第165話 二度目の露天風呂と後輩ちゃん

 

「うっわー! 先輩先輩! 今日もお月様が綺麗ですよー!」



 後輩ちゃんが夜空に浮かぶ満月をうっとりと見つめている。


 濡れた綺麗な白い腕を月に向かって伸ばして、ゆっくりと握りしめる。


 きゃー握っちゃった!、と後輩ちゃんははしゃいでいる。とても可愛い。



「先輩! 月が綺麗です!」


「…………そうか」


「月が綺麗なんですよ! 先輩!」


「…………なるほどな」


「だぁ~かぁ~らぁ~! 月が綺麗なんですってば!」


「…………それは良かったな」


「むぅ! 先輩のばか!」



 何故か後輩ちゃんがムスッと拗ねて頬を膨らませる。そして、白く濁ったお湯をピチャピチャと水を飛ばし始めた。


 俺の顔に水飛沫がかかる。



「どーしてそんなに適当な返事をしているんですか!? 私怒りますよ! 怒っちゃいます!」



 頬を膨らませた後輩ちゃんは振り返って可愛らしく睨んでくる。プンスカ怒っている。


 どうしてか……本当に心当たりがないのかな? 心当たりがなさそうですね?


 では、言ってあげましょう。言ってやりましょうとも!



「どうしてって…………後輩ちゃんが俺の脚の上に座ってるからだ! 俺の上から降りてくれ! 俺の理性がどうにかなっちゃいそうだ!」



 俺は心の底から夜空に向かって叫ぶ。


 現在は夜中。日付が変わる頃。俺たちは混浴露天風呂に入っていた。


 今日はお互いに水着姿。俺はプールに行ったときの普通の水着で、後輩ちゃんは家でしか着ていなかった白いビキニ姿。


 肩や、胸の谷間や、お腹や、背中や、太ももや、ふくらはぎが全開で、露出度抜群のビキニ姿の後輩ちゃんが、俺の太ももに座っているのだ! 素肌のあちこちや、薄い布でしか遮られていない柔らかな感触が直接伝わってくるのだ!


 俺、理性がどうにかなっちゃいそう!


 その露出度高めの後輩ちゃんを後ろから抱きしめるような体勢になっており、つい癖で後輩ちゃんのお腹をフニフニしてしまっている。癖って恐ろしい。


 後輩ちゃんがクルリと体勢を変え、横向きに座った。後輩ちゃんの平均より大きな胸の起伏が目の前に露わになっている。


 必死で耐える俺を見て、後輩ちゃんがニヤリと笑った。



「ほうほう! なるほど~! 先輩は私を思いっきり意識しているんですねぇ~? だから余裕がないんですか。そうですかそうですか! 先輩って可愛いですねぇ~!」



 くそう………揶揄ってくるとは思ってましたよ。思っていましたとも! 後輩ちゃんがこの絶好の機会を逃すはずがない! ここぞとばかりに俺を揶揄って遊ぶんだろうな!



「おぉっと! 先輩、視線を逸らしましたね? 逸らしちゃいましたね? 図星ですか? 図星なんですね! もう! 先輩ったらこの超絶可愛い私に見惚れちゃったんですね!? 仕方ないですねぇ」



 俺を弄って揶揄うのが本当に楽しそう。後輩ちゃんの瞳が爛々と輝いている。



「後輩ちゃん。気絶したりしないのか? 大丈夫なのか?」



 俺はちょっと心配になる。ただでさえ数時間前に後輩ちゃんは気絶してしまったのだ。その後後輩ちゃんは恥ずかしさで俺から距離を取ったし。


 そして、後輩ちゃんはビキニ姿で俺に抱きついている状態だ。今にも後輩ちゃんが気絶してもおかしくない。


 後輩ちゃんは視線を宙に彷徨わせた。



「な、何のことですかぁ~? 葉月、知らな~い!」



 なるほど。気絶しないように気持ちを抑え込んでいるだけか。少しでも気を緩めると気絶しちゃうのか。よくわかった。


 …………それと後輩ちゃん。一人称変わってるぞ。


 後輩ちゃんが再び体勢を変えた。俺と真正面で向かい合う。


 目の前に後輩ちゃんの胸があって、非常に目のやり場に困る。これはこれで眼福だが。



「おぉ! 先輩が私のおっぱいを凝視してます! 先輩のえっち!」


「うぐっ!」


「ほれほれ~! 現役女子高生のおっぱいですよ~! 先輩の超絶好みのおっぱいですよ~!」



 後輩ちゃんが自分の胸を持ち上げて、俺を誘惑してくる。


 くっ! なんという攻撃だ! 俺の理性と欲望がぁぁああああああああ!



「触っておかなくていいですか? 今しかありませんよ?」


「………………触らん!」


「あぁ! 揉むんですね? 揉みしだくんですね!」


「揉まないし、揉みしだかない!」


「じゃあ、興奮します?」


「興奮しない!」


「えっ? さっきから硬いものが当たってるんですけど……」


「………」



 後輩ちゃん。お願いだからニヤリと笑わないで。頑張りましょうか?、なんて囁かないで! 笑い方が草食動物を見つめて舌なめずりする肉食動物みたいだから!


 後輩ちゃんが俺の首に両手を回し、胸を押し付けるようにして抱きついてきた。ふにょんと伝わってくる柔らかさが、俺の理性をさらに削っていく。



「………後輩ちゃん、自分で言っててもっと恥ずかしくなってないか? 後輩ちゃんが恥ずかしがっているときは、俺を揶揄ったり下ネタを言うのが昔からの癖だぞ。そして、さらに恥ずかしくなって自爆するまでがいつもの流れだな」



 俺に抱きついている後輩ちゃんが俺の耳元で囁く。



「…………うるさいです。こうでもしなきゃやってられないんです! 私だって限界ギリギリなんですから! 気絶しないよう必死に頑張って先輩を揶揄ってるのに、なんでいつも下ネタを口走っちゃって更に恥ずかしくなるんですか、私!?」



 後輩ちゃんったら自分に問いかけてますよ……。



「俺から離れたら問題解決なんじゃ……」



 俺が解決方法を述べると、後輩ちゃんから即座に反対される。



「ダメです! これじゃなきゃダメなんです! 今しかないんです! 先輩が告白してくれたココに再び来れるのは、しばらく先なんです! だから今しかないんですよ! 今、先輩とココで過ごして語り合えるのは今しかないんです!」



 俺を離すまいと必死で抱きしめた後輩ちゃんが、必死で想いを伝えてくる。


 なるほど。ここには頻繁には来れないから、今しかないから、気絶しないように頑張って抱きついて、俺との時間を作っているのか。


 じゃあ俺も頑張るしかないか。理性とかいろいろ。



「葉月は素敵な女性だな」


「あれ? 今更気づいたんですか?」



 後輩ちゃんが悪戯っぽく微笑む。



「いや。改めて再認識しただけさ」



 俺はお湯で濡れている後輩ちゃんをギュッと抱きしめる。


 この後輩ちゃんのすべてが愛おしい。



「絶対離さないからな」


「はい先輩」



 俺たちは水着姿で、輝く月夜の下で、ぎゅっと抱きしめ合っていた。




















「あっ、やっぱり離してください! ちょっと休憩タイムです!」


「えー! ダメ!」


「限界です! 離して! 離して―!」


「嫌!」


「先輩のばかぁぁああああああああああ!」


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