第236話 離れない後輩ちゃん

 

「弟くん、妹ちゃん! 聞いたわよ!」



 帰ってきた桜先生が開口一番にそう言った。綺麗な瞳がキラキラと輝いている。


 桜先生がリビングについたときには、もう既に下着姿だった。洗面所で手洗いうがいをし、廊下でスポーンと服を脱ぎ棄て、過激な下着姿で駆け寄ってくる。


 大きな胸がパインバインと跳ねている。谷間が凄い。


 桜先生はあられもない姿のまま、座っていた俺と後輩ちゃんをまとめて抱きしめた。柔らかな素肌の感触が直に伝わってくる。大人の色気がムンムンの豊満ボディ。ふわっと甘い香りが漂う。



「一体何を聞いたんだ?」



 大きな胸を顔にむにょんむにょん押し付けられながら、質問してみた。


 おぉ…温かくて柔らかい。至福の感触だ。おっと。いけないいけない。俺のお年頃の心が前に出てしまった。


 桜先生がニヤニヤと悪戯っぽく微笑を浮かべる。



「お昼休みの出来事って言ったらわかるかしら? 職員室でも話題になっていたわよ」


「うげっ。先生たちにまで伝わってるのかよ」



 昼休みの出来事と言ったら、惚屋とのいざこざだったり、俺がキレた出来事のはずだ。惚屋は気絶して保健室に運ばれ、クラスメイト達は腰を抜かして立てない。後輩ちゃんは俺から離れない。いろいろと大騒ぎになった。


 よく考えたら先生たちに伝わって当然だな。放課後までには学校中に広まっていたみたいだし。



「伝説ができたって先生たちはこの話で持ちきりだったわよ」


「伝説って…」


「色恋沙汰で噂になってた転校生と、学校一のバカ夫婦の修羅場。語り継ぐべき伝説よ! お姉ちゃんは鼻が高かったわ!」


「止めてくれ…」



 明日学校に行きたくないなぁ。休もうかなぁ。


 というか、鼻が高いってどういうことだよ。どこに誇らしい要素があった? どこにもないだろ!


 桜先生は豊満な身体で、むぎゅむぎゅと抱きしてくる。ブラがずれてるからどうにかしてくれ!



「妹ちゃんは嫉妬して弟くんに抱きついて離れないの?」


「そういうこと」



 俺と桜先生は、会話に一切参加せず、ただひたすら俺に抱きついている後輩ちゃんに目をやる。脚まで絡めて俺の身体に抱きつく後輩ちゃん。首筋に顔を埋めて匂いを嗅いだり熱い吐息を吹きかけてくる。ちょっとくすぐったい。



「うぅ~~~~~~! 先輩は私の~! うぅ~~~~~~!」



 可愛らしく唸り声を上げている。時々、カプカプと首筋を甘噛みされる。


 歯形が残らないといいけど。



「ずっとこんな感じなんだ」


「妹ちゃん可愛いわね」


「可愛いな」


「うぅ~~~~~~!」



 俺と桜先生は後輩ちゃんをひたすら愛でる。俺も後輩ちゃんを抱きしめ返し、桜先生は二人丸ごと抱きしめる。



「………姉さん。そろそろ服を着てくれ」


「えぇー! 嫌ぁー! この開放感が堪らないの! 本当は下着も脱ぎたい」



 残念なポンコツの姉め! 裸族か! 出会った当初はちゃんと服を着てたでしょ!


 この残念な姉には普通の言葉は通じない。どうにかやって服を着せるように誘導しなければならない。



「なあ姉さん、知ってるか? 男っていうのは、見えそうで見えないことに興奮するんだぞ。他にはチラチラ僅かに見えることとか」


「それがどうかしたの?」



 桜先生が可愛らしくキョトンと首をかしげた。


 よし、話に興味を持ったな。あとは上手く誘導するだけだ。



「スカートの奥の下着が見えそうで見えない。服の僅かな隙間から見える胸の谷間やブラ。そういうものに男心をくすぐられるんだ」


「ふむふむ」


「では姉さん。今の自分の姿を見下ろしてください」



 俺の言葉に従って、桜先生が自分の身体を見下ろす。過激な下着しか身につけていない下着姿。ブラはズレて下着の役割を果たしていない。ほとんど全裸状態の丸見えの姿だ。


 キョトンしていた桜先生がポムっと手を打った。同時に胸もポヨンと跳ねる。



「おぉ! 丸見えね! これだと逆にダメなのね。普段は服を着て、チラ見せしながら弟くんを悶々とさせ、時々バスタオル姿でバーンッと登場して理性をぶっ壊す、とかが良いってことね! なるほど」


「ご理解頂けて何より」


「じゃあ、お洋服着てくるわねー!」



 よっしゃー! 誘導成功! これで洋服を着てくれるに違いない!


 桜先生はご機嫌になって、洋服を着るために部屋に消えていった。


 でも、待てよ。桜先生が言ったことをしたら、俺の理性はどうなる? 俺、不意打ちに弱いんだけど。絶世の美女が誘惑して来たら耐えられる自信ないんだけど!


 選択をミスったかもしれないな。頑張れ、未来の俺!


 全てを未来の自分に丸投げし、今は現実のことだけを考えよう。


 ずっと唸り声を上げて抱きついている後輩ちゃんに声をかける。



「後輩ちゃん? そろそろご飯だから少し離れてくれませんか?」


「うぅ~~~~~~! 嫌です!」


「ちょっとだけ。ほんのちょこっとだけでいいから」


「うぅ~~~~~~! ちょっとだけですからね」



 渋々後輩ちゃんが離れてくれた。でも、完全に離れたわけではなく、俺の腕にギュッとしがみついてくる。ギリギリまで離れないつもりらしい。


 可愛いのでそのままにさせる。スリスリと頬擦りする後輩ちゃんは子猫のようだ。



「うぅ~~~~~~!」


「はいはい。今日は好きなだけくっついていいから」


「うぅ~~~~~~! ずっとくっつきます。トイレの時も!」


「ごめん。トイレの時だけは離れてくれ」



 後輩ちゃんは本気だ。この様子だと本当にトイレの時も離れないだろう。


 俺は後輩ちゃんにくっつかれたまま、夕食の準備をし始める。


 その後、俺のTシャツを着て、俺が今日着た制服の白シャツを羽織り、短パンを穿いたノーブラの桜先生が登場して、頭を抱えることになったのは別のお話し。


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