第203話 混沌とする話し合いと後輩ちゃん
文化祭の内容を話し合う
現在女子たちを中心に、どういう種類のクッキーが食べたいだとか、スコーンはどういうのがいいとか、メニューに関する話し合いが行われている。まあ、少し話が逸れている感じは否めない。
でも、アレルギーの人でも食べられるようにしたいだとか、材料はどこから調達するか、などの話し合いも進んでいるから止めることができない。
流石女子たちだ。話がどんどん進んで決定していく。俺は他の男子と共にボーっと眺めることしかできない。
俺の膝に座って話の中心となっている後輩ちゃんの柔らかなお尻や太ももの感触を楽しみながら、お腹をフニフニしてボーっとしている。
後輩ちゃんの温もりが心地いい。甘い香りに癒される。
というか、何故俺の席が話し合いの中心になっているのだろう? 黒板を中心にしようよ! でも、俺の叫びは誰にも届かない。無視される。
話がまとまったようだ。女子の一人が得意げに発言する。
「材料はあたしの家に任せて! いろいろとコネがあるから! 見積書を作っておくね」
「任せたー! 流石商家の娘!」
「どやぁ!」
ドヤ顔をした女子にイラッとした女子たちが襲い掛かっていく。ワチャワチャと女子たちが絡み合う。
出来れば俺の目の前じゃなくて少し離れて絡み合って欲しい。心臓に悪い。
しれっと女子の絡み合いに参加していた後輩ちゃんが、パンパンと手を打って話し合いの続きを促す。
「そろそろ衣装の話し合いもしましょう! 先輩はもちろん雪女で! 和風です!」
「「「異議なーし!」」」
「大ありだよ!」
俺は後輩ちゃんの耳に熱い吐息を吹きかける。
後輩ちゃんは、ひょわっ、と身体を震わせて頬を赤らめながら耳を押さえた。
「い、いきなり何するんですかっ!? ゾクッてしたじゃないですか!」
「勝手に話を進めるからだ!」
「じゃあ、血だらけのナースにします? 吸血鬼のメイドでもいいですよ? ゾンビのバニーガールなんかも……」
「俺はやらん! そもそも、お化け屋敷が怖いから、接客は無理! 俺は裏方をする!」
「「「えぇー! ブーブー!」」」
女子たちから一斉にブーイングが行われる。何故か男子からもブーイングが出た。
「裏方も全員コスプレするよ? というか、させるよ?」
「だそうです先輩! 可愛くメイクもしてあげますから! やりましょうよ颯子先輩!」
「誰が颯子だっ!? 俺は颯だっ!」
後輩ちゃんの白い首筋にふぅっと息を吹きかける。後輩ちゃんはゾクッと身体をのけ反らせた。
熱っぽく潤んだ瞳でキッと睨みつけられたけど、可愛らしくて俺には効かない。
「はいはい。そこのラブラブ夫婦。いちゃつかないでくださーい!」
「家に帰ってからやれ!」
「私はもうちょっと見たいかも……」
女子たちからの呆れと羨望の眼差しが突き刺さる。
恥ずかしくなった俺は、後輩ちゃんを弄るのを一旦中止する。後は家に帰ってからしよう。
女子の一人が、良いことを思いついた、と手を挙げて発言する。
「じゃあ、颯くんはクッキーとかを作ってもらうから当日のシフトは無し。でも、コスプレして葉月と学校中を回って宣伝してもらうっていうのはどう?」
「おぉ! それナイスアイデア! 先輩! デートできますよ!」
後輩ちゃんが瞳を輝かせて、俺の膝の上で飛び跳ねる。お尻の柔らかな感触がふにょんふにょんと伝わってくる。
「あっ、やっぱり葉月だけがいい思いするから考えを取り下げようかな…」
「ちょっと! いいじゃん! 先輩が頑張って美味しいお菓子を作るから、ご褒美をあげてもいいじゃん!」
「颯くんにはご褒美をあげてもいいけど、葉月は何をするの?」
「………………味見係?」
「やっぱり取り下げます!」
「「「異議なーし!」」」
「異議あり! 味見係も立派な仕事だよ! それに、先輩を癒すのは私のお仕事なのです!」
後輩ちゃんと女子たちが意見をぶつけ合っている。バチバチと視線がぶつかり合い、火花が大量に散っている。花火みたいだ。
でも、女子たちよ、考えて欲しい。家事能力皆無の後輩ちゃんができることは味見くらいしかないぞ?
