第196話 二日酔いの姉と後輩ちゃん

 

「ぐえぇ~……頭痛ぁ~い……」



 痛む頭を押さえた桜先生がテーブルにぐてっと突っ伏している。


 顔は真っ青。食欲なさそう。明らかに二日酔いだ。


 昨夜、桜先生は友達と飲みに行き、俺と後輩ちゃんが迎えに行った。


 酔っぱらった桜先生を俺がおんぶし、家に帰りつくと、スポーンと服を脱ぎ、下着姿の桜先生に俺と後輩ちゃんは抱きつかれた。


 頬ずりされ、何度か大きな胸で顔を覆われ呼吸困難で死にそうになった。


 そして、最後にはコテンっと突然寝てしまった。


 はた迷惑な酔っぱらいであった。あれはあれで桜先生らしいけど。


 俺は朝ごはんのお味噌汁を桜先生の前に置く。



「はい、お味噌汁」


「あ、ありがと弟くん…いただきます」



 弱々しい桜先生が、ゆっくりとお味噌汁のお椀を手に取って、ズズッと食べ始めた。


 ゴクンと艶めかしく喉が動いて嚥下し、ぽわぁっと幸せそうに頬が緩む。



「はわぁ~♡ 美味しい~。にゃにこれぇ~♡」



 本当に美味しそうに食べてくれるな。作った甲斐があった。


 後輩ちゃんの前にもお味噌汁を置いてあげる。


 桜先生の隣に座っている後輩ちゃんは、まだ半分寝ていて、瞼がほとんど閉じて、コクンコクンと舟をこいでいる。


 お味噌汁の香りを嗅いだ後輩ちゃんが、ゆっくりとお椀を持った。



「……いた……だき…ましゅ…」



 ズズッと啜った後輩ちゃんの頬が、へにゃりと幸せそうに緩んだ。


 瞼が徐々に開き始める。



「はふぅ~♡ 美味しいですぅ~」



 それはそれは作った甲斐がありました。美味しそうに食べてくれてありがとう。


 俺も、いただきます、と手を合わせて朝食を食べ始める。


 うん、今日も美味しい。



「温かいご飯……幸せね……弟くん! 愛してるわ!」


「はいはい、そうですか……姉さんまだ酔っぱらってる?」


「棒読み口調っ!? 弟くん酷い! お姉ちゃんは酔っぱらってなんかいないわ! ……あいたたたた…頭痛い…」



 自分の大声が頭に響いたらしい。弱々しい桜先生に戻った。


 酔っぱらっていないって言ったけど、酔っぱらいは皆そう言うよね。信じられません。



「お姉ちゃん、昨日はどのくらい飲んだの?」



 いつの間にか完全に目覚めて、朝食を美味しそうにパクパクと食べていた後輩ちゃんが問いかけた。



「昨日? えーっと…梅酒一杯だけね」


「…………大ジョッキ?」


「違うわよ! ……あいたたたた……普通のコップ一杯」


「一気飲みしたの?」


「そんな危険で自殺行為なことはしません。チビチビと飲みました」


「お姉ちゃんってお酒弱い?」


「……弱いです」



 やっぱりか。夏休み前の飲み会の後も盛大に酔っぱらっていたからな。


 そうだとは思っていた。けど、ここまで弱いとは。


 えっ? チョコで酔っぱらった奴がいる? それは誰だろうー? 俺知らなーい!


 桜先生が弱々しく微笑んだ。



「あはは……普段はコップ半分で止めるんだけど、昨日は二人のことを自慢してたらついつい飲んじゃって……反省してます」



 シュンと小さくなった桜先生を見ていると、揶揄ってイジメたい衝動がムクムクと湧き上がってくる。



「姉さん。ご飯食べた後、掃除機かけていい?」


「……お願い止めて……頭に響く……」



 なんか楽しい。弱々しい桜先生がなんか可愛い。


 まあ、そんな酷いことはしません。昨日掃除したので大丈夫です。



「先輩! お姉ちゃんをイジメちゃダメです! めっです!」


「ごめんなさい。冗談です」



 俺は後輩ちゃんに弱い。すぐに頭を下げてしまう。


 後輩ちゃんに尻に敷かれている気がするんだが、きのせいだろうか?



「お姉ちゃん。今日はゆっくりして寝てください! 先輩は私が抑えるから!」


「ありがとう妹ちゃん……この後シャワーを浴びて少し横になるわ。昼頃には復活すると思うから…」


「はーい! ふっふっふ。先輩! 抵抗できないお姉ちゃんを襲うチャンスです! 欲望の限りを尽くしましょう!」


「イジメたらダメって自分で言ったじゃないか…そんなことしません!」


「ちっ! 私も混ざって先輩に襲ってもらおうと思ったのに…!」


「お姉ちゃんはいいわよー。好きにしてー。ただ反応できないかも……」



 朝っぱらから下ネタは止めようよ。今、朝食を食べている途中じゃないか。


 呆れてため息をつくと、ドッと疲れが押し寄せてきた。


 なんで朝からこんなに疲れないといけないのだろうか。


 俺も休んでいい? 今日は日曜日だし、掃除とかもほとんどすることがないんだよね。


 洗濯くらい? 最近二人とも自分の部屋に戻っていないから汚れないんだよね。



「じゃあ、ただベッドの上でごろごろしますか? 三人で」


「っ!? さ、賛成っ! ……あいたたたた」



 そろそろ学習しましょう? 頭痛いのなら大声出すのは止めようよ。



「俺もいいぞ。ただ、洗濯物を干してからな」


「はーい。あわよくば先輩が襲ってくれるかも…ぐへへ…」


「お姉ちゃんも襲ってくれるかも! ……あいたたたた」


「襲いません!」


「じゃあ、私が襲ってやります! ぐへへ」


「お姉ちゃんは…そんな元気ない…」



 本当に欲望に忠実だなぁ。これはこれで可愛いけど!


 二日酔いの桜先生はダウンしてるし、肉食系の後輩ちゃんは実は初心だから、襲ってくる心配はないだろう。せいぜいあんなことやこんなことまでだ。


 さてと、後で後輩ちゃんの頭にチョップを落とすことにして、さっさとご飯を食べて洗濯物を干しますか。


 こうして、俺は一日中、後輩ちゃんと桜先生とベッドの上でごろごろして過ごすのだった。


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