第219話 怠け者の後輩ちゃん
桜先生がネズ……
「弟くん!?」
おっと失礼。げっ歯類が大の苦手だと発覚してからも俺たちは動物園を散策していた。もうそろそろ動物たちも全て見終わりそうだ。
というか今、桜先生に心を読まれた? 何故わかったのだろう? 今も涙目でキッと睨まれている。
心でげっ歯類のことを考えてしまってごめんなさい。
でも、リスもダメだとは思わなかった。突然悲鳴を上げて発狂したときはびっくりした。一応リスもげっ歯類だけど…。
あっ…考えてしまった。
「ふふっ…弟くん良い度胸ね……余程お姉ちゃんのおっぱいを楽しみたいのね? 良いわよ。おっぱいパフパフしてあげるわ!」
瞳からハイライトを消し、今にも俺を抱きしめて、大きな胸で顔を塞ごうと迫ってくる。
俺は咄嗟に後輩ちゃんの陰に隠れて盾にする。窒息死したくない! 後輩ちゃん頼んだ!
ヒョコヒョコと顔を出したり、桜先生が回り込もうとしたり、俺たちは一進一退の攻防を行う。必殺後輩ちゃんバリア!
バリアと化した後輩ちゃんが呆れてため息をつく。
「はぁ…いい加減にしてください。お姉ちゃん、あとで先輩を押さえてあげるから今は我慢して」
「はーい!」
「こ、後輩ちゃん!?」
後輩ちゃんの裏切者! くっ! こうなったら後輩ちゃんも巻き込んでやる! 一緒に窒息しろ!
俺たちは仲良くふざけ合いながら歩いて行く。
おっ? 動物園の出入り口が見えてきた。ということは、次の動物で最後かな? ぐるっと一周するように回ってきたから。
丁度最後の動物の檻の前で立ち止まる。ガラス張りで中が良く見える。
熱帯雨林に生えていそうな木々が植えられている。その木々の枝にぶら~んとぶら下がっている茶色い生き物。
俺は一目見た瞬間、『あっ! 家の中の後輩ちゃんだ!』と思ってしまった。
後輩ちゃんを連想してしまった動物とは、一日の多くの時間を寝て過ごすというナマケモノだった。
「おぉ! ナマケモノです! どことなく見覚えがある気が……」
「うぅ~ん……妹ちゃんに似てる?」
可愛らしく首をかしげた桜先生が言ってしまった。俺は後輩ちゃんに失礼だと思って口には出さなかったのに。
当の本人である後輩ちゃんは全く傷つくことなく、ポンっと手を打った。
「なるほど! 道理で見覚えがあると思ったら、家の中でぐ~たらしている私か! 親近感が湧いてきました!」
ナマケモノを仲間認定したらしい。後輩ちゃんは嬉しそうだ。
家の中の後輩ちゃんはナマケモノみたいに本当にゴロゴロしている。桜先生もゴロゴロしている。
別に気にしないけど、それでいいのか? 喜んでいいのか? ぐ~たら道でも極めるつもりかな? 太るぞ?
ナマケモノは眠ったまま全然動かない。瞼すら開けない。
クリクリした瞳は可愛らしいのに、見せてくれないかなぁ? ………見せてくれないのね。はい、わかりました。残念です。
しばらく粘ってみたけど、ナマケモノは起きてくれなかった。名残惜しいけど俺たちはお別れする。
「我が同志よ! さらばです!」
後輩ちゃんが手を挙げて別れを告げたが、同志のナマケモノは全く動くことはなかった。
ぐ~たら道を極めていらっしゃる。流石だ。
こうして、動物園の中の動物を全て見ることができた。とても楽しかった。一部、思い出したくないことがあったけど。
俺たちは出入り口の門の近くの土産物を売っている店に寄って、キーホルダーとかお菓子とかを買う。
お店でカピバラのぬいぐるみを見て身体を強張らせた桜先生もいたけど、最後の最後まで楽しんだ俺たちは、荷物を持って車に向かう。
時間は午後四時くらい。一日中動物園で遊んでいたなぁ。時間が経つのは早い。
「先輩! ストォーップ!」
動物園の門を出た瞬間、後輩ちゃんが俺を呼び止めた。
何事か、と思ったら、後輩ちゃんが俺の背中に飛び乗ってきた。反射的に支えておんぶをする。後輩ちゃんの胸の感触が気持ちいい。
「ナマケモノです。ぐて~」
怠け者と化した後輩ちゃんが俺の背中で身体を脱力させている。俺の身体にスリスリと頬擦りしたり、クンクンと匂いを嗅いでいる。
後輩ちゃんは軽いし、いい香りがするし、おんぶするのはいいんだが、一つ言いたいことがある。
「後輩ちゃん……少しは力を入れてくれ。重い」
ヤバい! 思わず重いって言ってしまった! 女性には禁句なのに!
でも、背中でだらけている後輩ちゃんは気分を害した様子はなく、のんびりとした口調で言った。
「あぁ~。人って脱力すると何故か重く感じますよね。では、頑張って………とりゃっ!」
後輩ちゃんの可愛らしい掛け声があって、身体に少し力が入る。一気におんぶがしやすくなった。
この状態なら文句はありません! ゆっくりとしていてくださいな。
おんぶをしながら車に向かっていると、何やら視線を感じた。じーっと桜先生が羨ましそうに俺たちを見つめている。
「………いいなぁ」
「お姉ちゃんも先輩に抱きついたら? コアラみたいに!」
「ちょっと待って! 流石に二人同時は無理!」
「むぅ!」
桜先生が可愛らしく拗ねている。
大人の姉ですよね? やっぱりダメダメな妹の感じがする。ポンコツだ。
「先輩? 座ってたら二人同時に前後から抱きつくことも可能ですよね?」
「まあ、可能だな」
「ならお姉ちゃん! ホテルで先輩をサンドイッチしてあげましょう!」
「いいわねそれ! お姉ちゃんはそれまで我慢します! 私、大人のお姉ちゃんだから我慢できるのです! どやぁ!」
こんな普通のことでドヤ顔をされても自慢にならないんだけど。ただ可愛いだけです。それに、自分で『大人のお姉ちゃん』と言うと、ポンコツ臭がより一層感じられるのは何故だろう。
というか俺、理性大丈夫かな? 普段からよくされてますけど、あまり自信がありません。
後輩ちゃんをおんぶしたまま車に到着した。背中の後輩ちゃんをゆっくりと降ろす。
あっ。そうだった。動物園に到着して開園するまで少し休んでいたから、座席を倒したままだ。
「ちょっと歩き疲れちゃったから、横になって休んでもいい?」
ふむ。俺も疲れている。桜先生も疲れたまま運転しないほうがいいか。
俺も後輩ちゃんも頷いた。俺たちは来たときと同じようにゴロンと横になる。
「弟くん、妹ちゃん、むぎゅ~!」
俺が真ん中になって、桜先生が俺ごと後輩ちゃんを抱きしめる。
二人の柔らかさとか甘い香りとか鮮明に感じてしまい、脳が蕩けそうだ。
横になるとドッと疲れが襲ってきて、二人に癒しを求めてしまう。
ゴロンと横になり、二人を抱きしめながら思ったことがある。
桜先生、全然我慢してないじゃん! もう既にサンドイッチにされていますよ!
でも、心の中で思っただけで、お年頃の俺は美女と美少女に抱きしめられながら、しばらくの間ゆっくりと休むのであった。
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