第229話 慰めと後輩ちゃん

 

 帰宅した俺はすることがたくさんある。


 まず、スポーンっと脱ぎ散らかした後輩ちゃんの制服をハンガーにかける。次に、干していた洗濯物を取り入れ、畳む。


 かまってちゃんの後輩ちゃんをナデナデしたり、勝手に抱きつかれながら夕食の準備を行う。ほとんど作り終わったら、お風呂を洗う。


 それくらいしたら桜先生が帰宅するから、スポーンっと脱ぎ散らかした桜先生のスーツをハンガーにかけ、三人で仲良く食べさせ合いっこをしながら夕食を食べる。


 後輩ちゃんと桜先生が満腹で幸せそうにだらけている間にお風呂にお湯を入れ、湯船に溜まるまでの間に食器を洗う。


 お茶を飲んだりしながらまったりし、お風呂に入る。最近は、二人が突撃してくるから大変だ。もう諦めかけている。


 頑張れ、俺の理性!


 お湯と興奮で身体を火照らせ、ぐったりと疲れながら就寝前のまったりタイムに突入する。この間に、髪を乾かしたり、歯磨きを済ませたりする。


 明日の準備なども早々に終わらせ、余程のことが無い限り、毎日この団欒の時間を過ごす。


 現在は、後輩ちゃんが嬉しそうに俺に抱きついて子猫のようにスリスリしている。そんな可愛い後輩ちゃんを俺は優しくナデナデする。とても癒される光景だ。


 今日は俺の背もたれが桜先生の背中だ。お互いにもたれかかって背もたれになっている。


 そして、桜先生は堂々とエロ漫画…(桜先生曰く、学術的見地に基づく知的好奇心を満たす学術論文)…を読んでいる。


 時折漏らす声はとても色気がある。息遣いもなんかエロい。



「しぇんぱ~い! えへへ~♪」



 グリグリと顔を押し付けて気持ちよさそうな後輩ちゃん。いつにも増して嬉しそうだ。


 くっ! なんだこの可愛い生き物は! もっと撫でてあげよう!


 ナデナデすると後輩ちゃんは可愛くなる。だからナデナデする。すると、もっと可愛くなる。だからナデナデする。


 無限ループの完成だ。



「妹ちゃん? どうしたの? 良いことでもあった?」


「えへへ~♪ 何もないよ~! 先輩がかまってくれるのが嬉しいだけ~!」



 くっ! 可愛いことを言ってくれるじゃないか! ナデナデスペシャルをしてあげよう!


 うりうり~、と子猫を可愛がるように撫でまくる俺。とても癒される。


 気持ちよさそうに目をトロ~ンとさせた後輩ちゃんが俺の身体をペチペチと叩きだす。



「でも、お姉ちゃん聞いて! 先輩ったら酷いの! 彼女である私とお買い物、どっちが大事かって質問したら、即答でお買い物って言ったんだよ! 酷くない?」


「それは酷いわ! 弟くんサイテー!」


「でしょでしょ! 先輩最低です! だから、超絶可愛い彼女である私を可愛がれー!」


「はいはい」



 だから可愛がっているじゃありませんか。じゃあ、ナデナデスペシャルからナデナデデラックスに変更しましょう。なでなで~!


 後輩ちゃんは至福の表情で目を瞑った。すっかりナデナデの虜になったようだ。


 背後の桜先生から小さくブツブツと、弟くん最低、と何度も呟かれている。


 地味に傷つくから止めてくれないかな?



「姉さん、質問です。このままだと明日の夕食…いや、お昼ご飯すらないかもしれません。その状況なら、後輩ちゃんと買い物、どっちが大事ですか?」


「もちろんお買い物よ!」


「お姉ちゃん酷い!」



 即座に断言した桜先生の答えを聞いて、後輩ちゃんがガバっと顔を上げ、ガビーンとショックを受ける………演技をする。


 エロ本をパタンと閉じた桜先生が必死で言い訳をする。



「い、妹ちゃん違うの! もちろん妹ちゃんのほうが大事よ! でも、その状況ならお買い物を優先しないといけないの。弟くんのご飯が食べられないなんて、世界が崩壊するのと同じレベルの出来事なのよ!」



 流石にそれほど重要な出来事じゃないと思うんだが、後輩ちゃんは同意見のようで、深く納得して頷いている。



「その気持ちはわかるけど…私の繊細なステンドグラスの心がパリーンッと割れるかと思ったよ!」



 割れてないのね。意外と頑丈そう。それに、後輩ちゃんの心はステンドグラスなんだ。とても綺麗な心をしている。



「傷ついた私を可愛がって慰めるのだー!」



 あっ…後輩ちゃんが俺から離れて桜先生に抱きつきに行った。俺の癒しがいなくなった…。


 俺の背中に少し体重がかかる。桜先生が後輩ちゃんを受け止めて、優しくナデナデし始めたようだ。


 チラッと後ろを眺めたら、仲の良い姉妹がいた。とてもほのぼのとする光景だ。



「よしよし。妹ちゃんは可愛いわねぇ」


「うへへ~。先輩とは違った包容力があって気持ちいいですぅ~」



 桜先生は俺と違って柔らかいからなぁ。気持ちいいのはよく理解できる。


 後輩ちゃんを愛おしそうに撫でながら、桜先生が聞いてはいけない質問をしてしまった。



「弟くんのナデナデと、お姉ちゃんのナデナデはどっちが気持ちいい?」


「先輩のナデナデ!」



 一瞬の間もなく、刹那の時間で即答をする正直な後輩ちゃん。桜先生の顔がピシーンと凍り付いた。傷ついた桜先生はぐったりと脱力して、俺にもたれかかってくる。



「ぐはっ! お姉ちゃんの切子グラスの心が砕け散ったわ!」


「お、お姉ちゃ~ん! しっかりして~!」



 べたな茶番を繰り広げる後輩ちゃんと桜先生。実に仲がいい姉妹だ。


 というか、後輩ちゃんの心はステンドグラスで桜先生の心は切子グラスなのか。とても綺麗なんだなぁ。心の綺麗さが外見にまで影響を及ぼしているのか? でも、部屋は汚すよな…。あまり深く考えないようにしよう。


 ウルウルと涙目の桜先生が俺に縋りついてきた。



「弟く~ん! 妹ちゃんが酷いの~! お姉ちゃんを慰めて~!」


「はいはい」



 俺は体勢を変えて、泣きそうな演技をしている桜先生にナデナデデラックスを施す。一瞬でへにゃりと気持ちよさそうに頬が緩んだ。


 緩みすぎて涎が垂れそうなので、口元は引き締めておいてください。お願いします。



「あぁー! ずるーい! 先輩、私も私も!」


「はいはい」



 超絶可愛い彼女さんのおねだりだ。喜んでナデナデしてあげよう。


 後輩ちゃんもすぐにトロ~ンと蕩けた笑顔になる。顔も言葉もへにゃへにゃになるのが可愛い。



「えへへ♪」


「うふふ♪」



 俺は二人が満足するまでずっとナデナデを続けるのだった。


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