第163話 トランプ大会と後輩ちゃん
急遽行われることになったトランプ大会。会場は男子の部屋になった。
男子は俺の監督の下、荷物を片付けたり、掃除をしたり、飲み物やお菓子の準備をしたり、とテキパキ行動してもらった。最後に部屋中に消臭スプレーをかけて終了。
ガッチガチに緊張して正座している男子たち。ただ女子が来るだけなのに、そんなに緊張することだろうか?
そこに、女子たちが部屋に入ってきた。
「お邪魔しまーすっ!」
女子たちが部屋をキョロキョロ眺めている。ちゃんと綺麗にしていたので不快感はないようだ。
男子たちはホッと息を吐いた。
ガヤガヤと騒がしくなる部屋の中。桜先生が大声を上げる。
「じゃあ、トランプ大会を始めまーす! 拍手!」
パチパチパチパチ、と拍手して盛り上がる。
「それで何やる? 七並べ? 神経衰弱?」
「ババ抜きがいいでーす!」
「ババ抜きに反対の人! ………いない! というわけで、ババ抜きしまーす!」
あっさりとババ抜きをすることに決まった。その後、四~五人の班に分かれてババ抜きをして、最後にジョーカーを持っていた人が罰ゲームを受けることになった。
罰ゲームは一人一つ何か考え、紙に書いて箱に入れることになった。俺が考えた罰ゲームは秘密。
くじを引いて班を作る。俺は後輩ちゃんと桜先生と同じ班になった。残りは男子二人の計五人だ。
「さあ、始めましょー!」
先生の号令で各班がババ抜きを始める。
ババ抜きが始まってすぐ、想定外の事態が起きた。
桜先生の顔に全部出ているのだ!
手札を確認した時点で、ガーン、と顔を青くして落ち込んでいる。そして、桜先生の札を後輩ちゃんが取るんだが、全て顔に出てしまっている。
後輩ちゃんは容赦しない。ことごとくジョーカー以外の札を取っていく。
全員、次々に札を少なくしていき、あっという間に桜先生が負けてしまった。
「うわぁぁああ! 負けちゃったよ~! ふぇぇええええ!」
ポンコツ教師爆誕! 涙目でウルウルしている。
俺たちは、丸わかりだった桜先生に何も言葉をかけることができずに、罰ゲームのくじを引きに行った桜先生を見送る。
「先輩、流石に忖度したほうが良かったですかね? 私、容赦なさ過ぎました?」
不安そうに後輩ちゃんが俺のシャツの袖を引っ張ってきた。
「勝負の世界だ。後輩ちゃんが気にする必要はないさ」
後輩ちゃんとコソコソ話をしていると、罰ゲームの紙を手にした桜先生が戻ってきた。何やら少し嬉しそう。
ドヤ顔で罰ゲームが書かれた紙を見せびらかす桜先生。
「じゃじゃーん! 私の罰ゲームはこれ! 『頬にキスする(同性に)』です!」
おぉう…。そんな罰ゲームもあるのか。これを引いたのが男子だったら悲惨だったな。する方も見てる方も。腐女子の皆様はご褒美だったかもしれないけど。
桜先生は罰ゲームとして同性の頬にキスしなければならない。同じ班の同性は後輩ちゃんしかいない。
後輩ちゃんと桜先生が見つめ合った。
後輩ちゃんが静かに頬を差し出す。桜先生の顔が後輩ちゃんの顔に近づく。
「チュッ♡」
ふむふむ。美少女と美女の絡みは尊いですな。仲のいい姉妹だ。
ちょっと恥ずかしがっている後輩ちゃんと桜先生。少し頬を染めた二人はキョロキョロと辺りを見渡す。そして、同時に俺を見つめた。
どうしたのかな、と思っていると、二人はギュッと俺の腕に抱きついた。何故っ!?
「ふぇ~。先輩はなんか落ち着きます」
「そうねぇ~。慣れないことはしないほうがいいわね~」
俺の腕に抱きつくのは慣れていることなのか? …………ほぼ毎日抱きつかれているから慣れてるか。
だけど、流石に今はやめて欲しかったな。男子たちの視線が物凄く痛いです!
俺一人冷や汗を垂れ流していると、ババ抜きの二回戦目をすることになった。くじを引き直して、班を作り直すはずだったんだけど、俺は何故か後輩ちゃんと桜先生の二人と同じ班だった。
「あらあら、偶然ね」
「運命ですよ運命!」
「ああ、そうだな」
ハイタッチしながら盛り上がる姉妹に、俺は乾いた笑みを浮かべることしかできない。
本当に偶然なんだってば! だから男子の皆さん、今にも殺しそうな瞳で俺を睨まないで!
