第246話 ジャージと後輩ちゃん

 

 後輩ちゃんと桜先生が、左右からユラユラと揺らしてくる。まるでかまってちゃんのよう。いや、二人はかまってちゃんですけど!



「先輩。いい加減に機嫌を直してくださいよぉ~」


「ぷいっ!」


「お姉ちゃんたち、反省してるからぁ~」


「ぷいっ!」



 俺は今、ものすっごく拗ねている。理由は、今日の放課後に行われた文化祭のサイズ合わせである出来事が起こったからだ。


 別に衣装合わせだけなら俺は怒らないし拗ねない。そういう要素もない。でも、あろうことかこの二人は、クラスの女子たちと一緒にあんなことをしてきたんだ! 俺は恥ずかしかったんだぞ! 詳しい内容は忘却の彼方へ吹っ飛ばしたけど!


 だから、俺はずっと怒っていますよアピールをしている。実際は怒っていません。でも、アピールすることが大切なのだ。後輩ちゃんと桜先生には調子に乗ったことを反省してほしい。


 俺は後輩ちゃんと桜先生から顔を背ける。



「ぷいっ!」


「ぐはっ!? 拗ねてる先輩が猛烈に可愛いです…♡」


「ぐふっ!? 弟くんはお姉ちゃんたちをキュン死させるつもりなの…?」



 後輩ちゃんと桜先生は全く反省する様子はなく、むしろ俺が拗ねている様子をトロ~ンとした瞳で愛でている。表情はうっとり。今にも鼻血を噴き出しそう。胸を撃ち抜かれたようで、プルプル震えながら手で押さえている。


 くそう! これなら、夕食のミートボールの数を減らした時のほうが反省していたぞ! あの時は、この世の終わり、みたいな絶望をしていたじゃないか! 今にも泣きそうで謝り倒してきたじゃないか!


 …………二人に弱い俺は結局ミートボールをあげましたけど。


 こうなったら、明日はおかずを減らしてやろうかな?


 俺が心の中で思った瞬間、後輩ちゃんと桜先生がビクッと身体を震わせる。



「せ、先輩? 今、何か考えませんでしたか?」


「お姉ちゃんたちへのお仕置き、的な何かを!」


「なんのことかな~? 俺は明日の二人のおかずを減らそうかなぁ~、なんて全く思ってないよ? 本当だよ?」



 後輩ちゃんと桜先生の顔が真っ青になる。ガクガクと震えながら、二人が縋りついてくる。



「ごめんなさい。先輩ごめんなさい! 反省しますからそれだけは勘弁してください!」


「弟くんの料理を減らされたら、お姉ちゃんたち泣いちゃう! 泣いちゃうんだからぁ! ごめんなさぁ~い」



 ふむふむ。二人にはこれが一番効くのか。良いことを知った。


 小説では可愛いヒロインが主人公の胃袋を掴むって展開が多いけど、ウチでは反対だな。後輩ちゃんと桜先生は料理できない。俺、二人の胃袋を掴みすぎじゃないか?


 二人は俺がいなかったら生活……できないな。うん、明らかにできないな。家事もできないし。危なっかしくて俺が見守ってあげなきゃ!


 泣き出しそうなくらい反省しているので、二人の頭をナデナデしてあげる。



「わかったよ。次からは気をつけるよーに!」


「「はい!」」



 相変わらずいい返事だ。もっとナデナデしてあげよう。



「「(ふふふ…チョロい)」」


「何か言った?」


「「言ってません!」」



 そうか。それならいいんだ。二人がボソッと何か言った気がしたんだが、全部気のせいだったようだ。


 俺は、擦り寄ってくる子猫の後輩ちゃんと子犬の桜先生の頭を撫で続ける。二人の頭にはピクピク動くケモミミが、お尻の辺りにはユラユラしたりブンブンしている尻尾が見える。幻なのだが、ふむ、可愛い。似合うぞ。


 優しくナデナデしながら、俺はずっと気になっていたことを聞いてみる。



「なあ? なんで二人はジャージ姿なんだ?」



 そう。後輩ちゃんと桜先生はジャージを着ているのだ。


 後輩ちゃんは桜先生から借りたらしい。少しダボダボ。でも、上手く着こなすのは流石後輩ちゃんだ。


 桜先生のジャージ姿は何気に久しぶりだ。最近は部屋着を着るか、下着姿か、全裸だったから。ちょっと懐かしい。


 後輩ちゃんと桜先生が、ジャージのチャックをゆっくりと降ろしていく。何故だっ!?



