第193話 独占欲と後輩ちゃん

 

「むぎゅ~~~~~~~~~~~!」



 後輩ちゃんは、俺が誕生日プレゼントであげたぶちゃいくな猫のぬいぐるみ『ニャンコ先輩』を抱きしめて、ぶてっとしたお腹をフニフニしている。


 そして、その後輩ちゃんを俺は後ろから抱きしめて、柔らかなお腹をフニフニしている。


 至福の柔らかさ。最高です!



「むぎゅ~~~~~~~~~~~!」



 後輩ちゃんの柔らかくて温かくてしなやかな身体を抱きしめる。


 甘い香りが鼻腔を満たす。後輩ちゃんのすべてが俺を癒してくれる。



「むぎゅ~~~~~~~~~~~!」


「ふふっ! 先輩がいつもより私を抱きしめてきます!」


「別にいいだろ! むぎゅ~~~~~~~~~~~!」



 後輩ちゃんの口元が緩んでいるのが後ろから見えた。


 俺は後輩ちゃんの肩に顎を置いて拗ねた声を出す。



「お風呂上がったよー!」



 お風呂上がりの桜先生がやってきた。濡れた黒髪をタオルで拭いている。


 でも、桜先生は白のショーツを穿いただけでブラはしていない。胸が丸見えだ。



「………姉さん、何度も言うけど下着をつけてくれ…」


「ほえっ? ちゃんとつけてるわよー! ほれっ!」



 白のショーツをアピールさせる桜先生。


 俺が指摘しているのはそっちじゃなくて上の方だ。



「ブラはどうした?」


「だってキツイんだもん! で、弟くんは何してるの?」


「………………後輩ちゃんを抱きしめてる」



 下着をつけさせることを諦めた俺は、桜先生が見たままの光景を言う。


 抱きしめている後輩ちゃんがクスクスと笑い、余計なことを告げる。



「先輩は独占欲を発揮させて私を抱きしめているの! ですよね! 可愛い先輩!」


「………………うるさい。可愛いは余計だ」


「えぇー! 可愛いのに」


「本気出すぞ!」


「わわっ! だ、だめです! こんな至近距離で浴びたら死んじゃいますって!」


「そんなに俺は怖いか?」



 うぅ……やっぱり怖いのかなぁ俺。


 こうなったら後輩ちゃんのお腹をフニフニして癒されてやるぅ―!


 フニフニ、フニフニ、フニフニ、フニフニ、フニフニ。


 お腹をフニフニされている後輩ちゃんは、慌てて首を振って振り返った。



「ち、違いますよ! 全然怖くありません! 先輩の本気は私の中の女を刺激するから死んじゃうんです! ゾクゾクします! 発情します! エロくなります!」


「何だよそれ!」


「あぁー。それはわかるわー!」


「姉さんまでっ!?」



 うっとりと陶酔した表情で身体をブルブルと震わせる後輩ちゃんと桜先生。


 あのー? エロいんでその表情を止めてくれませんか?


 人差し指で艶やかに自分の唇を撫でるのも止めてください。お腹に手を当てるのも!



「弟くんが独占欲を出すなんて珍しいわね。何かあった?」



 上半身裸の桜先生が俺たちの近くに座る。


 いろいろと見えているので近づいて欲しくないのですが………。



「よくぞ聞いてくれました! 先輩が独占欲を出すきっかけは…! 出すきっかけは……なんでしたっけ?」



 キョトンと首をかしげた後輩ちゃん。本当に忘れているようだ。というか、記憶にすら残っていないらしい。



「後輩ちゃんが他校の男子に告白されたからだろ!」


「あぁ~~~? えぇ~っと………らしいです!」



 どうやら記憶を探ったけど思い出せなかったらしい。


 後輩ちゃんの精神の防衛機能が発動してないよね? 大丈夫だよね?