特に飲食には関わらせてはいけない。後輩ちゃんのスキル、ポイズンクッキングが発動したら大変なことになる。
俺の膝の上の後輩ちゃんが、苦渋に満ちた声を喉の奥から絞り出す。
「ちっ! 仕方がありません……先輩の採寸
「「「当日のデートを許可します!」」」
女子たちと後輩ちゃんの利害が一致したようだ。がっちりと固い握手が結ばれる。
「って、ちょっと待て! 今、変な約束が交わされたよな!? 俺の採寸とかの立ち合い許可ってどういうことだ!? 俺は許可してないぞ!」
「まあまあ! ちょっとパンツ一丁になるくらいですから!」
「ダメだろそれは! 俺は嫌だ!」
「じゃあ、先輩。お化け屋敷でシフトか、ちょっと筋肉を見られてシフト無しだったらどっちがいいですか?」
「………………後者でお願いします」
女子たちから大歓声が上がる。ハイタッチをしている女子たちの瞳は血走り、口からは涎が垂れそうだ。
隠そうともしない欲望。逆に清々しい。
「では、ちょっと前金を払いましょう! それっ!」
後輩ちゃんが慣れた様子で俺のシャツのボタンをシュパパパッと外していく。
シャツをはだけさせ、うっとりとして下着の上から筋肉を触ってくる。
「ぐへへ…しぇんぱいの筋肉……ぐへへへへ…」
下着の上からも少し筋肉が盛り上がっているのがわかるだろう。突然のことで固まっている俺は後輩ちゃんにされるがままだ。触られて少しくすぐったい。
女子たちの瞳がキラーンと輝いた。そして、一斉に襲い掛かってくる。
「おぉ~~~~~~っ! 何この筋肉! カッチカチ!」
「かっこいい! 細マッチョだ! すごーい!」
「絶妙なバランスの筋肉の付き方! 芸術品だわ!」
「おほぉぉおおお! 先輩うほぉぉおおおおおお!」
あちらこちらからペタペタ、スリスリ、モミモミ、ナデナデとされる。
もう何が何だかわからない。くすぐったくて仕方がない。
でも、一つ言えることがある。後輩ちゃん、その奇声を止めなさい。
「宅島だけずるいぞ! あんなにモテやがって!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」
男子たちから呪詛と嫉妬と殺意の言葉が漏れ出す。視線だけで俺を殺せそうだ。
男子の一人がおもむろに立ち上がる。そして、バーンッとシャツのボタンを外して前をはだけさせた。
「女子たちよ見てくれ! 俺のこのボディを!」
女子たちが一斉にその男子に視線を向ける。他の男子たちは、勇者だ、と彼を崇め始めた。
多少筋肉がついている得意げな男子に、女子たちは容赦のない言葉を浴びせる。
「ふっ。まだまだだな。貧弱」
「40点」
「出直してこい!」
「うほぉぉおおおおお! 先輩の筋肉! うほほぉい~!」
約一名、俺の身体に夢中で見向きもしない人がいたけど、女子たちは皆冷たくバッサリと切り捨てた。
酷評された男子は、ショックを受けて床に崩れ落ちる。そして、ピクピクと痙攣を始めた。
可愛そうに。あれは心が折れるだろう。ご冥福をお祈りいたします。
あれっ? でも、顔が恍惚としていないか? 床に倒れた男子の顔は嬉しそうじゃないか? まさかドМかっ!? …………見ないようにしよう。
女子たちは床で恍惚としている男子のことは見向きもせず、俺の身体をペタペタと触ってくる。
もういい加減にしてくれ! くすぐったいから!
誰だ俺の尻を触ったやつは!
どさくさに紛れて股間を触ったやつは誰だ! ………後輩ちゃんか。
って後輩ちゃん! どこ触っているんだ!?
「後輩ちゃん! いい加減にしろ! 他の女子も触るのを止めろ!」
「「「えぇー! ブーブー!」」」
女子たちから一斉に大規模なブーイングが巻き起こる。
こうして、教室の中は混沌としながらも文化祭の話は着実に進んでいくのだった。
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