第二回戦も順調に行われていく。今回は、桜先生が可哀そうだ、という暗黙の了解のもと、俺たち生徒は忖度をしている。
桜先生を含め、三人が勝ちあがった。残りは俺と後輩ちゃんの一騎打ち。がんばれー、と桜先生に応援される。
ジョーカーは俺が持っている。さて、後輩ちゃんはどっちを引くかな?
後輩ちゃんが右のカードに手をかざす。
「先輩? こっちですか?」
「………」
俺は無言で後輩ちゃんの綺麗な瞳を見つめる。
後輩ちゃんは左のカードに手をかざした。
「それとも、こっちですか?」
「………」
俺は無言で後輩ちゃんを見つめるだけだ。
後輩ちゃんもじーっと俺の瞳を見つめ返してきた。俺たちの距離が自然に近づいていく。
息が混じり合うほどの距離になった時、後輩ちゃんは頬を赤らめて、スっと視線を逸らした。
「……………先輩…恥ずかしいです…」
「うっ……」
俺は猛烈に恥ずかしくなって、手元のトランプに目を落とした。右のカードを思わず凝視してしまう。
その隙を後輩ちゃんは見逃さなかった。
「隙あり!」
後輩ちゃんは俺の左のカードを素早く取った。ニヤニヤと嬉しそうだ。俺を出し抜けたことが嬉しいのだろう。
得意げにカードの絵柄を確かめて、後輩ちゃんの笑顔が凍り付いた。
「な、なぁっ!?」
俺は思わずニヤリと笑みを浮かべる。ふっふっふ。引っかかったな!
固まっている後輩ちゃんの手から、ジョーカーじゃないほうを選び取る。
「よっしゃ! 俺の勝ち!」
「あっ、あぁぁあああああああ! 卑怯です! ズルいです! なんでこっちがジョーカーなんですか!?」
俺はニヤリと笑うだけだ。後輩ちゃんは俺の演技に引っかかったことにようやく気付いたようだ。
恥ずかしがる演技をして俺の動揺を誘おうと思っていたんだろうけど、残念だったな後輩ちゃん! 俺の方が一枚上手でした!
「後輩ちゃん。騙し返された気分はどうだい?」
「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
後輩ちゃんが拗ねちゃった。頬を膨らませて俺をポコポコ叩いてくる。
「ふんっ!」
そっぽを向いた後輩ちゃんは罰ゲームのお題を取りに行く。すぐに戻ってきた後輩ちゃんが罰ゲームのお題を見せてくれる。
「じゃじゃーん! 『二人とハグ』だそうです。というわけで」
「かもーん!」
桜先生が両手を広げる。後輩ちゃんはその胸の中に飛び込んでいった。
「「むぎゅ~!」」
桜先生と後輩ちゃんがむぎゅ~、とハグをする。本当に仲が良い。
桜先生から離れた後輩ちゃんは俺に視線を向けた。同じ班だった男子がアピールしているが、一切視界に入れていない。
「仕方がないですね。先輩、むぎゅ~!」
後輩ちゃんがむぎゅッと抱きしめてきた。程よい温もりと甘い香りがする。
俺の頬に後輩ちゃんの頬が触れた。そのまま後輩ちゃんは俺の頬にスリスリしてくる。後輩ちゃんの頬はとてももっちりふわふわで柔らかかった。
後輩ちゃんの頬にムニムニが止まらない。
「後輩ちゃん? 気に入った?」
「はい。気に入っちゃいました。先輩のほっぺが気持ちいですぅ~」
頬と頬をムニムニとこすり合わせるのが止まらない。確かに気持ちいけど、男子たちの視線が痛いです!
女子は何故か胸の辺りを押さえているけど。胸焼けか?
「取り敢えず、後輩ちゃん続きは後で」
「ふぁ~い」
名残惜しそうに後輩ちゃんが離れてくれた。まあ、俺もほっぺすりすりが気に入ったので後でしよう。
男子に殺されそうになり、女子から揶揄われたりしながらも、ババ抜きは第三回戦目に突入する。
またしても後輩ちゃんと桜先生と同じ班になった。残り二人は女子だ。男一人でちょっと気まずい。
俺が桜先生のカードを引くことになったんだけど、先生がわかりやすくて、先生に回ったジョーカーを全部引いてしまいました。
いや、流石にあの悲しそうな表情は心にくる。捨てられた子犬のウルウルとした瞳、と言えばわかりやすいかな? 俺は逆らえませんでした。
最終的に、再び俺対後輩ちゃんの構図になった。
「ふっふっふ! さっきの屈辱を晴らさせてもらいます!」
後輩ちゃんが本気だ。よし、俺も本気でいこう!
