第204話 不貞腐れた俺

 

「むっす~!」



 俺は今、猛烈に不貞腐れている。原因は今日行われたLHRロングホームルームだ。


 文化祭の話し合いだった。優秀な女子たちにより、話は着実に進んでいった。しかし、俺は生贄にされたのだ!


 お菓子は俺が主動で作ることになり、女装のコスプレもすることになった。衣装は雪女で決定らしい。


 当日は後輩ちゃんとデートしつつお店を宣伝する係だが、衣装合わせなどの時に女性陣の前でお披露目があるらしい。


 全ては後輩ちゃんが俺と文化祭デートをするために女子との間で契約を交わし、俺抜きで勝手に決めたのだ!


 何度も意見を挟もうとしたのだが、後輩ちゃんに口を塞がれて喋ることができなかった。喋っても無視された。


 別に俺は嫌ってわけじゃないんだよ? デートができるのは嬉しい。でも、一言くらいお願いするフリでもいいから俺に尋ねるべきだと思うのです!


 だから、俺には不貞腐れる権利があると思います! あると思うのです!



「拗ねてる先輩が可愛いです」


「拗ねてない!」


「怒った弟くんも可愛い!」


「怒ってない! 不貞腐れているんだ!」



 後輩ちゃんと桜先生がニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。


 俺はぷいっと顔を逸らすが、二人はクスクス笑うだけだ。


 くそう! 俺を愛でて楽しんでいるな!



「それで? 弟くんはなんで不貞腐れているの?」



 桜先生が俺の髪を指でクルクルと弄りながら、可愛らしく首をかしげている。


 質問に答えたのは後輩ちゃんだった。悪戯っぽく微笑んでいる。



「それはね~、かくかくしかじかなのです!」


「あぁー。文化祭の話し合いで妹ちゃんが勝手に全部決めちゃったのね。それで弟くんは不貞腐れちゃったのか。それは仕方がないわねぇ。お姉ちゃんが癒してあげるわよ~!」



 相変わらず『かくかくしかじか』で伝わる謎の出来事。超能力者か?


 桜先生は俺の頭を愛おしそうに優しくナデナデしてくれる。今日は桜先生のほうが癒されるかもしれない。


 現在俺たち三人は物凄い体勢になっている。


 まず、桜先生がベッドの上で枕やシーツなどを背もたれにして足を広げで座っている。その足の間にすっぽりと収まっているのが俺だ。桜先生のお腹や股の辺りを枕にしている。その俺の身体の上にうつ伏せになっているのが後輩ちゃんだ。


 桜先生が俺の頭をナデナデし、俺は後輩ちゃんの頭や背中をナデナデする。後輩ちゃんは俺の胸の顔をスリスリと擦り付けている。


 ………学校の生徒にバレたら大変なことになりそうだな。



「ふふふ。最近弟くんがお姉ちゃんに甘えてくれるようになったので、お姉ちゃんはとても嬉しいのです! この調子でドンドン甘えてちょーだい!」



 髪をクルクルと弄られる。後輩ちゃんとは違う甘い香り。身体の柔らかさ。頭の上に時々感じる重量感のある大きな胸。


 俺たちは姉弟だから、これくらいは問題ないはず。でも、俺たちが勝手に姉弟と言っているだけであって、戸籍とか血縁は全く関係がないんだよね。


 これって大丈夫なのか? ……………大丈夫なはず!


 …………俺って後輩ちゃんと桜先生に毒されてる? 常識って何だっけ?



「そうですよ! 先輩ももっとお姉ちゃんに甘えるべきです! 姉弟のスキンシップです!」


「………ふ~んだっ! 後輩ちゃんの言うことなんか聞かなーい!」


「は、はぅっ! 拗ねた先輩が可愛すぎです! 何この可愛い生き物! 私をキュン死させるつもりですかっ!?」



 トロ~ンとした後輩ちゃんの瞳。頬が朱に染まって蕩けた表情をしている。


 俺の身体に顔をグリグリと押し付け、クンクンと匂いを嗅いだり、ポヨポヨと胸を押し付けたりしてくる。


 後輩ちゃんは反省していないようなので、服の中に手を突っ込んで、スベスベな背中を直に撫でる。


 ビクゥッとした後輩ちゃんは、何かに耐えるようにギュッと目を瞑って抵抗はしない。だから俺はスゥ~と背筋を撫でていく。



「後輩ちゃんが反省したら止めてあげようかなぁ」


「………………私は反省していませんよー」


「なら続けます」


「ひゃんっ♡」



 おぉ! 後輩ちゃんの口から可愛らしい声が漏れた。でも、俺は手を止めない。後輩ちゃんの背筋を撫で続ける。


 バッと手で口を覆い、後輩ちゃんは我慢を続け、俺の身体の上でビクビクしている。抵抗は一切しない。


 えーっと、エロいけど、このまま続けていいの?


 後輩ちゃんからは、続けて、という意思が伝わってくるんだけど。



「むぅ~! 二人がイチャイチャしてる! お姉ちゃんも混ぜるのです!」



 桜先生が俺の顎の下を撫でてくる。俺はネコかっ!?


 あっ…でも気持ちいいかも。ちょっと癒される…。そのままそのまま…。



「おぉー。弟くんが可愛い」


「なん…だとっ!? 先輩にそんな可愛らしい弱点があったなんて…! 流石ヒロイン属性の乙女先輩です! ネコみたいです! お姉ちゃん、私もするー! こしょこしょ~!」



 おぉ…結構癒されるかも。ヒロイン属性の乙女と言う言葉はよくわからないが、俺はネコだったようだ。


 もう不貞腐れていたことなんかどうでもいい。今は素直に二人に癒されよう。


 その後俺は、後輩ちゃんや桜先生に撫でられて、抱きしめられて、甘やかされて、可愛がられて、癒されることができました。


 俺も二人を撫でて、抱きしめて、甘やかして、可愛がって、愛でて、癒すことができたと思います。


 俺たち三人はWin-Win-Winの関係だな。


 今日も俺たちは寝る前の夜の時間をゆっくりまったりと過ごすのだった。

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