第195話 夜の迎えと後輩ちゃん

 

「ふっふっふ! 綺麗に撮れてるでしょ! どやぁ!」



 得意げに胸を張ってドヤ顔をする桜先生。大きな胸がバインと弾んだ。


 ポカポカ陽気で思わず眠くなった俺は、寝室にやってきた後輩ちゃんをベッドに誘い、そのまま抱き枕にしてお昼寝してしまった。


 抱き枕の後輩ちゃんも、ウトウトしていた俺よりも先に寝た。


 抱きしめ合ってお昼寝している俺と後輩ちゃんの姿を、部屋に入った桜先生が何枚も写真を撮り、今俺たちに見せびらかしている。


 とても恥ずかしい。でも、本当によく撮れている。


 写真を見た後輩ちゃんが瞳をキラキラさせる。



「お姉ちゃんナイス! 写真プリーズ!」


「はーい! 送信! ポチっとな!」


「ありがとー! おぉー! いい写真です!」



 うぅ…後輩ちゃんが羨ましい。俺も欲しいなぁ。でも、桜先生がニヤニヤと笑っているからなぁ。



「弟くんはどうする?」


「………………ください」


「うふふ。いいわよー」



 くっ! 桜先生のニヤニヤがうざい。とてもうざい。でも、欲望を抑えられなかった。写真ありがとうございます!


 送ってもらった写真を眺め、心の中でニヤニヤしていると、桜先生のスマートフォンがブーブーと振動し始める。



「あら。電話ね。ちょっと失礼しまーす!」



 桜先生が寝室に消えていった。ごにょごにょと何やら話をする声が微かに聞こえる。


 後輩ちゃんが嬉しそうに俺の背中に抱きついてきた。


 甘い香りが漂い、胸の感触が気持ちいい。



「先輩。とてもいい写真だと思いませんか?」


「そうだな。悪くない」


「ふふっ。そうですか」



 耳元で後輩ちゃんが楽しそうに笑う。熱い吐息がくすぐったい。


 肩に顎を乗せ、耳に息を吹きかけながら囁いてきた。



「先輩はどうしてあんなにおねむだったんですか?」


「う~ん…なんでだろう? 掃除とかで疲れたから? ポカポカで暖かかったから?」


「そうですか………私の仕事不足ですか…」


「仕事不足?」


「そうです! 私の先輩を癒すというお仕事です! もっと先輩を癒さなければ! 私、頑張りますね!」


「あぁ~。ほどほどにな」


「いえ、全力で癒します! というわけで、ほっぺスリスリしてあげます!」



 俺の頬に後輩ちゃんの柔らかな頬がスリスリされる。


 モチモチふわふわで気持ちいい。癒される。


 電話が終わった桜先生が寝室から出て来た。



「あら。楽しそうなことをしているわね!」


「おねえしゃんもどうじょー!」


「わーい! すりすり~!」



 左右から美女と美少女に頬ずりされる。なんだこれは…でも、気持ちいい!



「お姉ちゃんこの後出かけるから!」


「夜なのに?」


「友達が近くに来たみたいなの。ちょっとお酒飲んでお喋りしようって誘われちゃった! あっ、女友達ね! 男友達はお姉ちゃんにはいません!」



 俺と後輩ちゃんは驚愕して言葉をなくしてしまった。


 二人でポカーンと口を開けて桜先生を見つめる。



「………姉さん」


「………友達いたの?」


「ひどっ! 弟くんも妹ちゃんも酷いよ! お姉ちゃんにだってお友達くらいいるんだから! 少ないけど」



 桜先生がプンスカ怒っている。ただ、全然怖くない。むしろ微笑ましい。


 そんなわけで、ほっぺスリスリをある程度したら、桜先生は着替えてお化粧もバッチリして、友達に会いに行った。


 お酒を飲むそうなので車では行かない。それに徒歩で行けるくらいのお店らしい。


 二人きりになった俺と後輩ちゃんは、お風呂に入って寝る準備を整えると、ベッドの上でイチャイチャする。


 今日は後輩ちゃんが膝枕してくれて、俺はとても癒された。


 後輩ちゃんのお膝最高! すべすべして甘い香りがして寝心地抜群! 後輩ちゃんありがとう!



「先輩そろそろ」


「そうだな。寝るか! おっ? 電話か?」



 俺のスマホがブーブー振動した。電話をかけてきたのは……桜先生?


