第183話 避難グッズと後輩ちゃん

 

 今朝、台風が近づいていると気づいた俺は、台風が来る前に掃除やら洗濯物干しやらを済ませると、桜先生の運転する車に乗って、皆で買い物に行ってきた。


 買ったものはパンとかシリアルとかある程度賞味期限がある食品。一応乾電池とかも買っておいた。


 今から避難グッズの最後の確認を行う。



「後輩ちゃん! 姉さん! 準備はいいか!?」


「「イエッサー!」」



 ノリのいい後輩ちゃんと桜先生が敬礼して応えてくれる。


 では、早速始めよう。



「まずは水! たくさんある!」


「水確認! よーし!」


「よーし!」



 後輩ちゃんと桜先生による二重三重チェックが入る。


 ご丁寧にチェック表まで桜先生が作っていた。保健の授業とか仕事とかで使うから、チェック表くらい作るのは簡単だって言ってた。


 さてさて、次の確認をしていこう。



「食料です。賞味期限も………オッケーです!」


「食料確認! よーし!」


「よーし!」



 なにこれ? 後輩ちゃんと桜先生は楽しくなったの?



「乾電池に懐中電灯にラジオ!」


「乾電池、懐中電灯、ラジオを確認しました!」


「しましたー!」


「えーっと、筆記用具にホイッスル、手袋に、ちょっとしたナイフ。絆創膏などが入った救急箱にビニール袋。ライターもあるし蝋燭もある!」


「筆記用具、ホイッスル、手袋、ナイフ、絆創膏………………多い多い! 先輩一気に言いすぎです!」


「おっとごめん。姉さんは大丈夫か?」


「んっ? 問題ないけど」



 なん…だと!? あのポンコツの桜先生が問題ないだと!?


 ………………明日は大変な被害が出るかもしれない。


 水とか食料とかもっと増やすべきか? 靴を寝室に持って来ておこうかな?


 もしかしたら、台風だけじゃなくて大きな地震も来るかも……。


 桜先生のじっとりとしたジト目が襲ってくる。



「………弟くん。何か失礼なことを考えていない?」


「いや、大災害のことを考えていた」


「ならいいのだけれど」



 よし、誤魔化せたかな? 誤魔化せたよな? 俺は嘘は言っていないぞ。


 桜先生のジト目がなかなか消えないので、俺は避難グッズの確認を再開する。



「えーっと、歯ブラシとか、鏡とかも入れてあるし、二人用の生理用品も準備してあります」


「おぉー! ありがとうございます!」


「ありがとう、弟くん」



 ふふふ。普段からいつも準備してあるのだよ。


 いつ災害が来ても大丈夫! 来てほしくないけどね。



「他には、二人の髪ゴムもあります」


「先輩! 避妊用のゴムは?」


「そうね! それも必要ね!」



 避妊用のゴムかぁ……それは入れてないなぁ。


 ………………んっ? 避妊用のゴム? いやいや! 必要ないでしょ!



「ちょっと待とうか、後輩ちゃんに姉さん!」


「はい? 何でしょうか?」


「何なの、弟くん? 足りないならお姉ちゃん買ってくるわよ」


「あっ、そうなの? じゃあお願いしようかな………って、言うわけないだろうが! この処女の痴女姉妹! 避難に必要ないだろ!」


「ちっ! 気づきましたか」


「勘のいい弟くんは嫌いよ」



 はいはい。嫌われてもいいですよー。俺の権限で却下します。


 あと必要なものは、タオルに着替えとかかな?



「二人とも着替えの準備…………出来ないよね? 俺がします」


「失礼な! 私だってタンスから出すことはできるのです!」


「そうだそうだー! お姉ちゃんと妹ちゃんをなめるな―! 片付けができないだけなのよー!」


「………でも、タンスから出してぐちゃぐちゃにするだろう?」


「「もちろん! どやぁ!」」



 ムカつくくらい可愛いドヤ顔だな!


 得意げに胸を張ったから、二人の胸がポヨン、バインっと跳ねた。


 このまま二人のドヤ顔を見ていたいところだけど、さっさと準備をしておこう。


 避難しなかったらそのままタンスに直せばいいし。


 俺はタンスを開いて後輩ちゃんと桜先生の洋服を準備し始める。


 背中に二人分の柔らかな感触を感じて、左右にヒョコっと可愛らしい顔が覗き込んできた。



「先輩! 私の下着を物色しているんですか?」


「あら? お姉ちゃんの下着みたいね! どう? どう? 欲情する?」


「しません。ただの布です!」


「えぇー! お姉ちゃん、結構えっちな下着をつけていると思うんだけどなぁ。ほら! これとか!」


「うわぁー! こ、これはほとんど紐じゃん! というか紐じゃん! ほぇー!」



 後輩ちゃんが桜先生の紐……じゃなくて紐パン…でもなくて、下着を手に取って、感心しながらじっくりと観察している。


 後輩ちゃん? 自分の身体に当てて確認しないでくれませんか? 想像してしまうので。


 というか、ポンコツの姉! あんた結構な頻度で全裸じゃん! 下着の意味ないじゃん! お願いだから下着を穿いて! いや、服も着て!


 桜先生の私生活が学校の生徒にバレたら………………俺、殺されるな。


 考えるのを止めよう。


 さてと、二人の着替えはこれでいいかな。



「………………二人とも離れてくれる?」



 左右から後輩ちゃんと桜先生がくっついているのだ。



「えっ? 嫌ですけど」


「お姉ちゃんも嫌よ!」


「おっ! 良いこと思いつきました! 先輩! 私にお洋服を渡してください」



 ほいほい。後輩ちゃんに着替えを渡していきます。



「先輩が私を背中から抱きしめます!」



 ほいほい。むぎゅ~! 無意識に後輩ちゃんのお腹に手を回してフニフニしてしまう。


 今日も後輩ちゃんのお腹は気持ちいい。



「私を抱きしめた先輩を、お姉ちゃんが後ろから抱きしめまーす!」


「お姉ちゃんの出番ね! むぎゅ~!」



 うおっ!? 桜先生の豊満な胸が俺の背中に押し付けられるぅ~!


 俺は後輩ちゃんを抱きしめ、桜先生に抱きしめられている。


 何だこの体勢は。二人の柔らかさに包まれ、甘い香りが漂ってくる。


 ………………ふむ、悪くない。俺もお年頃の男なのだ!



「では、このままレッツゴー!」


「おー!」



 俺は後輩ちゃんを抱きしめ、桜先生に抱きしめながら、避難グッズを置いている場所へと向かうのだった。

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