第201話 昼休みの教室と後輩ちゃん

 

 喧嘩?をして仲直りをした次の日、俺と後輩ちゃんは普段通りの関係に戻っていた。


 まあ、好きすぎての喧嘩だったから、別に嫌いになることもなく、むしろもっと好きになった。


 今は丁度昼休みの時間。いつも通り隣は後輩ちゃんで、周りは女子たちが囲っている。



「はい、先輩あ~ん♡」


「はむっ! もぐもぐ……うん、美味しい」


「流石先輩ですよね! いつも美味しいご飯をありがとうございます!」


「いえいえ。こちらこそいつも美味しそうに食べてくれてありがとう」



 俺たちはお弁当を食べさせ合ったり、お互いのお弁当からおかずを取ったりして、もぐもぐと食べている。


 その様子を周りの女子が呆れて眺め、男子たちが血の涙を流しながら自分のご飯に齧り付いている。



「あんたら、昨日は喧嘩してたよね? 仲直り……してるよね絶対」


「むしろもっとラブラブになったような。他のクラスでは離婚離婚って話題になってけど、二人が離婚する訳ないじゃん!」


「うぅ…胸焼けが…砂糖が多いよ……胃もたれして食欲が…二人ともナイス! これで痩せれる!」


「過度なダイエットは止めとけよ」



 俺が軽く注意すると、痩せれると言った女子が素直に、はーい、と返事をする。良い返事だ。


 しかし、そんなに痩せなくていいと思うんだけど…女性ってそんなに細い体形が好きなのか? 俺は健康的な女性……ある程度肉がついている女性が好きなんだけど。


 後輩ちゃんは俺の好みにドストライクだ。



「あれっ? 颯ってどんな子がタイプ? ………って、わかりきってたか」


「ふっふっふ! 先輩のタイプは私です! どやぁ! あいたっ! ちょっと叩かないで! ひゃんっ! 誰っ!? 胸揉んだの!? 今度はお尻!? お腹までっ!?」



 ドヤ顔をしてポヨンと得意げに胸を張った後輩ちゃんに女子から怒りの制裁が行われる。


 皆本気じゃないし、後輩ちゃんも楽しそうだから放っておく。


 ちなみに、お腹を触ったのは俺である。今日も気持ちよかったです。



「ふむふむ。葉月って意外と肉あるよね?」


「くびれはあるけどちゃんとフニフニできるくらいのお腹周り。脚も細くもなければ太くもない。普通?」


「先輩って細い人ってダメなんですよねぇ。細い人よりも美緒ちゃん先生みたいなムチッと丸みを帯びた女性が好きです。まあ、私しか興味ないですけどね! あいたっ!? だから叩かないで!」



 何故俺の好みを女子たちに暴露されなければならないのだろう?


 女子たちに袋叩きにあっている後輩ちゃんに一発だけチョップを紛れ込ませる。当然の報いだ!



「んで? 二人が喧嘩していた理由は何なの?」



 女子の一人が脱線していた話の修正を行う。忘れてた、と女子たちが後輩ちゃんを叩いて揉みしだくのを止め、興味津々で黙り込む。


 少し服が乱れた後輩ちゃんが服を直し、ちょっと嬉しそうに暴露を始める。



「実はね、かくかくしかじかなの!」



 後輩ちゃん!? かくかくしかじかで伝わるわけないでしょっ! もっとマシな説明をしなさい! あっ、やっぱり言わなくていいです。恥ずかしいので。


 しかし、女子たちは砂糖の塊を口の中身ぶち込まれた、みたいな甘さに苦しむ顔をしている。



「どっちがより好きかって喧嘩になったの? あんたらアホ?」


「いや、バカでしょ。バカップル。バカ夫婦かな?」


「漫画や小説の中だけだと思ってたのに、リアルでする人いるんだね。でも、納得している自分がいる」



 何故伝わっている!? 女子たちは超能力者か!?



「それで? 『私たちは好きなんかじゃない! 愛し合っているんだ!』って仲直りしたの?」


「いやいや! それでも決着がつかなかったから、相手をダウンさせた方が勝ちってことになりました」


「そんなに期待の籠った眼差しをされても何をしたか言わないからな! 結果も言わないからな! 絶対に言わないからな!」



 女子たちが知りたくてウズウズしていたので先に牽制しておく。結果は俺と後輩ちゃんだけの秘密なのだ。



「それってフリ? 押すな押すなイコール押せ、みたいな?」


「違う!」



 ブーブー、と女子たちからブーイングが上がるが気にしない。俺はご飯を食べ続ける。


 でも、後輩ちゃんが少し遠くを見つめて、うっとりと陶酔した表情をする。



「あぁ…勝負がついた後、先輩が私のことをたくさん甘やかして可愛がってくれて、私はとても満足です。はぁ…幸せでしたぁ」



 後輩ちゃんのあまりの美しさに、クラスの男子たちが胸を押さえて床に倒れ込んだ。ピクピクと痙攣している。


 女子たちは胸の辺りを撫で、顔をしかめている。まるでグラブジャムンを食べたかのよう。パタパタとお弁当の蓋を閉じていく。



「人ってこんなに幸せな顔をすることができるんだね」


「恋ってすごいわぁ……そして、羨ましいわ!」


「ヤッたの? 二人ともヤッたの!? お姉さんたちに詳しく教えなさーい!」


「してねぇーよ!」


「「「「「ヘタレ!」」」」」



 ヘタレで申し訳ございませんでしたねぇ。でも、昨日の俺は結構頑張ったぞ! 後輩ちゃんに沢山キスした!


 というか、少し話題を考えてくださいよ! 今お昼時! ごはん中! 下ネタは止めましょう! 例え俺と後輩ちゃんが関係を持っていたとしても教えませんから!


 なんでウチのクラスの女子たちはこんな話題が好きなんだろう? オープンすぎません? 恥じらいを持ちましょう?



「よっしゃー淑女ども! 二人がいつヤるか賭けよぉーぜ!」


「あたしクリスマス!」


「バレンタインデー!」


「じゃあ、ウチはホワイトデー!」


「私は文化祭が終わったら!」


「じゃあ、私は大穴で高校生の時はしない!」



 止めろ! 賭けるな! もっと恥じらいを持て!


 俺の叫びは盛り上がる淑女たちの声によってかき消され、誰にも届かなかった。


 なんでウチのクラスの女子はこうなんだろう? 謎だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る