 ポチっと通話ボタンを押す。



「もしもーし! 姉さんどうしたんだ?」


「弟くぅ~ん! 迎えに来てぇ~!」



 酔っぱらった桜先生の声が聞こえてきた。電話でもわかるくらい酔っている。



「迎え?」


「そう、迎え~! お姉様の命令よぉ~!」


「了解です、お姉様」


「じゃあ、よろしく~!」



 言いたいことだけ言うと、ブツっと電話が切れた。


 全く我儘なお姉様だ。さっさと迎えに行ってあげますかね。


 一緒に聞いていた後輩ちゃんに視線を向ける。



「後輩ちゃんはどうする? 留守番するか? 一緒に行くか?」


「一緒に行きます!」



 そうですか。ならば着替えて我らのお姉様を迎えに行きましょう。


 俺たちはパジャマから外着に着替え、桜先生が待っているお店に手を繋いで迎えに行った。


 夜に後輩ちゃんと出かけるのは初めてかも。デートみたいでちょっと楽しい。


 後輩ちゃんも俺の腕に抱きついて楽しそうだ。鼻歌も歌うほど上機嫌だった。


 二人で桜先生が飲んでいたお店に到着した。店の前に桜先生と同い年くらいの女性が一人立っていた。


 桜先生は頬が赤いもののクールな表情をしていたが、俺たちを見つけた途端、へにゃりと崩れた。



「あぁ~! 弟くぅ~ん! 妹ちゃぁ~ん! むぎゅ~!」


「うぷっ!?」


「ぐえっ!?」



 く、苦しい! 桜先生の巨乳で顔を覆われて息ができない! し、死ぬ! 助けて!



「ていっ!」


「あぅっ! ったぁ~い! 何すんの!」



 桜先生の巨乳から解放された。く、空気が欲しい。あぁ~苦しかった。


 後輩ちゃんも必死に空気を求めて喘いでいる。


 桜先生は涙目で頭を撫でている。お友達にチョップされたらしい。



「こっちが言いたいわ! いきなり少年と少女に抱きついて、無駄にでかいあんたの胸で殺す気かっ!?」


「うぅ~! 二人ともぉ~! あのおばちゃんがお姉ちゃんをいじめるよぉ~!」



 俺と後輩ちゃんに抱きついて、桜先生が頬ずりしてくる。


 桜先生の友達の頬がピキっと引き攣り、こめかみに青筋が浮かんでいる。


 なんかすいません。ウチの姉が大変申し訳ございません。



「はぁ~。このバカから話はたっぷりと聞いたわ。この大バカがいつもお世話になっております」


「いえいえ。まあ、お世話してますが」



 女性がため息をついて頭を下げてきたので、俺と後輩ちゃんも咄嗟に頭を下げ返す。


 桜先生の友達が頭を抱えて嘆いた。



「生徒の家に転がり込むとか何やってんの! 最初に聞いたときはいつもの妄想だと思ったのに……。こいつ姉弟とか教師と生徒とか、禁断の恋が好きだったから…でも、まさか本当にやるとは…この大バカ! 家事能力皆無の乳デカ女!」



 ゴッチーンと酔っぱらった桜先生の頭に拳骨が降り注いだ。


 あぅ~、と頭を押さえてしゃがみ込む桜先生。



「気にしないでください。俺たちも姉さんがいて楽しいですから」


「そうです。お姉ちゃんがいないと寂しいです」


「はぁ…本当は止めたいところなんだけど、美緒は一人暮らしができないから、美緒のことお願いします。というか、あの地獄を綺麗に掃除したって聞いたけど、マジ?」


「はい。掃除しましたけど」



 うわー、と尊敬とか畏怖とか混ぜられた瞳で見つめられる。一体なんで?


 なんかあったら連絡して、と俺と後輩ちゃんは女性と連絡先を交換した。


 女性は最後に桜先生に拳骨を落とす。



ったぁ~!」


「大人なんだからしっかりしな! 姉なんだろ!?」


「わかってるよ、もう~」



 ブスっと拗ねて頬を膨らませた桜先生。初めて見る顔だ。


 女性は、はぁ、とため息をついた。



「一緒に住んでる駄賃として、美緒のこと好きに犯していいから。あたしが許す。この厭らしい身体に欲望をぶちまけろ。じゃな!」



 と言って、桜先生の友達は手を振って颯爽と帰って行った。


 やっぱり桜先生の友達はおかしな人だったか。普通だと思ったのに。


 お店の前に俺と後輩ちゃんと酔っぱらいだけが残される。



「弟くぅ~ん! おんぶしてぇ~! おんぶおんぶぅ~!」


「はぁ…後輩ちゃんいいか?」


「どうぞどうぞ! さあ、お姉ちゃん。先輩がおんぶしてくれますからね~。一緒に帰りましょうね~」


「はぁ~い! おんぶぅ~!」



 俺の背中に酔っぱらった桜先生が飛び乗ってきた。


 巨大な胸が押し付けられて気持ちいい。



「さあ帰ろぉ~!」



 俺は酔っぱらった桜先生を背負い、後輩ちゃんと一緒に夜の街を歩いて帰るのだった。


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