第191話 ラップ越しのキスと後輩ちゃん

 

「先輩! 先輩先輩せんぱぁ~い!」



 何やら後輩ちゃんが仁王立ちしている。桜先生は入浴タイムだ。


 またいつもの突然の思い付きかな?


 今日の後輩ちゃんは白いワンピース姿。スカート丈は短い。


 リビングで寝転んでいる俺から白い肉付きの良い太ももと、スカートの奥のピンクの下着が見えている。


 紳士の俺はそのピンク色の下着を記憶へとしっかり刻みつつも、後輩ちゃんに指摘してあげる。



「後輩ちゃん、下着見えてるぞ」


「先輩のえっち!」



 恥ずかしそうに頬を朱に染めて、ワンピースのスカートを押える後輩ちゃん。


 瞳は悪戯っぽい光で輝いている。口元もにやけている。


 さては、わざとやったな? 後輩ちゃんも成長したものだ。前なら物凄く恥ずかしがっていたのに。


 ニヤッと笑った後輩ちゃんは、スカートを摘まんでゆっくりと上げていく。


 俺からギリギリ見えないところで止めた後輩ちゃんは、恥ずかしそうに視線をそらしながら問いかけてきた。



「せ、先輩…………見ますか?」



 実にあざとい。あざと可愛い。俺を揶揄っているのがよくわかるけど、後輩ちゃんが可愛すぎてもうどうでもいいと思ってしまう。


 思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。


 俺もお年頃の男だ。現役の男子高校生だ。そういう欲は当然持っている。


 でも、必死に我慢して、いつも通り断ろうと思ったら、ニヤリと笑っている後輩ちゃんが目に入った。


 このまま断って揶揄われるのもやっぱり嫌だな。



「………じゃあ、見せてくれ」


「いいですよー! 見せてあげ…ます……ね…?」



 ニヤニヤ笑って断る俺を揶揄おうと思っていた後輩ちゃんは、予想外の返答を途中まで理解できなかったようだ。


 言葉の途中で固まった。目を瞑って俺の返答を思い出す。そして、カァッと目を見開いた。



「えぇぇええええええええ!? うそぉぉおおおおおおおお!?」



 スカートからパッと手を離し、顔を爆発的に赤く染めた後輩ちゃんは、ズサササッと後退って壁に張り付いた。



「せ、せせせせせせせ先輩!? ど、どうしよ!? どうしようっ!? 先輩が! 先輩がぁ!? ふぇぇぇええええええっ!?」


「どうした、後輩ちゃん?」


「しぇんぱいが! 先輩が下着を見たいって! ふぇぇっ!?」


「俺だってそういう欲もあるし」


「知ってますけど! 知っていますけど! あのヘタレの先輩が!?」



 ヘタレで悪かったな! 別に何度もこういうやり取りをしてるだろうが!


 真っ赤になった後輩ちゃんがチラチラと視線を向けてくる。



「ただ揶揄っただけだ。見なくていい」


「で、でも! み、見ます?」


「見ません」


「えぇー! 見てくださいよぉー!」



 後輩ちゃんは俺にどうしてほしいんだよ! 恥ずかしがって俺を避けるのか、積極的に下着を見せたいのかどっちなんだ!?


 取り敢えず、話を元に戻すとしよう。後輩ちゃんは何を言いたかったんだろう?



「後輩ちゃん? 何か思いついたようだったけど、一体何だったんだ?」


「そ、そうでした! どこかのヘタレ先輩のおかげですっかりと忘れていましたよ!」



 壁際まで後退って恥ずかしがっていた後輩ちゃんは、スススッと戻ってきて、俺の前で仁王立ちする。


 だからピンク色の下着が見えているから!



「先輩! キスをしましょう!」


「んっ!」



 俺は両手を広げる。後は後輩ちゃんが飛び込んでくるだけ。


 でも、何故か後輩ちゃんは飛び込んでこない。


 普段なら喜んで飛び込んでくるところなんだが、どうしたんだろう?



「今日はちょっと違うキスをしましょう!」


「違うキス?」



 俺はもぞもぞと起き上がる。座った俺の前に後輩ちゃんが座った。



「じゃじゃーん! ラップです! ラップ越しにキスしてみましょう!」



 後輩ちゃんの手にはいつの間にかラップが握られている。



「なんでそんなことを思いついたんだ?」


「えーっと、クラスの女子たちと読み回している漫画の中にあって、どういう感じになるのかなぁっと思いまして」


「そうか。まあいいや。ラップ越しにキスするか」


「おぉ! ヘタレの先輩がやる気です! ヘタレの先輩の気が変わらないうちにやっちゃいましょー!」



 ラップを切って、静電気でくっつくのに苦戦しながら、後輩ちゃんは準備が完了する。


 俺も準備は完了している。心の準備も終わった。後はキスするだけ。


 後輩ちゃんが目を閉じた。


 俺はゆっくりと顔を近づけていき、ラップ越しに後輩ちゃんの唇にキスをした。


 ラップ越しに後輩ちゃんの柔らかな唇の感触を感じる。


 後輩ちゃんとキスをしながら、その柔らかな身体を抱きしめた。


 甘い香りが鼻腔を満たす。


 どのくらいキスをしていたのだろう? 俺たちはゆっくりと顔を離した。


 熱っぽく潤んだ後輩ちゃんと至近距離で見つめ合う。



「………先輩」


「………後輩ちゃん」


「「ラップ邪魔!」」



 俺たちは同時に言い、ラップを投げ捨てた。


 息をすれば顔に張り付いてくるし、涎でベトベトになる。


 軽いキスならいいかもしれないけど、激しいキスには向かない。



「………先輩。続きをお願いします」


「わかった」



 俺は可愛らしくおねだりをしてゆっくりと瞳を閉じた後輩ちゃんの唇に再びキスをする。


 やっぱりラップがないほうがいい。


 こうして、俺と後輩ちゃんは桜先生がお風呂から上がってくるまで、じっくりねっとりと激しいキスをするのであった。











<おまけ>



「お風呂上がったわよー! あれっ? 弟くん、妹ちゃん。顔が赤いけどどうしたの?」


「「何でもない!」」

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