 俺は抱きしめていた後輩ちゃんをちょっと横向きにして、至近距離でジーっと見つめる。


 後輩ちゃんの顔がポフンと真っ赤になった。



「ひゃっ!? ど、どうしたんですかっ!?」


「じっとしてろ…」



 真剣な口調で後輩ちゃんに囁いた。



「あうあう……」



 後輩ちゃんの頭からポフンと蒸気が上がった気がする。


 どうしたんだろう? でも、今は後輩ちゃんの様子を確認しなくては!


 ふむふむ。真っ赤で恥ずかしそうだけど、ちゃんと瞳は輝いている。


 精神は大丈夫そうだ。ふぅ。よかった。


 真っ赤な顔で恥ずかしそうにしつつも、潤んだ瞳で何かを訴えてくる後輩ちゃん。


 その可愛らしい唇に軽くキスを施す。



「あっ……」


「俺の彼女は超絶可愛いな」


「うぅ……私の彼氏さんは超絶かっこいい……です…」


「ふふっ。嬉しいことを言ってくれるな」



 ちょっと、いや、結構嬉しくなったから、後輩ちゃんの可愛らしいお鼻にチョコンとキスしてみた。


 後輩ちゃんはあまりの恥ずかしさに両手で顔を隠そうとするけど、俺はその手を遮る。



「可愛い顔を隠したらダメだろ?」


「で、でも……!」


「もっと俺に見せてくれよ」


「あぅ……先輩が独占欲でおかしくなっちゃいました…!」


「こんな俺は嫌か? 独占欲が強い俺は嫌か?」



 後輩ちゃんはすぐにフルフルと首を横に振る。



「いえいえ! そんなことはありません! そ、その…もうちょっと独占欲を出してくれても…」


「こんな感じか?」



 俺は後輩ちゃんの顎をクイっとあげると、そのまま濃厚なキスをする。


 舌は入れない。後輩ちゃんの唇をハムハムする。



「葉月…俺だけを見ていてくれ…」


「ふぁいぃ~」



 とろ~んと蕩けた後輩ちゃん。口元はだらしなく緩み、瞳は焦点があっていない。



「ふふっ。葉月は可愛いな」


「も、もう! 先輩のばかー! あほー!」


「葉月、好きだ」


「ひゃぅ…!」


「あぁ…だめだ…そんな可愛い表情をしたら、思わずイジメたくなるだろ?」


「あぅあぅ……もうだめぇ~! 私もうだめですぅ~! 独占欲を出したドSの先輩にキュンキュンしちゃいますからぁ~! 先輩にとことんイジメて欲しいって思っちゃってますからぁ~!」


「正直者にはご褒美だ」



 俺は再び後輩ちゃんにキスをする。


 真っ赤になって恥ずかしがりつつも、後輩ちゃんはキスを受け入れ返してくれる。


 キスをしている時も、していない時も後輩ちゃんは可愛い。


 独占欲を出してちょっとおかしくなった俺は、後輩ちゃんに沢山キスをするのであった。




















<おまけ>



「じーーーーーーーーーーっ!」


「「あっ!」」


「あっ、いいのいいの。お姉ちゃんのことは気にしないで続けて続けて!」


「じゃあ遠慮なく」


「だめぇええええ! 先輩だめぇええええ! ほ、ほらっ! お姉ちゃん服を着ないと湯冷めしちゃうよ! 先輩も髪を乾かしてあげないと!」


「「えぇー!」」


「コラそこ! 残念そうな声を出さない!」


「………姉さん。早く服を着て来て。髪乾かすから」


「そうね。早く終わらせて」


「「続きをする!」」


「だからダメだってばぁあああ! 私が死んじゃうよぉ~!」


「でも、後輩ちゃん」


「結構いいって思ってるでしょう?」


「………………まあ、思ってますけど…ほどほどにしてくださいね、先輩?」


「今日は無理!」


「うわぁ~ん! 先輩のばかぁ~! あほぉ~! ヘタレに戻ってぇ~!」


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