第184話 Sっ気と後輩ちゃん
「台風だー!」
窓の外は風が吹き始め、空はどんよりと曇っている。少し雨も降っているようだ。
台風がこれからどんどん近づいて来る。まだ強風域にも入っていないのに風が吹き始めた。
ピークは昼過ぎから夕方らしい。
台風の影響で今日の学校は休校。俺も後輩ちゃんも桜先生も家にいる。
あれっ? ここは俺の部屋で、お隣が後輩ちゃんの部屋で、真下が桜先生の部屋だったような……。
まあいっか。細かいことはどうでもいい!
今日は休校を楽しむぞー!
朝から外を確認し、物が飛んできて窓ガラスが割れてもガラスが散乱しないようにカーテンを閉める。
振り返ると、じーっと俺を見つめる後輩ちゃんと桜先生がいた。
「「じーーーーーっ!」」
「ど、どうしたんだ、二人とも?」
「先輩、約束です。私たちを…」
「甘やかすのよー!」
そうでしたそうでした。忘れていませんよ。ただ、どうやって甘やかそうか考え中です。
一体何をしようかな? こういう場合は二人に直接聞いてみよう。
「後輩ちゃん、姉さん。俺に何してほしい?」
「………………先輩。今の言葉を耳元で囁いてもらってもいいですか?」
「お姉ちゃんも!」
えっ? 耳元で囁く? それくらいならお安い御用だけど。
ただ囁くだけでは面白くないな。普段から揶揄われている仕返しをしたい。
俺は目を瞑って楽しみにしている後輩ちゃんと桜先生にそっと近づき、二人の腰に手を回してグッと引き寄せる。
驚きの声が上がるが気にしない。
抱き寄せた二人の耳元で、ちょっとイケメンボイスをイメージしながら囁いた。
「葉月、美緒。俺にどうしてほしい?」
ちょっとSっ気を出しながら、セリフも変えてみました。
ビクッと身体を震わせる二人。そして、へなへな~っと脱力して床に座り込んでしまった。
腰を抱きしめていた俺も、当然二人につられて座り込む。
心配で慌てて二人を見ると、顔が真っ赤に染まって、瞳は熱っぽく潤んでいた。
「あぅあぅ…」
「あっ…あっ…」
「だ、大丈夫か!?」
「しぇ、しぇんぱぁい……こ、腰がぁ……」
「お、弟くんがかっこよすぎて……腰が抜けちゃった…動けない…」
えっ? 俺がかっこよすぎて腰が抜ける? そんなことあり得る?
でも、実際二人は床に座りこんじゃったし、刺激が強かったかな?
じゃあ、いつもの仕返しとして、追撃するとしますか。
俺は床に座り込んでしまった二人を優しく押し倒す。
頭を打たないように優しく床に倒し、覆いかぶさってみた。
「動けないのなら、俺の好きにしていいよな?」
普段は隠しているSっ気を前面に出してみる。
「ひゃっ………………きゅう~!」 パタリ!
「あぅっ………………うぅ~!」 パタリ!
あっ、気絶しちゃった。後輩ちゃんだけじゃなく桜先生まで気絶しちゃった。
脳の限界を突破してしまった二人は、それはそれは幸せそうに目を回して気絶している。
ちょっとやり過ぎてしまったかな? 反省反省。
俺は幸せそうな二人を順番にお姫様抱っこすると、ベッドに寝かせた。
熱暴走してしまった二人を団扇で扇いであげる。
気絶した二人は数分で目を覚ます。
ボケーっと目を開けた二人は、俺を見つけてガバっと跳ね起きて、即座に距離を取ろうとする。
ベッドの上で仲良く抱きしめ合い、顔を真っ赤にして、プルプルと震えている。
「先輩………」
「弟くん………」
「「いつものヘタレに戻って! 心臓が持たない!」」
えぇー。いつもヘタレヘタレって言うくせに、いざとなったらヘタレに戻れって?
まあ、いいけどさ。
俺はSっ気を心の中へ押し戻す。二人は安堵して深く息を吐いた。
「あの先輩はかっこよすぎ……本気の先輩とはまたちょっと違う……体の奥底からゾクゾクしちゃう! …………でも、そこが良い!」
「Sの弟くん……私、お姉ちゃんなのに弟くんにリードされてしまうかも……私、お姉ちゃんなのに! …………でも、そこが良い!」
「Sの先輩……Mの私……」
「Sの弟くん……Mのお姉ちゃん……」
「「最高!」」
何やら後輩ちゃんと桜先生が頬を赤く染めてハイタッチしている。
どうしたんだろう、と気になったけど、どうでも良さそうなので聞かないことにする。
俺は二人を団扇で扇ぎながら、ベッドの上で抱きしめ合っている姉妹に問いかける。
「二人とも大丈夫か?」
「大丈夫ですよー」
「お姉ちゃんも大丈夫! ちょっとビックリしただけだから」
「そうか。なんかして欲しいことあるか?」
「ひじゃまくら!」
「ひざまくりゃ!」
「「「………」」」
俺たちの間に沈黙が流れる。
後輩ちゃんと桜先生は徐々に真っ赤になって俯いてしまう。
今、二人は噛んだよな? 二人とも可愛らしく違う場所で噛んだよな?
恥ずかしがって俯く二人も可愛らしい。
「後輩ちゃんが『ひじゃまくら』で、姉さんが『ひざまくりゃ』だな。オーケー。わかった! 『ひじゃまくら』と『ひざまくりゃ』をしてあげよう!」
ちょっと揶揄ってみると、後輩ちゃんの身体がプルプルと震えだした。
ガバっと顔を上げ、潤んだ瞳でキッと睨む。
「あぁそうですよ! 『ひじゃまくら』ですよ! 『ひじゃまくら』をお願いしますよ!」
自棄になっちゃったかぁ。もっと恥ずかしがっている姿を愛でようと思ったのに。
でも、これはこれで可愛いのでいいです。
後輩ちゃんは俺をベッドに引き込むと、ゴロンと横になって俺の太ももを枕にする。
桜先生も恥ずかしそうに横になって太ももを枕にした。
二人の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じてスリスリしてくる。
なんだこの可愛い生き物は!
「はふぅ~!」
「ふぇ~!」
気持ちよさそうに漏らす声も可愛らしい。やっぱり猫みたいだ。
二人を愛でていた俺は、ムクムクっとSっ気が沸き起こる。
俺は二人に囁いてみた。
「葉月、姉さん、好きだよ」
もちろん後輩ちゃんは彼女として、桜先生は姉としてだ。前者は恋愛で、後者は家族愛だ。
俺の愛の囁きにビクッと身体を震わせた二人。
爆発的に真っ赤になり、プルプルと震え始めて、潤んだ瞳で可愛らしく睨んできた。
どうやら、不意打ちは卑怯、と言いたいらしい。
「「~~~~~~~~っ!?」」
声にならない悲鳴を上げた二人は、ポコポコと可愛らしく叩いてきた。
その様子が可愛くて、俺は後輩ちゃんと桜先生を愛でて、ずっと頭を撫で続けていた。
それからしばらく、俺は二人のお姫様のご機嫌取りに時間を費やすのだった。
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