第207話 旅行に出発する後輩ちゃん

 

 早朝五時。普段ならそろそろ起き始めて、三人分のお弁当を準備したり、朝食の準備を始める時間だが、今日は違う。いつもは可愛らしく寝ているはずの後輩ちゃんと桜先生が起きている。


 二人のお肌はツヤツヤと潤いと張りがあり、スッキリとした表情だ。それに引き換え、俺はげっそりと疲れきっている。


 朝の三時半に叩き起こされ、そのまま痴女二人にあんなことやこんなことをされて襲われたら疲れるのは当然だ。


 まあ、普段通り俺だけ一方的に襲われただけだけど。



「はぁ…先輩が可愛かったです…♡」


「弟くんったらあんな可愛い顔をして、お姉ちゃんキュンキュンしちゃった!」


「うっさい! 朝から下ネタは止めろ、エロ姉妹!」



 ニッコニッコしている淫魔二人の頭にチョップを落とす。


 くおー!と頭を抱えて悶え苦しむ二人を一瞥し、俺は部屋の最終確認を行う。



「戸締りよーし! ガスの元栓よーし! 水道の蛇口よーし!」


「お風呂場も大丈夫であります!」


「コンセントも必要ないものは抜いてありまーす!」



 チョップの痛みから解放された二人が、あちこちを確認し、可愛らしく敬礼して報告をしてくれる。


 俺も二人に敬礼をする。



「うむ。ご苦労! 忘れ物はないか?」


「「ありません!」」


「では、出発!」


「「ラジャー!」」



 朝からテンションMAXの二人が、軍隊の行進のように、イッチニッイッチニッ、と掛け声をかけながら玄関に向かう。


 俺は最後にリビングを見渡し、とあることに気づく。



「って、おいコラ! 荷物を持っていくの忘れているぞ!」



 リビングに置かれた後輩ちゃんと桜先生の荷物。


 最後の最後に荷物を忘れてどうする! 着替えとか入っているんだぞ!


 忘れてたー、という二人の声が聞こえ、パタパタと可愛らしい足音を響かせながらリビングに戻ってきた。



「いやー、すっかり忘れていましたよ」


「危ないところだったわぁ」



 えへへ、と頭を掻いて照れたように笑う二人。


 何この可愛い生き物は! 恥ずかしそうに照れて笑う笑顔が可愛すぎる!


 えっ? なに? 抱きしめてもいい? 抱きしめるよ? ぎゅってしちゃうから!



「むぎゅ~!」


「ほえっ!? せ、せせせせ先輩!? 突然何を!?」


「ひゃうっ!? お、おおおお弟くんっ!?」


「二人があまりにも可愛くって我慢ができなくなりました」



 動揺する二人をむぎゅっと抱きしめて、スリスリと頬擦りする。


 柔らかい。温かい。いい香りがする。



「そ、それは仕方がありませんね。大人しく先輩に抱きしめられておきます」


「もう! 弟くんったら! 正直者なんだから!」



 顔が真っ赤になって照れながらも、拒絶することなく俺に抱きしめられている。


 ふぅ! 俺は満足した! ちょっと名残惜しいけど二人を離す。


 二人もちょっと名残惜しそう。離れるとき一瞬だけ抵抗があった。



「……行くか!」


「「おぉー!」」



 俺たち三人は意気揚々と玄関に向かう。靴を履こうとして俺は気づいた。



「あぁっ!? 荷物忘れてた!」


「「あっ!」」



 手ぶらな俺たちはドタバタとリビングに戻って荷物の取りに戻るのだった。


 今度はちゃんと荷物を持って玄関に来た。


 一人ずつ靴を履いて外に出る。外は少しずつ太陽が昇って、空が明るくなってきている。


 ちゃんと荷物を外に出して、忘れ物がないかもう一度確認する。


 三人とも自分の荷物がある。よし! オーケー!


 ドアに鍵をかけて、ちゃんと鍵がかかっているか確認する。


 ちゃんと鍵がかかっている。よし! オーケー!



「忘れ物もなし。鍵もオーケー! じゃあ……」



 行ってきます、と言おうかと思ったところで、服がクイクイっと引っ張られた。後輩ちゃんがムスッとした顔で俺の服を引っ張っている。



「先輩。忘れ物です」


「忘れ物? 何を忘れたんだ?」


「んっ!」



 後輩ちゃんが軽く顎を上げ、目を瞑った。キス待ち顔だ。


 どうやら後輩ちゃんは行ってきますのキスをご所望らしい。確かに忘れものだな。


 俺は後輩ちゃんの可愛らしい唇に優しくキスをする。



「んぅ♡」



 数秒間、キスを楽しんだ俺は、ゆっくりと唇を離した。


 首まで真っ赤になり、うっとりとした顔の後輩ちゃんと目が合った。潤んだ瞳が可愛らしい。



「後輩ちゃん、行ってらっしゃい」


「はい、行ってきます。先輩もいってらっしゃい」



 見つめ合う俺と後輩ちゃん。玄関のドアの前だけど、朝も早いから誰もいない。心置きなくキスができた。



「うぅ~! 羨ましいなぁ~!」



 訂正。桜先生がお隣にいた。キスしていた俺たちを至近距離でガン見している。


 えーっと、どうしよう? 本当に羨ましそうだ。


 キョトンとした後輩ちゃんがポンと手を打ち、桜先生に抱きついて頬にキスをする。



「お姉ちゃんもいってらっしゃーい! チュ~♡」


「っ!? 行ってきます! 妹ちゃんもいってらっしゃーい! チュ~♡」



 桜先生も後輩ちゃんの頬にキスをした。百合百合しい姉妹のキスだ。


 これはこれでアリかもしれません。


 今度は桜先生が期待顔で俺を見つめてくる。


 えっ? 俺も?


 後輩ちゃんもしきりに頷いている。俺も桜先生にキスしろって?


 うぅ……わ、わかりましたよ! すればいいんでしょ!



「姉さん、いってらっしゃい。チュッ!」



 俺は桜先生の頬にキスをする。ポフンと頭から蒸気を噴き出す桜先生。



「はわわっ…!? い、行ってきます! 弟くんもいってりゃっしゃい!」



 真っ赤になった桜先生も俺の頬にキスしてくれた。桜先生噛みすぎ。


 その様子を満足そうに眺めている後輩ちゃん。


 何というか、恥ずかしくて気まずい。桜先生に行ってきますのキスをしたことがなかったから。


 あれっ? 姉弟でこんなことするっけ? しないよね? あれっ? 俺って毒されてる?


 悩み始めようとしたところで、機嫌のいい後輩ちゃんが手を振り上げる。



「では、旅行にしゅっぱーつ!」


「おぉー!」


「お、おぉー!」



 テンションMaxの桜先生が声を上げ、少し遅れて俺も声を上げる。


 忘れ物がないか確認し、行ってきますのキスを済ませた俺たちは、各自、自分の荷物を手に持つと、桜先生の車に乗り込むのだった。


 これから旅行に出発だ!

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