第198話 特別版一生ゲームと後輩ちゃん

 

「弟くん! 妹ちゃん! ゲームで遊びましょう!」



 寝る前のまったりタイム。ノーブラでキャミソール姿の桜先生が、仁王立ちして突然宣言した。


 薄いキャミソールなので胸の辺りが透けている。紫のショーツも丸見え。本当にどうにかしてほしい。でも、全裸じゃないからまだましだ。


 突然の宣言に、俺と後輩ちゃんは思わずポカーンと顔を見合わせる。


 突然の思い付きは後輩ちゃんの癖なのだが、桜先生にも遺伝したらしい。



「姉さん。何のゲームで遊ぶんだ?」


「じゃじゃーん! 今日授業で使用した『一生ゲーム』の特別版でぇーす!」



 桜先生が背中からゲームの箱を取り出す。


 後輩ちゃんが瞳を輝かせた。俺の服を引っ張ってくる。



「おぉ! 面白そう! 先輩やりましょう!」


「いいけど…それ、家に持って帰ってきていいのか?」


「大丈夫だいじょーぶ! ちゃんと他の先生たちにも許可取ったから! というか、他の先生たちも別のバージョンを家で家族と遊んでみたんですって! 夫婦喧嘩が勃発したそうだけど」



 ご愁傷様です! でも、何故喧嘩になったのか気になる! 浮気かな?


 桜先生と後輩ちゃんが積極的にゲームの準備を始めていく。


 二人は学校ではきちんとするのに、何故家では適当にするのだろう? 結構ぐちゃぐちゃなんだけど…。これ、学校のだから大切に使おうね?


 俺は説明書を手に取る。



「ふむふむ。『一生ゲーム特別版! ver.TB』。TBって何だ?」


「それはね、タボーのTBね。キンキよ」



 タボー? キンキ? 一体どういうことだ? 訳がわからない。説明書説明書…


 タボーはTaboo、キンキは禁忌……Tabooタブー、禁忌かっ!?


 何がタボーだ! タブーじゃねぇか! 禁忌って何がダメなのっ!?


 説明書よ! 説明プリーズ!



「なになに? 『これは、姉弟での禁じられた愛を突き進んだ場合の一生を経験することができる禁忌のゲームです』………って、なんだこれはっ!?」



 思わず説明書を床に叩きつけてしまった。そのまま踏みつけたい衝動を必死に抑える。


 床に落ちた説明書を拾った後輩ちゃんが興味深そうに読み始める。



「ふむふむ。続きがありますよ。『義理の姉弟にも対応しております。ハーレム、逆ハーレムも可能です。』だそうです。良かったですね! 対応してくれています!」


「良くないだろ! 何だよ、このゲームは!?」


「「一生ゲーム特別版! ver.TB」」


「ゲームの名称を聞いたんじゃない!」



 仲良く同時に言った桜先生と後輩ちゃんに思わず声を荒げてしまった。どっと疲れが襲ってくる。


 桜先生と後輩ちゃんはテキパキと散らかしながらゲームの準備を整えた。


 二人で床をポンポンと叩いている。座れってことらしい。



「ほらほら先輩! ゲームですから! 遊びましょう!」


「そうよ弟くん! 遊びましょう!」


「ああもう! やってやるよ! どうなっても知らん!」



 俺は自棄になってゲームを始めていく。


 車型のコマには俺の他に二人が乗っている。桜先生と後輩ちゃんだ。


 ハーレムにも対応しているって書いてあったから、一つのコマでいいのか。競う相手がいないけどいいのか?


 どうやらいいらしい。もうどうでもいいか。適当に進めていこう。



「おぉ! 最初は主人公の職業だけじゃなくて性格まで選べるみたいですよ! ほらほら先輩! どうぞどうぞ!」


「へいへい…………出た数は9だな」


「9ですね。先輩の性格は………ぷっ! くふふ…お、お姉ちゃん見て見て…!」


「なになに? へっ? くふっ……ふふふふっ! こ、これは流石に…うふふ!」



 説明書を見て、桜先生と後輩ちゃんが笑い声をあげる。チラチラと視線を向けて、口に手を当てて笑いを抑えようとするが全く抑えられていない。


 俺は二人から説明書をひったくった。



「俺の性格は……ヘ、ヘタレ…。ゲームまで俺をヘタレ認定するのかっ!?」


「ぷふっ! さ、流石ヘタレ先輩です! くふふ…」


「お姉ちゃんは弟くんがヘタレでもいいと思うの。くふっ!」



 二人がお腹を抱えて笑っている。大爆笑ではないのだが、呼吸ができないほど静かに笑っている。


 もうヘタレでも何でもいい! 笑うなら笑え! 俺は勝手に進めてさっさと終わらせるから!


 ルーレットを回してマスを進めていく。



「えーっと、デートのマスですね。そして、ヘタレの性格の先輩は『いい雰囲気でヘタレる』ですって! ぴったりじゃないですか! あはは!」


「うるさい!」



 笑いすぎで出て来た目の端に浮かぶ涙を拭っている後輩ちゃんにチョップを落とし、笑いすぎて喋ることができない桜先生にもチョップを落とし、俺はさっさと進めていく。



「次は、またヘタレましたね」


「次だ!」


「あら。また弟くんがヘタレたわ」


「次だ!」


「またです。先輩? いい加減にしましょう?」


「うぅ…次!」


「あらあら。これで何回目? 弟くんが停まるマスはヘタレるのばっかりね」


「うぅ…俺のせいじゃないのに…俺、結構頑張ってるのに…次こそは!」



 俺はルーレットを回す。早く終わって! 早く終わってくれ!


 コマをルーレットで出た数字の数だけマスを進める。



「おっ? おぉー! ついに先輩が禁忌に足を踏み入れました!」


「禁忌って言うな!」


「弟くんと妹ちゃんが関係を結んだわね! おめでとー!」


「ありがとー! 次はお姉ちゃんの番だね!」


「お姉ちゃんも頑張るわよー!」



 後輩ちゃんと桜先生がハイタッチして喜んでいる。普段なら微笑ましい姿なのだが、今の俺には余裕がない。


 クラスメイト達の落ち込んだ理由が今なら理解できる。早く終わりたい!



「あれ? また先輩がヘタレてる」


「流石にヘタレすぎだと思うの。お姉ちゃん怒っちゃうわよ?」


「お姉ちゃん。先輩を縛って襲っちゃう?」


「いいわねそれ!」



 二人が楽しそうに盛り上がっている。


 でも、俺の直感が反応している。警報を発している。身の危険が迫っている。


 俺の貞操が危ない!



「これはゲームだよな? 遊びだよな? 現実の話じゃないよな? 怖いんだけど! 本当にしそうで怖いんですけどっ!?」


「「うふふ」」



 うっとりと妖艶に微笑む美女と美少女。大人の色気を放ち、艶やかに唇を指で撫でている。


 うぅ…俺、しばらく一人で寝ようかな。


 俺は二人から少し距離を取り、ルーレットを回し続ける。


 結局、社会から冷たい目で見られることなく、二人に子供ができてハッピーエンドでゲームが終わりました。


 後輩ちゃんと桜先生が楽しそうだったのでよかったけれど、俺はもう二度とこのゲームで遊ばないと心に固く誓った。


 もう懲り懲りです……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る