第156話 昼食の説明と後輩ちゃん
水着の上にTシャツやパーカーを羽織り、エプロンをつけるクラスメイト達。俺と後輩ちゃんも洋服の上からエプロンをつけた。
後輩ちゃんのエプロン姿も可愛い。こっそり写真を撮ってしまったのは内緒である。
今日のお昼ご飯は旅館の料理じゃなく、自分たちで作るのだ。
「はいはーい! 全員ちゅーもく! みんなでお昼ご飯のカレーを作りますよー!」
桜先生が白い太ももを露わにしながら生徒たちを注目させる。
男子たちは桜先生の太ももから目が離れない。タラリと鼻血を流し、股を押さえている。懲りない奴らだ。
女子の一人が手をあげて、ちょっと不満げに声を上げる。
「美緒ちゃんセンセー! なんでバーベキューじゃないんですかー?」
周りからも、バーベキューが良かった、と不満の声が上がる。
確かに、生徒たちが提案したのはバーベキューだった。なのに、作るのはカレーだ。
桜先生が何故か教師の顔をして俺たちに説明をする。
あっ、桜先生は本当に教師だった。忘れてた。
「バーベキューは食中毒の可能性が高いので、先生や保護者から満場一致で却下となりました。その代わり、”夏と言えばカレーが美味しい季節!”ということで、カレーです! みんなも好きでしょ?」
まあ、俺もカレーは好きだな。後輩ちゃんはカレーが大好物。
他の生徒たちも嫌いな人はいないようだ。仕方ないか、とバーベキューを諦める。
でも、桜先生に一つだけ言っておく。カレーは一年中美味しいぞ!
「えーっと、材料や調理器具は全部そろっています! 後は、宅島君を中心に頑張ってください! 私は何もしません!」
桜先生が腰に手を当て、何故か自慢げに胸を張り、何もしないと宣言する。
バインっと先生の大きな胸が跳ねた。男子たちがより一層前屈みになる。
桜先生が何もしないというのはわかる。というか、絶対に触らないで欲しい。でもさ、俺が中心ってどういうことだよ! 何も聞いていないんだが!?
前屈みになった男子から少し不満の声が上がる。
「えぇー! 折角美緒ちゃん先生の手料理を楽しみにしてたのに!」
「そーだそーだ! 少しくらい手伝ってよー!」
「パワハラ? いや、ティーチャーハラスメントだ! ティチャハラだ!」
男子たちからの不平不満がどんどん大きくなる。でも、股を押さえながらというのはかっこ悪い。
女子たちは桜先生が料理ができないことを知っているから何も言わず、欲丸出しの男子たちをただ冷たく蔑んで睨んでいる。
桜先生は困った表情を浮かべた。
「いや、私が料理してもいいのよ? でも、いいの? みんな入院しちゃうけど…」
入院?、と男子たちが首をひねる。
桜先生はぼんやりと遠くのほうを見つめ、過去を思い出す。
「最後に料理したのはいつだったかしら? 確か大学生の頃、同じようにカレーを作ったなぁ…カラフルで透明なカレーを」
カラフルで透明なカレー? 矛盾していませんかね?
でも、桜先生は後輩ちゃんと同じポイズンクッキングのスキルを持っているのはよくわかる。だから、先生が家に入り浸るようになっても一切料理はさせていない。させたら俺が死ぬ!
「ニンジン、タマネギ、ジャガイモやお肉を切っていくたびに色がコロコロと変わって、赤や青や緑や黄色の蛍光色に…」
お、おぉ…。想像するだけで気分が悪くなってきた。流石桜先生のポイズンクッキング。
クラスメイト達の顔も真っ青だ。
ただ約一名、俺の隣で、わかるわかる、としきりに頷いているけれど。
「カレールゥを入れたら、かき混ぜるたびに化学反応のように色がカラフルになっちゃってね。最終的には液体が水みたいに透明になっちゃったの。想像してみて? カラフルな具材が浮かんだ透明な液体のカレー。みんな食べたい?」
俺も含めたクラスメイト全員 (約一名を除く)が、顔を真っ青にして首が取れるくらい激しく横に振る。
絶対に食べたくないし、見たくもないです! だから、絶対に料理しないで!
桜先生が人差し指を頬に当て、可愛らしく首をかしげる。
「でも、これくらいいつものことよね? 普通でしょ?」
絶対に普通じゃない! 俺たちクラスメイトは心が一つになる。約一名を除いて。
その約一名、俺の隣の可愛らしい人物が、スッと手を桜先生に差し出す。
「うんうん、これくらいいつものことだよね! 普通だよね! 切ったり、かき混ぜるたびに、カラフルになったり、透明になったり、光ったり、闇が溢れたり、爆発したり、何故か増えたりするのは普通だよね!」
「そうよねそうよね! 普通よね!」
ポイズンクッキングのスキルを持つ後輩ちゃんと桜先生がガッチリと固く握手をする。
お互いに、仲間…いや姉妹ね、とキラキラした瞳で姉妹の仲を深め合っている。
クラスメイト達が後輩ちゃんと桜先生を化け物を見る目で見つめている。
みんなはまだいい方だ。まだ想像の世界だから。
実際に見ると、見るだけで死の気配を感じるぞ。
それに、二人は料理だけじゃなくて家事全部できないのだ。二人が汚して魔界となった部屋を見たことがないだろう? 俺は大丈夫だけど、妹の楓は思い出すだけで顔を青くし恐怖でガタガタと震えるんだ。あれは人が住んではいけない場所なのだ。
ふむ。やっぱり後輩ちゃんも桜先生も人間じゃないかもしれない。化け物で合ってるかも。
「………先輩? なんかイラッとしました」
「………変なことを考えたわよね?」
後輩ちゃんと桜先生の二人から同時に陰鬱な気配が放たれ、じっとりとしたジト目を向けられる。
俺はブンブンと首を横に振って誤魔化す。女の勘って鋭いな。
後輩ちゃんと桜先生は化け物じゃなくて、悪魔だ。後輩ちゃんは可愛い小悪魔で、桜先生は大人の妖艶な悪魔。種類的には淫魔かな?
「ふむ。何やら嬉しくなりました」
「褒められた気がしたわ」
えっ? 淫魔って褒め言葉だっけ? それとも、可愛いとか大人で妖艶って言葉に反応した? どっちだろう?
まあ、いいや。二人が嬉しそうだし。それに、答えを知りたくない。
俺は話題を逸らすという意味も込めて、カレー作りの話に戻す。
パンパンと手を叩いて、真っ青で固まっているクラスメイト達の注目を集める。
「みんないいか? 死にたくなかったらこの二人に料理をさせるな。一切触れさせるなよ。わかったな?」
「「「「「了解!」」」」」
「じゃあ、班に分かれて調理開始! わからないことがあったら遠慮なく聞けよー」
「「「「「はーい!」」」」」
クラスメイト達が元気に返事をして、各自班に分かれたり、自分の担当の処理を始めていく。
さてと、俺の最初の仕事は、私の料理は誰も死なないもん……たぶん、と、ぷくーっと頬を膨らませてむくれている、愛しい彼女と姉のご機嫌取りかな。
俺はしばらくの間、後輩ちゃんと桜先生のご機嫌取りに勤しむのであった。
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