第205話 シルバーウイークの予定と後輩ちゃん

 

「よっしゃー! 連休だぁー!」



 金曜日。学校が終わり、寝る前になった俺は、思わず叫び声をあげてしまう。


 それくらい嬉しい。明日から土日。そして、シルバーウイークに突入する!


 学校が休みだ。最高。本当に嬉しい。やったぜ!


 後輩ちゃんと桜先生が呆れ顔で嘆息した。



「先輩は本当に休みが好きですねぇ」


「学校が楽しくないの? お姉ちゃんは先生だから、出来れば楽しく学校に通って欲しいんだけど」


「いや、学校は楽しいぞ。でも、家にいるほうが安心するというか……」


「「引きこもりか」」


「おいコラ! 超絶インドア姉妹に言われたくない!」



 仲良く同時に言った後輩ちゃんと桜先生に、俺は思わず声を荒げて反論してしまった。


 後輩ちゃんと桜先生がポンポンとベッドを叩いている。俺は促されるままベッドに座る。


 二人は勝手に俺の脚を動かして伸ばし、太ももを枕にして寝転んだ。


 気持ちよさそうに頬擦りしながら目を細めている。


 俺は二人の頭を優しく撫でた。



「で? 明日からシルバーウイークですが、何する?」


「家でゴロゴロ?」


「弟くんと妹ちゃんの二人とイチャイチャする~!」


「………俺よりもお家大好きの二人に聞いた俺が馬鹿だった」



 反省反省。二人は家から出るっていう選択肢がないのだ。聞いても無駄だった。


 ふむ。俺としては少しお出かけしたい気持ちもあるんだが、二人を行く気にさせるのは至難の業だ。どうやって説得しよう?


 太ももの上でゴロゴロスリスリしている後輩ちゃんが俺の顔を可愛らしく見上げてきた。



「先輩。そろそろ秋だと思いませんか?」


「まあ、多少暑さは和らいできたかな」


「というわけで、先輩に質問です! 秋と言えばいろいろな秋がありますが、私が思い浮かべた秋は何でしょう?」



 秋と言えば……スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋……。


 でも、後輩ちゃんが考えそうなことは、あの秋かな?



「食欲の秋!」


「ブッブー! ざんねぇ~ん! 外れで~す」



 違うのか。後輩ちゃんが楽しげに人差し指でバツ印を作っている。とても可愛い。


 思いついたものを全部言ってみよう! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる!



「スポーツの秋!」


「違いま~す!」


「読書の秋」


「ざんねぇ~ん」


「芸術の秋!」


「またまた外れで~す!」



 くそう! 思いついたのは全部言ってみたけどすべて外れてしまった。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たらないことが判明した。


 後輩ちゃんのニヤニヤがムカつくくらい可愛い。


 他になんかあったっけ? でも、思いつかないから降参します。



「俺の負けだ。答えを教えてくれ」


「はいはーい! 正解は、恐怖の秋です! というわけで、先輩…」


「却下します! 却下却下きゃ~っか!」



 俺は後輩ちゃんの言葉の途中で即座に拒絶する。


 恐怖の秋なんか初めて聞いたぞ! 絶対に後輩ちゃんはホラーを観ようと誘うつもりだ! 俺は嫌だ! 絶対に観ない!


 ほら! 図星だった後輩ちゃんがムスッとした顔をしている!



「むぅ! 話は最後まで聞きましょう!」


「どうせ、ホラーを観ようって言うつもりだろ?」


「それはそうですが……」


「却下します!」



 ブーブー、とブーイングしてくる後輩ちゃんの可愛らしいお鼻をむぎゅッと摘まんであげる。


 ポコポコと叩かれたので即座に解放。


 後輩ちゃんはリスやハムスターのようにぷくーっと頬を膨らませ、潤んだ瞳でキッと睨みつけてきた。


 膨らんだ頬をツンツンツンすると、ぷしゅ~っと空気が抜ける。とても可愛い。モチモチの頬をナデナデしてあげる。



「連休中、ちょっと遠くに遊びに行かないか?」


「「えぇー!」」



 何故この姉妹はインドアなのだろうか?


 このまま誘い出さないと俺はホラーを観ることになりそうだから、何としても遊びに誘わなければ!


 こういう時は、チョロそうな桜先生を狙う。



「姉さん。俺たち家族三人でお出かけしないか?」


「…………家族三人」


「夏休みに遊園地に行けなかっただろ?」


「…………確かに行けなかった」


「俺は姉さんと遊びに行きたいなぁ。お願い、姉さん!」


「よしっ! 行きましょう、弟くん!」



 はい、チョロ~い! 桜先生チョロすぎ!


 これで桜先生が味方になったので、後は後輩ちゃんだけだ。


 二対一ならあっという間に後輩ちゃんは陥落するだろう。



「妹ちゃん行きましょう?」


「行くー!」



 あっれ~? 何故桜先生がお願いしたら一発で堕ちたんだけど。


 俺が誘っても難色を示したのに、桜先生なら一発オーケーなの?


 なになに? 彼氏差別? 姉が優先なの?


 俺の可愛い彼女さんが、あくどい笑みで不敵に笑い始める。



「ふっふっふ……お出かけ先はお化け屋敷で!」


「却下します!」


「却下を却下します! 行きましょうよ、せんぱぁ~い!」



 後輩ちゃんが俺の脚に抱きついてスリスリとしてくる。とてもくすぐったい。


 どんなに媚を売っても俺は頷かないぞ! ホラーだけは絶対に嫌! 嫌なものは嫌なの!



「弟くん。お出かけはお泊りでもいいの?」


「俺は構わないけど。後輩ちゃんは?」


「私もいいですよ」


「じゃあ、お姉ちゃんは泊りがけで動物園に行きたいでーす!」



 動物園か。最近行ってないな。俺が賛成すれば二対一でお化け屋敷は却下になる。


 よしっ! 俺も動物園がいい!



「俺も動物園に賛成! これで二対一だ!」


「くっ! 卑怯な! お化け屋敷が……私のパラダイスタイムが!」


「妹ちゃん妹ちゃん! ちょっとちょっと!」


「ほえっ?」



 桜先生が何やら手招きし、後輩ちゃんが俺の肩足を乗り越え、桜先生の近くに移動する。


 そして、二人はごにょごにょと秘密の会話を行う。訝しげだった後輩ちゃんの顔が、ぱあっと明るく輝いた。



「先輩! 私も動物園に賛成します! 行きましょう! 泊りがけで動物園!」



 キラッキラと輝く笑みで後輩ちゃんが俺の顔を見上げてくる。


 桜先生は後輩ちゃんに何を囁きかけたのだろう? 後輩ちゃんの顔がニッコニッコと超絶な笑顔だ。


 これは何やら企んでいるな? 一体何を考えている!?


 まあ、行き先がお化け屋敷にならなくてよかったかな。



「旅行の計画はお姉ちゃんに任せて! 大人なの!」


「私もサポートします!」


「姉さん頼んだ。後輩ちゃんもこういうのが得意だったな。サポートよろしく。俺は二人の泊りの準備をするから」


「「はーい!」」



 後輩ちゃんと桜先生が元気よく返事をする。そして、俺の脚にスリスリと頬擦りした。


 三人だけでお泊り旅行に行くのは初めてじゃないか?


 たくさん楽しもう!


 俺は可愛らしく甘えてくる二人の頭を優しくナデナデするのだった。

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