「偶にはジャージ姿というのもいいかと…新鮮じゃありませんか?」


「うふふ。どう? どう? お姉ちゃんたち可愛いでしょ~」


「確かに新鮮で可愛いよ」



 ちょっと悪戯心を発揮して、二人の耳元で囁いてみた。ポフンと顔を爆発的に赤らめる二人。すぐにペチペチと叩いて抗議してくる。



「不意打ちは卑怯だと思います!」


「そうよそうよ! お姉ちゃんたちは弟くんに対してチョロいの! チョロインなのぉ~!」



 うん、それは知ってる。だから、囁いてみました。可愛い反応をありがとうございます。実に眼福です。


 潤んだ瞳でムスッと拗ねた姉妹が、妖艶に微笑んで俺に仕返しをしてくる。再びゆっくりとチャックを下げ始める。二人の谷間に視線が吸い寄せられる…。



「うふふ。せんぱぁ~い♡」


「お姉ちゃんたち、今日は下着つけてないの…」


「今日は? 今日も、の間違いじゃないかな? さっさとつけて来なさーい!」



 予想していた反応と違ったのか、後輩ちゃんと桜先生が首をかしげる。



「あ、あれっ? ここで思いっきり動揺する先輩を愛でるつもりだったのに」


「なんでっ!? 弟くん、熱でもある?」



 いやいや。熱はないから。身体のあちこちをペタペタ触らなくても熱なんかありませんから。


 動揺ねぇ…。昔はしたかもしれないけどねぇ。最近は……。



「家の中では姉さんは週のほとんどノーブラだからね。またか、ということしか思いません。後輩ちゃんも時々ノーブラだし…」



 と言いつつも、心の中では猛烈に焦っております。興奮しております!


 超絶可愛い美女と絶世の美女だぞ! 慣れるわけがないだろうが! 毎日毎日大変なんだよ! 何度襲おうと思ったことか! 理性がガリガリと削られるんだよ! 本当に止めてくれ!


 おかげで、表面上は平静を取り繕うというスキルを身につけられました。社会に出た時に役に立つかも。


 その分、心の中には悶々とした気持ちが溜まっていきます。


 後輩ちゃんはバッと両胸を抱きかかえ、恥ずかしそうに俺から距離を取る。



「なっ! なぁっ!? と、ということは、服の上から丸わかりだったりして…」



 俺は返事をせず、ただただスゥッと顔を逸らす。後輩ちゃんはそれだけで理解したようだ。その様子だと、わざと見せているんじゃなかったんだな。後輩ちゃんがわざとしているんだと思っていました。



「しぇ、しぇんぱいのばかぁ~! あほぉ~! へたれ~!」



 後輩ちゃんは俺に抱きついてきて、顔を俺の身体に押し付けて隠しながらポコポコと叩いてくる。とても可愛い。


 桜先生は自分の大きな両胸を持ち上げて、何やら悔やんでいる。



「くっ! やはり失敗だったわね。『ギャップで弟くんの理性をぶっ壊しちゃうゾ♡大作戦』のほうがいいみたいね。桜美緒! 脱ぐのを我慢して頑張るのよ!」



 ジャージのチャックを一番上まで上げて、うおぉおおお、と何故かやる気に満ち溢れている桜先生。いや、この場合はヤル気だな。このとてもとても残念でポンコツな姉は大丈夫なのだろうか?


 作戦名が既にポンコツ感が凄い。でも、いざやられたら危ないかもしれない。頑張れ、俺の理性!



「しぇんぱいのあほぉ~! へたれ~! だいしゅきぃ~!」


「弟くぅ~ん! お姉ちゃんも大好きよぉ~!」



 桜先生は普段と変わらないじゃねぇか、というツッコミを入れたくなったけれど、二人が可愛いのでギュッと抱きしめてナデナデする。


 後輩ちゃん。桜先生。俺も大好きだぞぉ~!




 …………あれっ? 何やら二人に毒されている気が…まあ、いっか!


 二人のことが大好きな気持ちは変わらない!


 俺はジャージ姿の愛しい恋人と姉をずっとナデナデし続けるのだった。



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