第187話 性教育と後輩ちゃん
怠い。物凄く怠い。寝不足で頭が働かない。目に下には隈がある。
昨晩台風が過ぎ去り、今日は普通に学校があったのはいいが、後輩ちゃんの怪談話と丁度良いタイミングで起こった停電で寝不足だ。怖くて全然寝ることができなかった。
怖い話と停電と台風はもうこりごりです。
作業員の人が頑張ったのだろう。一時間くらいで復旧したけど。
おかげで冷蔵庫の中身が駄目にならなくて安心しました。
本日寝不足の俺は机に突っ伏している。
あぁ~怠い眠い帰りたい。後輩ちゃんを抱き枕にしたぁーい!
「ふふっ。先輩眠そうですね」
お隣の席の後輩ちゃんが悪戯っぽく微笑んでいる。
俺は寝不足の原因である後輩ちゃんを睨むが、寝不足の睨みでは威力が足りなかったようだ。
「誰かさんのおかげでな!」
「昨夜の先輩は可愛かったです。おかげで私は元気いっぱいですよ! あぁ…可愛かったぁ」
うっとりとしている元気いっぱいの後輩ちゃん。後輩ちゃんもあまり寝ていないからテンションがおかしくなったか?
机に突っ伏してボーっとしていると、授業が始まる。
「じゃあ授業を始めるわよー!」
「「「はーい!」」」
教室に入ってきた桜先生。小学生のように元気よく返事をする俺たちのクラスメイト。
今からは桜先生による保健体育の授業。内容は性教育だ。
うぅ…寝てもいいかな? バレる? バレないよね?
「はい、そこの寝不足の宅島君! ちゃんと授業を聞いてください!」
「………へーい」
桜先生にあっさりと注意されました。クラスメイトもクスクスと笑っている。
後輩ちゃん。そんなに楽しそうにニヤニヤと笑わないでくれない? 俺、恥ずかしいんだけど。
俺を注意した桜先生は普段のポンコツさを隠し、真面目でクールに授業を進める。
「今日は性教育を行います」
普段なら恥ずかしい授業なのに、クラスメイトは本当に真面目に授業を聞いている。主に男子。桜先生の言葉を一言一句聞き逃すまいと今までにないほど集中している。
全てはエロのために。
「みんなは性行為についてどういうイメージを持っている?」
桜先生の問いかけに、クラスメイト達が自由に発言を始める。
恥ずかしいとか、気持ちいいとか、痛い、怖い、などなど、沢山の意見が聞こえる。
俺は眠くて発言ができない。授業を聞いているから許して……。
「うんうん。そういうイメージよね。でも、性行為を気持ち悪いって思わないで欲しいの。子供を作るうえで大切な行為だし、好きな人と愛を深め合う行為なの」
「美緒ちゃんセンセーは何人と経験したんですかー?」
一人の男子が調子に乗って桜先生に質問する。
教室がシーンっと静まり返った。男子たちは興味津々で、女子たちはデリカシーのない男子たちを冷ややかな目で睨んでいる。
桜先生はニコッと微笑みながら言葉を発した。
「…………聞きたい?」
綺麗な笑顔なのに何故か恐怖が襲ってくる。桜先生の瞳が笑っていない。どんよりと黒く淀んでいる。
「ご、ごめんなさい」
質問した男子生徒は顔を青くし恐怖で震えながら謝った。
全員が質問自体をなかったことにする。なかったことにしなさい、いいわね、と男性経験皆無の桜先生の瞳が言っている。俺たちは無言でうなずく。
「えーコホン! 授業を続けるわよ。性行為っていうのは好きな人と愛し合うことなの。とある調査では、高校生で性交渉を行ったことがある人は10%程度いるそうよ。先生としては、ちゃんとした知識を持って避妊をするのであれば、高校生で行っても良いと思うの。先生はね」
その瞬間、クラスメイト達全員がバッと勢いよく俺と後輩ちゃんに視線を向けた。
な、なんだ!? 俺と後輩ちゃんは何もしていないからな! してないからな!
「今日、颯くんは寝不足……」
「葉月はお肌がツヤッツヤ」
「まさか昨夜……?」
「ヤッた? ヤッた? ヤッちゃった? きゃー!」
「くぅっ! たぁ~くぅ~しぃ~まぁ~!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
興味と疑惑の視線を向けてくる女子たち。嫉妬と殺意の視線で睨みつける男子たち。
皆絶対に誤解している。俺と後輩ちゃんは何もしていない……まだ。
後輩ちゃんも真っ赤になって俯いているから余計に誤解を招いている。
でも、俺は気づいている。後輩ちゃんの口元が僅かに笑っていることに。
わざと誤解を招き、外堀を埋めるとともに、俺を困らせ、揶揄い、遊んでいる。
クラスメイト達に絶対にヤッていると思われているから、俺は立ち上がって反論し、誤解を解く。
「言っておくが、俺と後輩ちゃんは何もしていないからな!」
「…………ヘタレ」
「おいコラ後輩ちゃん! 今ヘタレって呟いたの聞こえたからな!」
自分は言っていませんよー、みたいなすまし顔をしても無駄だぞ! そっぽ向いても無駄だ! 口笛を吹いても無駄だ!
「宅島君?」
「なんですか桜先生?」
「高校生だから避ける気持ちもわかるけど、ヘタレすぎるのもよくないと先生は思うの」
「流石美緒ちゃん先生です! だそうですよヘタレ先輩!」
「あーはいはい。じゃあ、授業を続けてください。ちゃんとした知識を身につけたいんで」
俺は桜先生の意見を軽やかに避けて授業の続きを促す。
後輩ちゃんが不満げな顔をしているけれど気にしない。
というか、クラスメイト達全員の前で話すようなことじゃなかった気がするんだけど。
俺がヘタレ認定されてしまった。あっ、元から認定されてたや。あはは…。
「じゃあ、山田さんと昨夜いろいろとあって寝不足の宅島君は特に聞いておくよーに!」
へいへい。わかりましたよ。だから誤解を招くことを言わないでもらえませんかね?
昨夜なんもなかったことは桜先生も知っているでしょうが!
こうして、桜先生の行う性教育の授業は、時々俺が揶揄われながら進んでいくのだった。
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