第222話 ラブホの朝と後輩ちゃん

 

 心地良い温もりと甘い香りで目が覚めた。


 ここはラブホテルのベッドの上。早朝のようだ。


 バスローブのまま眠ってしまった後輩ちゃんと桜先生が、思いっきりはだけさせながら俺に絡みついてスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。


 ぼんやりと眠気が残り、再び睡魔に身をゆだねようと思っていたら、急にトイレに行きたくなる。仕方なく、二人を丁寧に引きはがす。


 おいおい。視線のやり場に困るんだが! 桜先生はもうバスローブを着ていると言っていいのかわからないくらいはだけている。胸は全開。お尻も全開。超エロい。


 というか、下着つけてなかったのかよ! お願いだからつけてくれ!


 ちょっと桜先生の服を直して、今度は後輩ちゃんに視線をやる。


 ぐふっ! こ、これはいろいろとヤバい…。鼻血が噴き出しそうだ。


 後輩ちゃんは桜先生よりはマシだったが、はだけた胸元から谷間が見えている。ブラは付けていなさそうだ。バスローブの裾は捲れ上がり、綺麗な素足がギリギリのところまで見えている。非常に眼福だ。


 理性が崩壊しそう。脳みそが熱暴走してショートしそう。欲望が暴れ出しそう!


 頑張れ俺! 今は我慢するんだ! 寝込みを襲うなんて最低だぞ!


 こういう時は、桜先生を見るんだ!


 煩悩を消すために桜先生をじっと眺める。むにゃむにゃと寝ている桜先生が、こういう時に限ってゴロンと寝返りをする。折角直したバスローブがはだけ、胸も股も全開になる桜先生。


 あぁー。うん…。興奮するけど、何だろうこの安心感。この姉のポンコツ感と残念さが興奮を上回ってくる。


 ダメダメな妹を世話する気持ちで、再び服を直してあげて俺はトイレへと向かった。


 スッキリした気分で手を洗い、ベッドへと戻る。


 昨夜のホラー映画鑑賞のおかげで、まだ少ししか寝ていない。普段後輩ちゃんが持ってくる映画よりも優しい内容だったけど、俺には十分怖かったです。


 特に、『トンネルを抜けると雪国……に雪がありませんでした!』というタイトルの映画が一番怖かった。


 最初は全然怖くなかったんだよ。男性と雪女の激しく燃え上がる恋。でも、彼氏にとってはただの遊びだった。別に本命の彼女がいて、他にも遊び相手が大勢いたらしい。


 捨てられた雪女は雪を降らせず、村へと復讐に行きそこで猟奇的な殺人事件を…………目撃する。


 なんで目撃者なんだよ! 加害者でもなく、被害者でもない。なんで目撃者!? と思い、思わずお大声でツッコミを入れてしまいましたよ。


 男性と関係を持った女性たちが次々に殺されていき、最後に男の本命の女性が捕まる。それで終わったかと思うと、エンディング後の最後にまだ続きがあった。


 誰かの視点から見える刑務所の独房に入れられた女性。虚ろな瞳をした女性に氷のような冷たい声がかけられる。



『身代わりごくろうさま。私は彼と幸せになるわね。フヒッ…』



 そして、吹雪が襲う刑務所の建物が映って映画は終わる。


 ………………突然幽霊が出てくるよりも怖かったわ! こういう終わり方は嫌だ! 女性不信になりそうだよ!


 うぅ…思い出しただけで寒気がしてきた。温もりが欲しい。


 俺は後輩ちゃんと桜先生の間に潜り込もうと二人の間に座った。いざ寝転ぼうとしたとき、後輩ちゃんが俺の脚にむぎゅっと抱きついてきた。



「フヒヒッ…!」


「ひぃっ!? こ、後輩ちゃん!? ………って、寝言か」



 もうびっくりさせるなよ! ビクッとしてしまったではないか! こんなにニヤニヤして、一体どんな夢を見ているんだか。


 俺は気持ちよさそうに寝ている後輩ちゃんの頬をぷにぷにと指でつついた。後輩ちゃんはくすぐったそうにスリスリと顔を擦り付けてきた。とても可愛い。


 今度は反対の脚にとてもスベスベとした感触が伝わってきた。桜先生も俺の脚に抱きついている。ほとんど素肌で。これはまずい!



「うぅ…しぇんぱぁい…♡」


「うおっ!? そ、それはヤバいから! 本当にヤバいから!」



 寝ている後輩ちゃんが、綺麗な手で俺の太ももの内側を優しく撫でてくる。手つきがとても厭らしい。



「弟くぅん…♡」


「ね、姉さんもっ!?」



 絡みつけてきた肉付きのいい太ももをスリスリと動かしている。女性らしい柔らかな素肌が直に伝わって本当にヤバい!



「しぇんぱぁい…」


「弟くぅん…」


「うぅ…!?」


「しぇんぱぁい…むにゃむにゃ」


「弟くぅん…すやすや」


「………………………………おい。二人とも起きてるだろ」



 ビクッと身体が震えた後輩ちゃんと桜先生。素知らぬ顔で寝たふりをし続ける。


 なぁ~んかおかしいと思ったら、起きていたのか! わざとか! 危うく襲いかけるところだったぞ! 本当に止めてくれ!



「ね、寝てますよー」


「あっ! お姉ちゃん!」


「あっ!」



 流石ポンコツで残念な桜先生。パチッと目が開いた二人と目が合う。スゥーッと逸らした二人は再び目を瞑り、わかりやすい寝たふりを始める。



「ぐーぐー」


「すぴーすぴー」


「もう無駄だ! 二人とも! 何やってんだ!」


「えーっと、何って先輩を誘惑?」



 バッチリ目を開けた後輩ちゃんは、俺の脚に抱きつきながらコテンと首をかしげる。くそう! 可愛すぎる!


 桜先生も相変わらず足をスリスリさせながら、得意げにドヤ顔をする。



「弟くんも知っているでしょ? 人は恐怖を感じると生存本能を刺激されて子孫を残したくなるの! 発情するの! エロくなるの!」


「ドヤ顔で言うことじゃない!」



 俺は桜先生の頭にチョップを落とした。ゴンっという音が響き、くおぉーと頭を押さえてのたうち回る桜先生。涙目でキッと上目遣いで睨みつけてくる。



「じゃあ、学術的見地に基づく知的好奇心だから! お姉ちゃん、体育の先生だから! なら大丈夫よね!」


「ふっふっふ。私とお姉ちゃんはほぼ徹夜でテンションが崩壊しているのです! 可愛い先輩を愛でておかしくなっているのです!」


「なら寝ろ! いいから寝ろ! 俺も眠いんだから!」


「おやおや! 先輩は元気いっぱいじゃないですか!」


「弟くんは大人しくしているだけでいいのよ!」


「止めろ痴女姉妹! 俺から離れろぉぉぉおおおおおおおおお!」



 ラブホテルのベッド。ほぼ寝ていない俺たちは暴れまわり、一進一退の攻防を行う。


 その後、どうなったのかは絶対に言わない。俺たち三人だけの秘密だ。


 ぐったりと疲れ果てた俺は、肌を艶々させて大人しくなった後輩ちゃんと桜先生を抱きしめ、気持ちの良いラブホテルのベッドの上で二度寝を決め込むのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る