第189話 文化祭の話し合いと後輩ちゃん

 

「今日は11月初めに行われる文化祭の出し物について話し合いまーす! 拍手拍手!」



 文化祭実行委員の女子が黒板の前に立って声を張り上げた。


 俺たちはパチパチと拍手をする。俺たちのクラスはみんなノリがいい。


 実行委員は満足そうに頷いた。



「文化祭は三日間。金、土、日曜日です。じゃあ、好きに発言どうぞ―」


「メイド喫茶!」



 男子の一人が立ちあがって叫ぶ。他の男子も拍手をしたり歓声を上げてその案を支持する。


 やっぱり言うと思ったよ。欲に忠実で尊敬する。


 女性陣全員からの冷たい蔑みの視線に気づいているのかな? 気づいていないか。



「コスプレ喫茶もいいぞ!」


「おぉ! いいなそれ! エッロエロのコスプレを……」


「メイドもコスプレとして女子にさせれば……」


「ナイスアイデア! 俺はコスプレ喫茶を推すぞ!」



 欲望に忠実な男子ども。清々しいな。


 俺もあれくらい欲に忠実になってもいいかな?


 ………やっぱり止めておこう。俺は俺だ。


 男子に白い目を向けていた女子たちも自分の意見を言い始める。



「男子どもー! そんなに言うんだったら男子は女装やれー!」


「いいねー! 女装喫茶! 私たちは男装しちゃう? 面白そうじゃない? 男装女装喫茶」


「さんせー!」



 それは止めてくれないかな? 夏休みのクラス会のトラウマが蘇るんだけど。



「ちょっと! 喫茶店ばかりじゃ面白くないでしょ! 私は屋台がいい!」



 ナイスアイデア! 女装よりも屋台のほうが俺はいい。



「何の屋台?」


「屋台は……屋台よ!」


「決まってないのね。販売員は女装した男子ね」



 何故そうなる!? 何故女装にこだわる!? バッドアイデア!


 女装を阻止するために俺も案を考えていると、今まで黙っていたお隣の後輩ちゃんが、ガタッと勢いよく立ち上がった。



「私はお化け屋敷を提案します!」


「却下っ!」



 俺も即座に立ちあがって後輩ちゃんの案を否定する。


 後輩ちゃんめ! 俺を怖がらせるために最悪な案を出しやがって!


 お化け屋敷よりも女装のほうがまだいいぞ!


 即座の否定に後輩ちゃんがムッとする。



「却下を却下します! これは案の段階なので、いろんな意見を出すべきです!」


「くっ! 何も言い返せない!」


「どやぁ!」



 ムカッとする程可愛らしいドヤ顔だな!


 俺を言い負かしてとても嬉しいらしい。いつもの二倍くらいドヤ顔が輝いている。


 ドヤ顔をしている後輩ちゃんと見惚れている俺に、文化祭実行委員の女子が呆れた様子で注意する。



「はーい。そこのラブラブバカップルさん! イチャイチャするのは後にしてくださーい!」


「いや、全然いちゃついていないけど」


「私の権限でお化け屋敷にするぞ?」


「マジすんませんした! いちゃついて申し訳ございません!」



 ちっ、という舌打ちがあらゆるところから漏れる。男子と女子の嫉妬の舌打ちだ。


 俺は大人しく席に座って小さくなっておく。お隣の後輩ちゃんはニヤニヤと笑っている。


 その後は男子全員のコスプレ喫茶派と女子の男装女装喫茶派、お化け屋敷派の三つのグループに分かれた。


 激しい言い争いが起こっている。


 俺は消去法でコスプレ喫茶派。後輩ちゃんは男装女装喫茶とお化け屋敷で悩んでいる様子だ。自分がお化け屋敷を提案したのに。


 更にヒートアップする言い争いを聞きながら、俺はお隣の後輩ちゃんにこっそり話しかける。



「これ、ちゃんとまとまるのか?」


「さあ? でも、多数決取ったらコスプレ喫茶になりそうですよね。コスプレ喫茶は男子全員なのに対し、男装女装喫茶とお化け屋敷は女子が二つに分かれていますから」


「だよな」


「先輩はどれですか?」


「消去法でコスプレ喫茶」


「お化け屋敷でもいいんですよ?」


「絶対に嫌!」


「ちっ!」



 あれっ? 今、後輩ちゃんの舌打ちが聞こえなかったか? 気のせいか?