俺と後輩ちゃんがカードを取り合うこと五十回を超えた。周りの班は終わり、残りは俺たちだけになっている。
全員が俺と後輩ちゃんの勝負を見守っている。
俺は後輩ちゃんのもつカードに狙いを定めた。
「こっちだ!」
引いたのはジョーカー。後輩ちゃんがニヤニヤと笑っている。やられた…。
俺は二枚のカードをシャッフルして、後輩ちゃんの前に差し出す。
「う~ん…こっちかな? いや、やっぱりこっち……いやでも、こっちのような気も…いやいや、やぱりこっちかも? う~ん、悩む…」
盛大に悩む後輩ちゃん。どっちを取ろうかと悩むこと約一分。後輩ちゃんの瞳がカァっと見開いた。
「こっちです!」
後輩ちゃんが恐る恐る俺から取ったトランプを確認する。後輩ちゃんの顔が徐々に明るく輝きだした。
「やったぁー! 私の勝ちです!」
柄がそろったトランプを放り投げる後輩ちゃん。俺は残ったジョーカーを静かに床に落とした。
あぁ…負けた。負けちゃった。でも、後輩ちゃんが喜んでいるから、まあいいか。負けも悪くない。
俺は大人しく罰ゲームを受けることにする。罰ゲームの紙が入った箱から一枚抜き取り、確認する。
クラスメイト達全員が沈黙し、俺の罰ゲームを楽しみにしている。
「なになに………『部屋の中心で愛を叫ぶ』……誰だこれを考えた奴は!?」
シーンと静まり返る部屋の中。誰一人名乗り出る者はいない。
よく考えて俺は気づく。
「………………あっ! 考えたの俺だった…!」
これは俺が考えた罰ゲームだ。くっ! 何故自分で考えた罰ゲームを自分でしないといけないんだ! 折角誰かほかの人がすると思ってたのに! まさか自分が引くとは…。
ようやく状況を理解した後輩ちゃんが、必死で笑いを押さえながら聞いてきた。
「ぷっ……先輩が自分で考えた罰ゲームなんですか? ……くくく…それに内容も超恥ずかしいやつじゃないですか! うふふふふ…」
クラスメイト達も徐々に笑いが堪えきれなくなって、最終的には大爆笑になった。
くっ! 恥ずかしい。猛烈に恥ずかしい! みんな笑うなぁ~!
俺は大爆笑するクラスメイト達に部屋の中央へ移動させられ、正面に後輩ちゃんが立たされる。
後輩ちゃんは恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもなさそうだ。
ヒューヒューと冷やかしの声が聞こえ、徐々に静かになっていく。
静寂が部屋を包み、期待と興奮を抑えられないクラスメイト達に囲まれる。
あぁ…本当に公開告白をしないといけないのか。嫌だなぁ。したくないなぁ。
よし! こうなったら後輩ちゃんをとことん巻き込んでやろう!
俺は覚悟を決めて後輩ちゃんを見つめる。浴衣を着た後輩ちゃんはとても可愛い。恥ずかしそうに頬を赤らめながら、真っ直ぐ俺を見つめてくる。
俺はスッと近づき、後輩ちゃんの腰に片手を回してグッと抱き寄せる。
「ふぇっ?」
突然のことで呆然とする後輩ちゃん。ここまで来たのなら俺は止まれない。
ちょっと本気になって、超至近距離で後輩ちゃんに愛の囁きをする。
「葉月、好きだ」
「ひゃっ!? えっ? はっ? ふぇっ? …………きゅう~」 バタン!
「こ、後輩ちゃ~ん!」
あまりの突然のことで、後輩ちゃんは脳の処理能力を超えてしまったようだ。急速に顔を真っ赤にして、目を回して意識を失ってしまった。
腕の中でぐったりとする後輩ちゃんを慌てて介抱する。
気絶している後輩ちゃんはとても幸せそうな表情を浮かべていた。
後輩ちゃんが気絶し、何故か男女ともに胸を押さえて倒れ込んだ人が続出したため、トランプ大会はこれでお開きになった。
この後、目が覚めた後輩ちゃんに顔を真っ赤にされながら距離を取られ、女子たちには撮影した俺の告白シーンを上映させられた。
俺は悶絶して発狂したのは言うまでもない。
もう二度と、あんな罰ゲームを考えないと心に誓った俺でした。
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