第192話 鋭い瞳の先輩
放課後になった。私は靴を履き替え、テクテクと待ち合わせ場所まで歩いて行く。
今日は帰る途中で先輩とお買い物に行く予定なのだ。
買うものは普通に食料品。食料は三人分だからあっという間になくなるらしい。
帰り道の食料品店によって帰るのが私の密かな楽しみです。
だって、お店のおば様たちが向けてくる微笑ましい視線が嬉しいから!
先輩の彼女だっていう気持ちに浸れる。
それに、いつも校門で待ち合わせるのも楽しみの一つだ。
私は超インドア派なので外に出歩くのはあんまりない。先輩とデートなら行こうかなって思うけど。
そうなると、ナンパが嫌だから先輩と家から一緒に出発することになる。
待ち合わせなど必要ないのだ!
だから、学校帰りの校門での待ち合わせはいつもいつも楽しみだ。やっぱり先輩の彼女だっていう気持ちになれる。
校門が見えてきたけど、何やら騒がしい。人だかりができている。
んっ? 男子生徒が誰かを待っているみたい。それも他校の。
まあ、私は関係ないか。少し離れて先輩を待っておこうっと!
うぅ~! いつもドキドキするなぁ! いつまで経っても慣れない。
先輩にハグされるのもキスされるのも手を繋がれるのも慣れないけど!
「…………さん……………さん!」
今日はどうやって先輩を揶揄おうかなぁ。腕に抱きつく? ふむ、いつも通りだ。タタタッと走り寄って上目遣い? ふむ、これはアリかも。
「…………さん……………さん!」
やっぱり先輩にガバーッと抱きつくのがいいかな? でも、学校じゃ恥ずかしいなぁ。
いや、恋は戦争だ。先輩が変な色目を使われないように積極的にアピールするのだ! 頑張れ山田葉月! 頑張るのだー!
うおぉー!、と闘志を燃やしていると、私の身体が無意識に動き、肩に伸びていた手をヒョイッと避けた。
「聞こえていますか!? 山田葉月さん!? ……って、あれっ?」
男子生徒が空を切った自分の手を見つめている。人だかりの原因の他校の男子生徒だ。
「なんですか?」
私の口からものすっごく冷たい声が漏れた。瞳も冷たいに違いない。
先輩以外の男に触れられたくない!
どうやら他校の男子生徒は私に用があったらしい。私の冷たい声と瞳に顔をこわばらせているけど。
顔はそれなりに整っている男子だ。周りの女子が目をハートにしている。
私は全然好みじゃないけど。私の好みは先輩!
いつも存在感を消して……私が命令して消させている先輩もかっこいいし、本気を出した先輩もかっこいい。超絶なイケメンになる。そのギャップがすごい。あの覇気とか、鋭くて力の籠った冷たい迫力ある瞳とか!
あぁ…考えるだけでゾクゾクしちゃう! あの瞳で見つめて欲しいなぁ。
おっと。目の前で何か喋っている他校の男子のことを忘れていた。どうやら告白らしい。
真っ赤な顔になって緊張した声で喋っている。
「………あの、だから、山田葉月さんのことが好……」
「後輩ちゃんお待たせ!」
男子の告白の言葉を遮るように後ろから私を呼ぶ声がした。間違えることはない。先輩の声だ。
私は振り返って先輩の姿を捉えると、パパパッと走り寄って抱きついた。
「先輩!」
「おっと! 飛びつくのは危ないだろ?」
「先輩なら抱き留めてくれるでしょ? だから安心して抱きついたんです!」
あぁ~先輩の香りだぁ。クンクン……癒される……。
先輩は呆れながらも優しく抱きしめてくれる。なんやかんや拒絶しないのは先輩のいいところだ。
「あ、あの? 山田葉月さん?」
だぁ~れぇ~? 私の至福の時間を邪魔するのは!
グリンっと顔を回して邪魔した相手を睨みつける。他校の男子は気圧されて後退った。
「後輩ちゃん、どちら様?」
「告白してきた他校の男子みたいです。丁度告白の時に先輩が割り込んできました」
「あちゃ~! タイミング悪かったか!」
むぅ! タイミング良かったですよ! ベストタイミングです!
先輩は彼女の私が告白されても何とも思わないんですかっ!?
およっ? 先輩がいつもと違う?
私の腰に片手を回し、グッと抱き寄せる先輩。ちょっと本気モードで他校の男子を鋭く見つめている。
はわわ……超至近距離! 超至近距離だから! 私の身体が持たないよぉ~♡
「俺の彼女に何か用か?」
ひゃぅっ!? だ、だめぇっ! 先輩がかっこよすぎるぅ~! 堕ちちゃうからぁ~! 刺激が強すぎるよぉ~!
「い、いえ……何でもないです……」
「そうか。葉月行くぞ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
ちょっと本気モードの先輩に誘われ、腰に手を回されたまま、私の身体が勝手に歩き出す。
もう訳がわからない! 先輩がかっこよすぎて頭が働かない! 身体は先輩に支えられて機械的に動いているだけ!
あれっ? 私、告白されていたようないないような………まあどうでもいいか! 今は先輩をボーっと見つめるので忙しい! はぁ…かっこいい…♡
鋭い瞳の先輩が私に視線を向けた。
ゾクゾクとした感覚が体中を駆け巡る。身体の奥底から刺激される。
「ひぅっ!?」
「後輩ちゃん大丈夫か?」
「だ、だいじょばないですぅ~♡」
「どうした? 告白されて気持ちが…」
「告白? 原因は先輩なんですけど! 先輩なんですけどぉ! もう! かっこよすぎです! 先輩のばか!」
「お、おぅ。ごめん?」
「罰として私を可愛がってください!」
「それくらいなら喜んで。俺のお姫様」
ひゃぅっ! わ、私のばかぁ~! なんてことを提案しちゃったのぉ~! このままだと身体が持たないよぉ~! でも、先輩にトロトロにされるの悪くないかもぉ~!
私、どうすればいい!?
私は先輩の腕の中で自問自答を繰り返す。答えは一向に出ない。
先輩は私を支えながら優しく質問してくる。
「後輩ちゃん。今日何が食べたい?」
「先輩です!」
「俺は食べられないかなぁ」
性的になら食べられるはずです! むしろ、私を食べて欲しいです!
私と先輩はお店に向かって歩き続ける。
先輩は独占欲が現れたみたいで、家に帰りつくまで私を離さず、ずっと鋭い瞳のままだった。
私がキュンキュンし続けたのは言うまでもない。
家に帰りついた途端、頑張って歩いた私の腰は砕けてしまったのだった。
ちなみに、今日の夕食は先輩ではなく私でもなく牛丼でした。
とても美味しかったです。
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