきた。気持ちよさそうなので二人の好きにさせる。
しばらく撫で続けていると、突然、後輩ちゃんがムクリと起き上がった。
「赤いバラを摘みに行ってきます」
「「行っといれ~!」」
赤いバラなんて言う必要ないんだけどな。俺と桜先生は後輩ちゃんに手を振って見送った。
ぐてーっと脱力する桜先生のお腹を撫でる。今日は身体が冷えないように普通に服を着ている。
「女性って大変なんだな」
「大変よ~。もう十数年経つから慣れたけどね。閉経まで付き合わないといけないのよ」
「なんで男はないんだろうな」
「子供を産まないからよ。それしかないわ。生理痛は出産の痛みに慣れるために起きてるのよ」
「そうなの!?」
「って、お姉ちゃんは思ってるわ!」
桜先生の自論かよ! まあ、間違いじゃなさそうだけど。出産の時は壮絶な痛みらしいからな。握っていた旦那さんの指を骨折させたという話もあるらしいし。
桜先生がポンっと手を打った。
「そうよ! 子供ができたら生理は止まるわ! というわけで、弟くん、赤ちゃん作りましょ!」
「意味わかんねぇーよ! そんな理由で子供を作りたくない!」
「えぇー! お姉ちゃんは三十歳だし、こう見えて焦ってるのよ。弟くん、頑張りましょ!」
「止めろ、男性経験皆無のポンコツ姉! 俺以外の男を選ぶという選択肢は…」
「ない!」
言い切りやがったぞ。こんな人が教師をやってて大丈夫なのか?
常識がぶっ壊れてる姉を何とかしようと思っていたら、後輩ちゃんが戻ってきた。
ベッドの上にゴロンと横になり、俺の手を掴んで自らのお腹に誘導する。
「何の話をしてたんですか?」
「妊娠したら生理痛が無くなるから、子供を作りましょって話!」
「なるほど! その手がありましたか!」
おいコラ。なるほどじゃない。納得するな。
なんで二人はこうも常識がぶっ壊れてるのだろう。どうにかしてくれ。
「でも、そしたら俺がこうやってナデナデするのもなくなるな」
「はっ!? なん…ですと!?」
「それは嫌! 痛いけど、このままが良い! というか、弟くんが撫でてくれるから痛みも吹っ飛ぶ!」
二人が単純で良かった。もし二人に子供ができたら、俺はもっと二人のお腹を触ると思うぞ。赤ちゃん言葉で、可愛いでちゅね、って言いそう。いや、絶対言う。
…………んっ? 何故俺は自然と桜先生まで含めてしまった? 何故想像してしまったのだ?
しっかりしろ、俺! 彼女は後輩ちゃんだけだ! 二人に毒されるな! 俺の常識はまだぶっ壊れていない! 罅が入っているだけだ! 修復可能なんだ!
俺は二人のお腹をナデナデしながら、自分自身に言い聞かせるのだった。
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