第225話 疲れが増すお風呂と後輩ちゃん
お風呂。それは俺にとって温かいお湯で心と体を癒す行為である。
ゆっくりとお湯に身をゆだね、脱力するのは至福の時間である。
今朝、妹の楓が襲来したことで俺は猛烈に疲れ果てていた。
俺の黒歴史を語るぞ、と脅され、仕方なく根掘り葉掘り、じっくりねっとり生々しく旅行のことを聞き出され、俺の精神が疲れ果ててしまったのだ。
それに加え、今日は泊まると突然宣告され、俺は絶望した。
この疲れきった体と心をお風呂で癒そうと思っていた。思っていたのだ。
でも、そうはいかなかった。何故なら、俺は水着を着た女性陣三人とお風呂に入っているからだ!
お湯に浸かってゆっくりすることもできず、脱力することもできない。膝を曲げて身体をできるだけ小さくし、ぎゅうぎゅう詰めの状態だ。
お隣の後輩ちゃんと濡れた素肌が触れ合って、ちょっとドキドキしている。
「いやーお風呂って気持ちいいね。お兄ちゃんと久しぶりにお風呂に入ったかも」
「あら、そうなの? お姉ちゃんたちは最近よく一緒に入っているわよ」
「へぇー! でも、水着着てるんでしょ?」
「そうね。裸になると弟くんがうるさいの」
「お兄ちゃんはヘタレだねぇ」
「ヘタレよねぇ。でも、一緒に入るだけで楽しいわ!」
ビキニを着た桜先生と妹の楓は浴槽に入れないため、縁に座って足湯状態で温まりながら談笑している。
同じくビキニを着た後輩ちゃんが恥ずかしさやお湯の温かさで身体をピンク色に火照らせ、窮屈そうに身体をもぞもぞと動かす。
「ちょっと先輩! もうちょっとそっちに行ってください!」
「隣の姉さんがいるんだよ!」
桜先生が綺麗な脚で俺の身体をグイグイと押してくる。浴槽の中に座っている俺から、桜先生の太ももの付け根、正確には股が見えてしまい、非常に目のやり場に困る。
水着を着ているとはいえ、際どい光景で興奮を覚え、イケナイ気持ちになってしまう。
男と言う生き物は、好きな女性以外でも興奮を覚えてしまう生き物なのだ。
別に桜先生のことが嫌いなわけではない。家族として、姉として大好きだ。
でも、家族愛を抱いている桜先生に興奮してしまうと、恋愛として好きな後輩ちゃんに罪悪感と言うか、申し訳ない気持ちになってしまう。
まあ、桜先生も混ざって、後輩ちゃんと一緒にあんなことやこんなことをしてくるから今更かもしれないが。
「姉さん!」
「楓ちゃん!」
「「押さないで!」」
「うわぁお! 息ぴったり!」
「弟くんと妹ちゃんは本当に仲良しねぇ」
うっさい! だから足でグイグイ押してくるな!
今、顔が熱いのは決して恥ずかしさによるものではない。後輩ちゃんと顔を見合わせて、ぎこちなく視線を逸らしたせいではない。後輩ちゃんの顔が赤いのも、この身体の熱さもお湯によるものだ。
俺たちを見て、ニヤリと笑ったお節介な二人がより一層グイグイと押す。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
ドンッと勢いよく押された俺たちは体勢を崩す。
バランスを取ろうとした俺の腕が、お湯によってスルッとある場所に入り込み、柔らかいものに挟まれた。手のひらに柔らかいものや水着の布を感じる。
恐る恐る確認すると、俺の手が後輩ちゃんの太ももの間に挟み込まれていた。
びっくりした後輩ちゃんが脚をぎゅっと閉じたため、俺の手が抜けない。後輩ちゃんの際どい所に触れてしまっている。
そんな後輩ちゃんの手も俺の太ももの間に滑り込んでいる。お互いの手がお互いの太ももに挟まれた。
「こ、こここここ後輩ちゃん!?」
「な、ななななななんですか先輩!?」
「手、手が!?」
「わ、わかってますよ! 動かさないでください! 絶対に動かさないでくださいね! 動かしちゃダメですからね!」
これはフリなのか?、と考える余裕は今の俺にはない。突然の驚きや極度の興奮や困惑で頭の中がぐちゃぐちゃだ。混乱しすぎてよくわからない。
俺と後輩ちゃんは慌てふためくが、身体が固まって脳の処理についていかない。
そんな様子をニヤニヤと盛大に楽しんでいる人たちがいた。すごい体勢になった俺たちを見て、もっと足で押してくる。
「そーれそーれ!」
「楓ちゃん止めて!」
「ほーれほーれ!」
「姉さん止めろ!」
「「嫌でーす!」」
桜先生と楓が仲良く同時に言った。余程楽しいらしい。ニヤニヤが止まらない。口元がだらしなく緩んでいる。
埒が明かないと判断した俺は叫ぶ。
「あぁもう! 俺はもう上がるからな!」
「ひゃぅっ!? う、動かさないでって言いましたよね!?」
「ご、ごごごごごごごめんっ!」
手を動かしてしまったことで後輩ちゃんがビクゥっと身体を震わせ、上目遣いで俺をキッと睨んでくる。身体は火照らせ、羞恥で瞳を潤ませている。
後輩ちゃんの綺麗な素肌に浮かぶ水滴。その水滴がスゥーッと肌を伝って落ちていく。
濡れた黒髪。ピンク色に火照った素肌。艶めかしい首筋と鎖骨。平均より大きな双丘。潤んだ瞳。
ドクンっと俺の心臓が飛び跳ねた。今すぐ情欲に身を任せ、押し倒したい衝動に駆られる。
「せ、先輩っ!?」
俺の際どい場所に手が入り込んでしまっている後輩ちゃんが、何かに気づいて声を上げた。活性化した部分に触れてしまっている。
もう脳の回路が焼き切れて、逆に冷静になってしまった俺は後輩ちゃんににこやかに微笑む。
「後輩ちゃん…」
「は、はいっ!?」
「ごめん。もう無理…………ぶほっ!?」
「きゃあっ!? 先輩鼻血! うわっ! ドバドバ出てます! お湯が真っ赤に染まっていきます! 大丈夫ですか! 先輩! せんぱぁ~い!」
鼻から噴水のように勢いよく鼻血を噴き出した俺。お風呂のお湯が真紅に染まる。
ぼんやりと徐々に遠のいていく俺の視界の中に、驚いて悲鳴を上げる後輩ちゃんと、慌てふためく桜先生と、呆れた顔の楓の姿が映り、視界が真っ暗になっていった。
極度の疲労と興奮と大量出血により、俺は気絶してしまうのだった。
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