第199話 喧嘩と後輩ちゃん
それはありふれた日常。爽やかな朝。通学時の出来事。
俺と後輩ちゃんは睨み合う。
「後輩ちゃんの頑固者!」
「先輩のわからずや!」
「「ふ~んだっ!」」
俺と後輩ちゃんは同時にそっぽを向いた。
俺たちは喧嘩をした。
▼▼▼
昼休みの時間。楽しげにお喋りし、昼食を食べて賑わう食堂。
俺は苛立ちを隠すことなくムスッとしながらお弁当の包みを開く。
「聞いたぞ颯! 嫁さんと喧嘩したんだってな! 俺たち二年まで話が回ってきたぞ! 新婚ラブラブバカ夫婦に早速離婚の危機かって!」
対面に座るイケメン、俺の親友で妹の彼氏である鈴木田裕也がニヤニヤと笑っている。ニヤニヤ笑いでもイケメンなのがムカつく。イケメン死すべし!
ムスッとしながら、いただきます、と手を合わせ、弁当を食べ始める。うん、今日も美味しい。
「なんで俺たちの喧嘩が他の学年まで伝わっているんだよ!」
だから、今俺たちにチラチラと視線を向ける生徒たちが多いのか。
なんだかニヤニヤと笑って、後輩ちゃんを狙う男子も多いみたいだし。
裕也は楽しげにニヤニヤ笑うだけだ。
「さあ? 俺は知らね! で、本当に喧嘩してんのか?」
「ああそうだよ。ただいま後輩ちゃんと絶賛喧嘩中だよ! 本当にあの頑固者は!」
「喧嘩の理由は?」
「よくぞ聞いてくれた!」
思わずテーブルをぺしっと叩いたら、裕也が驚いて身体をのけぞらせた。あれっ? 声デカかった? ごめんごめん。
でも、今の俺はもう我慢できない! このイケメンに愚痴りまくってやる!
「なあ聞いてくれ! 後輩ちゃんったら、好きな気持ちは俺より強い、って言うんだぞ! 何言ってんだか! 俺の方がもっと好きに決まってんだろ!」
「………………はぁ? すまん。もう一度言ってくれ」
裕也は一瞬固まり、真剣に悩み、頭を振って、頭を叩いて、顔をしかめている。
理解できなかったのか? 詳しく説明してあげよう。
「今日登校していたら、どっちがより好きなのかって話になったんだよ。後輩ちゃんは俺への想いは負けないって言っているんだ。絶対に俺の方が後輩ちゃんを好きなのに! 負けを認めろ頑固者!」
「さっきから頑固者頑固者ってうるさいですよ、わからずや! 私のほうが先輩のこと好きに決まってるじゃないですか! どうしてそこがわからないんですかっ!?」
お隣の席に座る後輩ちゃんが、綺麗な瞳に怒りを宿し、テーブルをペチペチ叩いて、怒っていますよアピールをしている。
後輩ちゃんは俺のお弁当からヒョイッとおかずを奪ってモグモグする。
俺もすかさず応戦し、後輩ちゃんのお弁当からおかずを奪う。
「だ~か~ら~! 俺のほうが好きなんだって! いい加減に認めろ、頑固者!」
「私のほうが好きなんです! どうして理解できないんですか、わからずや!」
俺は至近距離で後輩ちゃんと睨み合う。そして同時にぷいっと顔を逸らした。
お互いのお弁当からおかずを奪ってモグモグする。
何故か固まっていた裕也がハッと我に返り、頭を押さえながら確認してくる。
頭痛か? 大丈夫かな?
「あぁー。確認するが、『俺のほうが好きだよ』、『いいえ、私のほうが好き』、『いや、俺だろ!』、『いいえ、私です!』って流れで喧嘩してるってことでオーケー?」
「「そういうこと!」」
俺と後輩ちゃんは同時に頷き、ぷいっと顔を逸らす。
プルプルと震えた裕也は、立ちあがって叫ぶ。
「ちょっと心配していた俺の心を返せ! いい加減にしろよバカップル! 俺と楓ちゃんでもそんな喧嘩したことないわっ! そんなことで喧嘩すんじゃねぇ! さっさと仲直りしろ!」
「後輩ちゃんが認めればいいんだ」
「先輩が認めればいいんです」
「俺のほうが好きだ!」
「私のほうが好きなんです!」
俺と後輩ちゃんは超至近距離でバチバチと火花を散らす。
怒りに任せて卵焼きに箸を突き刺す。
「あっ、先輩。その卵焼き食べたいです」
「んっ? いいぞー。はい、あ~ん」
「あむっ! うぅ~♡ 美味しいですぅ♡ お礼に唐揚げをあげましょう! はい、あ~んですよ~♡」
「あ~ん…うん! 美味しいな!」
「それは良かったです」
俺たちは口をモグモグさせながら、バチバチと視線をぶつけ合う。
一歩も意見を譲るつもりはない。
俺のほうが好きだ! 後輩ちゃんのことが好きなんだ!