 舌打ちした容疑がかかった後輩ちゃんは、いつものように悪戯っぽい笑顔を浮かべる。



「先輩はそんなに私にコスプレさせたいんですかぁ? エッロエロなコスプレを。もう! 先輩のえっち!」


「そんなことは言っていないだろう!」


「家でならいくらでもしてあげますよ…」



 耳元で囁かれる小悪魔の甘い誘惑。くっ! 魅力的過ぎる!



「………それは本当か?」



 俺は誘惑に耐えきれず、後輩ちゃんに囁いて聞き返す。


 小悪魔な後輩ちゃんは艶美な声で再び囁いた。



「………………本当です♡」



 よっしゃ! いつかコスプレをしてもらおう。言質は取った!


 クスっと微笑んだ後輩ちゃん。


 自分の席に座り、周りの白熱した言い争いを眺め、鬱陶しそう顔をしかめる。



「はぁ……これって幽霊の男装女装コスプレをしたお化け屋敷喫茶って出来ないのかなぁ?」



 突如、教室がシーンと静まり返る。そして、女子たちが一斉に後輩ちゃんを見つめた。


 見つめられた後輩ちゃんはキョトンとしている。



「そうよ! 全部一緒にしちゃえばいいじゃない! 幽霊の男装女装コスプレをしたお化け屋敷喫茶! 全部解決!」


「葉月ナイスアイデア! ウチも賛成!」


「私も賛成!」



 女子たちは全員賛成するようだ。ここで再び男子対女子の議論は行われ……ない!


 文化祭実行委員の女子が即座に多数決に移る。



「幽霊の男装女装コスプレをしたお化け屋敷喫茶に賛成の人!」


「「「「はーい!」」」」



 女子の全員が手を上げる。後輩ちゃんも手を上げていた。



「はい。賛成多数で可決! 決定しまーす!」



 文化祭実行委員の女子は数えるまでもなく可決して決定させた。


 このクラスは男子よりも女子のほうが人数が多い。だから、女子が全員手をあげれば多数決で決定してしまうのだ。


 残された俺を含む男子はポカーンと口を開ける。


 女子たちは男子を置き去りにして、今決まった出し物の話題で盛り上がる。



「さて、男子には何のコスプレをさせようか」


「貞子?」


「お菊さん? トイレの花子さんもいいかも」


「ゾンビに幽霊、ミイラもあり!」


「颯くんは女装させたら着物系が似合いそう。雪女とかいいんじゃない?」


「それ採用! 先輩に雪女! 絶対それがいい! ふむ。先輩が雪女なら、私は雪男!」


「ぷっ! 雪男!? それって毛むくじゃらの? あはは! 笑える! UMAかっ! 葉月のイエティ!」



 女子たちが大爆笑する。後輩ちゃんも楽しそうに笑っていた。


 その間、クラスの中で立場の弱い男子たちは、想像していたコスプレ喫茶にならなくてしょんぼりと肩を落として残念がっていた。


 俺は最悪な出し物に決定して絶望していた。


 くそう! 女装にお化け屋敷だなんて! 文化祭なんか休んでやる!


 後輩ちゃんのばかぁぁああああああああああああああああああああ!




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今年も一年間ありがとうございました!

思い返せば………あれっ? 初めて小説書き始めたのは今年の四月?

………あれっ?

カクヨム様に登録したのが六月。

ノリと勢いでこの『汚隣の後輩ちゃん』を書き始めたのは七月の初め。

まだ一年も経っていない?

………………あれっ?


もう一年以上小説を書いている感覚に陥っていました!

読者の皆様の応援のおかげで、この作品は毎日投稿できております!

17万PV、フォロワー数850人を超えました。(2019.12.31現在)

本当にありがとうございます!


これからも頑張って書いていきますね!

来年もよろしくお願いいたします。


作者 クローン人間


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