第194話 お昼寝と後輩ちゃん

 

 今日は休日。外は綺麗な秋晴れだ。


 とても心地よい気温。ポカポカ陽気。風はほとんどない。思わず眠くなる。


 掃除も洗濯も買い物も昼食も終わった。


 俺は頑張った。超頑張った。


 ちょっとくらいベッドに倒れ込んでウトウトするくらい許されるでしょ。



「もう無理…」



 バタリ、とベッドに倒れ込んだ。グリグリと顔を押し付ける。



「うぅ…後輩ちゃんの香りがする…」



 俺じゃない嗅ぎ慣れた甘い香り。後輩ちゃんだけじゃなくて桜先生の香りもするけど。


 クンクンと嗅ぐ。とても癒される。でも、ちょっと香りが薄い。



「うぅ…足りない…」



 もぞもぞと動いて、目的のモノを抱きしめる。


 後輩ちゃんの枕だ。顔を押し付けて深呼吸。スゥ~ハァ~。


 癒されるぅ…。疲れが癒されるぅ…。


 あれっ? 今俺がしていることは変態みたいじゃないか?


 う~ん…まあいっか。後輩ちゃんも桜先生もよくしてるし!


 スゥ~ハァ~。あぁ…癒されるぅ…。


 瞼がとても重い。身体から力が抜けて睡魔に抗えない。視界が暗くなっていく。



「あぅ…おやしゅみ……」


 バタンッ!


「せ~んぱぁ~いっ!」



 突如寝室のドアが勢いよく開かれ、後輩ちゃんの元気な声が聞こえてきた。


 眠りかけていた俺は、ビクッと身体を震わせて起きてしまった。


 眠い瞳で後輩ちゃんをじーっと見つめる。



「ありゃっ? 先輩おねむでした?」



 クリクリと綺麗な瞳がベッドに倒れている俺を見つめてくる。


 後輩ちゃんの瞳はとても綺麗だ。ずっと見ていても飽きない。


 でも、今は睡魔のほうが強い。



「ふぁい……おねむ……でしゅ…」


「おぉ! おねむの先輩が可愛いです!」



 後輩ちゃんが瞳をキラキラさせてベッドに座った。


 優しく頭を撫でてくれる。とても気持ちいい。



「先輩が猫みたいです。スリスリしてきます」



 猫? それは後輩ちゃんじゃないか? でも、特別に鳴いてあげよう。



「にゃ~」


「はぅっ!? なんですか、この可愛い生き物は!? おねむの先輩が可愛いです! 最高です! あぁ…可愛い…」



 ん~? なんか愛でられている気がするけど、あまりに眠くてそんなことどうでもよく感じる。


 あれっ? 後輩ちゃんの枕を抱きしめて匂いを嗅がなくても、目の前に本物の後輩ちゃんがいるじゃん。


 眠くて重い瞼を頑張って開き、腕も頑張って動かして俺のお隣をポンポン叩く。


 後輩ちゃんはすぐに俺の言いたいことがわかったようだ。



「お隣に寝ろってことですか? いいですよ」



 後輩ちゃんがゴロンと寝転んだ。俺はすかさず後輩ちゃんにむぎゅっと抱きつく。


 甘い香りが漂い、温かくて柔らかな身体を抱きしめる。


 おぉ…顔に柔らかな感触が…。思わず顔をグリグリしてしまう。



「おねむの先輩が私のおっぱいに顔を擦り付けています! 可愛いです!」



 優しく頭を撫でてくれる。とても気持ちいい。


 このままでも寝れそうだが、ちょっと違う。いつもの違うから違和感がある。


 俺はもぞもぞと上に動いて、後輩ちゃんが俺の胸に顔を擦り付けられるような位置になる。


 眠くて怠い腕を動かして、後輩ちゃんの頭を優しく撫でる。


 うん、やっぱりこれが一番落ち着く。



「ほえ? どうしておねんねしなかったんですか?」


「んっ!」


「えっ? 違和感があった? この体勢がいい? 先輩がそれでいいなら私は何も言いませんけど」


「んっ!」


「私もスリスリしていいんですか? なら遠慮なく」



 おぉ…後輩ちゃん凄い。俺の言いたいことがちゃんと伝わっている。


 後輩ちゃんが俺の胸に顔を擦り付けてスリスリしている。


 クンクンと匂いも嗅いでいる。


 やっぱりこれが落ち着く。後輩ちゃんも嬉しそうだ。



「はふぅ~。私も眠くなってきました……」



 後輩ちゃんの可愛い欠伸。僅かに目を開いてみると、後輩ちゃんはもう既に瞼が半分閉じかかっていた。


 とても気持ちが良さそう。うつらうつらしている。


 いつも後輩ちゃんは数秒で寝てしまう。寝つきが驚くほど良い。



「しぇんぱぁい……一緒に……寝ま…しょう…」


「……そうだな」


「おや……しゅみ…な……しゃい…」


「おやしゅみ……」



 もう無理……俺も寝ちゃう……。


 俺は後輩ちゃんという抱き枕をむぎゅッと抱きしめた。


 眠気を誘う甘い香り。心地良い温かさと柔らかさ。すぅすぅという可愛らしい寝息。


 一瞬だけ後輩ちゃんが眠気に抗うように俺にむぎゅっと抱きしめてきて、すぐに脱力させて完全に眠ってしまった。


 可愛いな、と夢と現実の狭間で思った俺は、愛しい人を抱きしめて完全に眠ってしまうのだった。


















<おまけ>


 ガチャリ! (ドアを開ける音)



「弟くぅ~ん! 妹ちゃ~ん! あ、あれっ? 寝てるの? あらあら! こんなに気持ちよさそうに寝ちゃって! お姉ちゃんも混ざりたいけど止めておきましょう! あっ! 写真写真!」


 カシャシシシシシシシシンッ!


「連写オーケー! ふふふっ! 二人ともおやすみなさい」



 カチャリ… (静かにドアを閉める音)


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