「後輩ちゃんは頑固すぎ! はい、あ~ん。いい加減に認めろ! あむっ!」
「はむっ! 先輩がここまでわからずやだとは思っていませんでしたよ! はい、あ~ん♡ 先輩こそいい加減にしてください!」
俺たちはお互いに食べさせ合いながら喧嘩する。
いつもは俺がすぐに折れるけど、今回ばかりは折れるわけにはいかない! この話題だけは、この想いだけは譲れないのだ!
対面に座る裕也が俺たちにピシッと指さした。
「お前ら、口喧嘩しながら『はい、あ~ん♡』ってしやがって! イチャイチャするか喧嘩するかどっちかにしろ!」
「後輩ちゃん、あ~ん」
「はむっ! もぐもぐ。先輩もあ~ん♡」
「あむっ! もぐもぐ」
「イチャイチャすんのかいっ! 喧嘩をしないでイチャイチャすんのかいっ! もうヤダこのバカ夫婦……」
なんかフルマラソンを走り終わったみたいに裕也が疲れきっている。
さっきも頭痛そうだったし、風邪でも引いたか? 大丈夫か?
「裕也はどう思う? 俺のほうが絶対後輩ちゃんのこと好きだよな?」
「私のほうですよね? 私のほうがもっともぉ~っと先輩のことが好きに見えますよね? 実際にそうですけど!」
「俺はどっちでもいい!」
「あっ? 俺のほうがもっともっともっともぉ~と好きに決まってるだろうが!」
「はぁっ? 私のほうはもっともっともっともっともぉ~~~~~っと好きに決まっています!」
「あ、あれっ? 無視? 俺のこと無視なの? 酷くない?」
「俺はもはや言い表せないくらい好きだね!」
「ふっ! 言い表せなかったら、想いの強さが私に負けている可能性もありますね! まあ、その可能性しかありませんけど!」
「あのー? お二人さん? 対面に俺が座っていますよー? お忘れですかー? うん、忘れてるな! 完全に二人の世界だ。いいもんいいもん! 俺と楓ちゃんのほうがラブラブだもん! ふ~んだっ!」
「その可能性はないだろ! 皆無だ皆無! 俺のほうが後輩ちゃんへの想いは強い! これは断言できる!」
「どこがですか、このヘタレ! 私は先輩を一目見た時から好きだったんですよ!」
「えっ? マジで? それ初耳なんだけど……まあ、俺もだけど。後輩ちゃんの入学式の日、靴箱で出会った時だよな?」
「そうですよ! 先輩も同じタイミングで恋に堕ちたんですか!? う、嬉しいです…」
至近距離の後輩ちゃんの綺麗な瞳が、驚きで大きく見開かれる。そして、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、じっと見つめてくる。
そうかぁ。後輩ちゃんもあの時好きになってくれたのかぁ。超嬉しい。
無意識に俺たちは徐々に顔が近づいていって………ぷいっと同時に顔を逸らした。
「危ない危ない。思わず負けを認めるところだった」
「くっ! まさかこれを狙って? 今は危なかったけど、私は負けませんよ!」
「「ふ~んだっ!」」
俺たちはお互いの主張を曲げない。お互いにお弁当を食べさせ合いながら喧嘩をする。
後輩ちゃんが潔く負けを認めればいいだけなのに……この頑固者!
俺のほうが絶対絶対ぜーったい好きに決まっている!
いい加減に認めろー!
<おまけ>
「お二人さん。少しは気が済んだか?」
「いや全然。まだ後輩ちゃんにこの想いを伝えきれていない…って裕也いたのか」
「すっかり忘れていましたね」
「ひどっ!? 二人とも酷いっ!? さっきも無視しやがって! それが未来の
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