第151話 混浴露天風呂と後輩ちゃん
真っ暗な暗闇の中、身体が揺らされる感じがした。
それと同時に、世界で一番愛しい人の声が聞こえてきた。
「………ください……んぱい………先輩! 起きてください!」
夢の世界から俺の意識が急浮上する。
睡眠を妨害されて、睡魔に抗いながらゆっくりと目を開けた。
薄暗い部屋の中。浴衣を着た後輩ちゃんが可愛らしく微笑んでいた。
「ふぇっ? 後輩ちゃん?」
「はい。先輩の後輩ちゃんです」
後輩ちゃんが囁き声で悪戯っぽく微笑んだ。暗闇の中でも後輩ちゃんは可愛い。
徐々に俺の意識が覚醒する。目を擦って眠気を覚ます。
「あれっ? 俺っていつの間に寝たんだ? 後輩ちゃんと喋ったりお菓子を食べて……そこから記憶がないんだけど」
「先輩は疲れていたみたいで、ころっと寝てしまいましたよ。私のお膝でおねんねしました」
後輩ちゃんがクスクスと笑っている。そんなにころっと寝てしまったのだろうか? 記憶がないからよくわからない。
隣で浴衣がはだけた桜先生が、俺の腕を抱えてぐっすり寝ている。俺は起こさないようにゆっくりと腕を引き抜いた。
体を起こしながら周りの惨状を見渡した。
女子たちは寝落ちしてしまったのだろう。布団で寝ている人は誰一人いない。部屋のあちこちで、お菓子を散乱させたまま、みんなで抱き合うようにして寝ている。
そして、ほとんどの女子の浴衣がはだけている。ほぼ全裸の女子もいるようだ。
俺は目を逸らしながら後輩ちゃんに問いかける。
「後輩ちゃん、今何時だ?」
「夜中の2時です」
後輩ちゃんが指で2を表すピースサインをしながら答えた。
「2時!? なんでこんな時間に起こしたんだ!?」
「先輩? 約束を忘れたんですか?」
約束? えーっと、何だったっけ? まだ寝ぼけていて頭が働いていない。
一向に思い出さない俺に対し少々不満げな表情の後輩ちゃん。恥ずかしそうに俺の耳元で囁いた。
「温泉ですよ。私と一緒に入りましょう」
▼▼▼
というわけで、温泉に来ました。24時間いつでも入れると言うのはありがたい。
流石にこの時間に入っている人はいなかった。俺の貸し切り状態。
腰にタオルを巻いて、男湯の露天風呂から混浴の露天風呂へと移動する。
混浴露天風呂は白濁した温泉だった。そして、ここの眺めも綺麗だった。
ライトアップされていて、幻想的な雰囲気だ。
チャプンと浸かり、静かに夜空を見上げる。
空に瞬く満点の星空に、満月の月が優しく輝いている。最高の月夜だ。
虫も眠る時間帯で、風で草木が揺れる音と温泉が流れる音だけが響いている。
とてもリラックスして癒される。
そこに、ギーっと木の扉が開く音がした。そして、後輩ちゃんの小さな声が聞こえてきた。
「先輩? 先輩いますか?」
「ああ、いるよ。俺一人だ」
「そうですか。良かったです」
安心した後輩ちゃんが混浴露天風呂に入ってきた。
その後輩ちゃんの姿を見て、俺は思わず噴き出した。
「ぶふっ!? こ、後輩ちゃん!? なんて格好を!?」
「何って、温泉ですから裸ですよ。まあ、タオルで前は隠していますが」
まあ、俺も裸と言えば裸だけど。って、そうじゃない!
確かに後輩ちゃんはタオルで前を隠している。だけど、タオルを身体に巻いて隠しているわけではない。片手でタオルを押さえているだけだ。後ろからはお尻が丸見えということになる。
後輩ちゃんが歩くたびにタオルがユラユラと揺れてとても危険だ。
てっきりタオルを巻いて入って来ると思っていた。だけど、後輩ちゃんは前を覆うだけという、俺の予想を超えてきた。
お年頃の俺としては、破壊力抜群の光景だ。理性が本当に危ない。
後輩ちゃんが白い温泉にゆっくり脚を入れ、恥ずかしそうに顔を逸らす。
「恥ずかしいので目を瞑ってください」
「わ、わかった」
俺は目を瞑る。だけど、後輩ちゃんの扇情的な姿が網膜に焼き付いて離れない。
目を瞑っていると、音に敏感になる。チャプンという後輩ちゃんが温泉に浸かる音がする。それが次第に俺に近づいてきた。
気配が俺の隣に来て、一瞬遅れて後輩ちゃんが移動して発生した波が襲ってきた。
「もういいですよ」
ゆっくりと目を開けた。隣には胸まで浸かった後輩ちゃんが恥ずかしそうにしていた。
タオルは横に置いてある。白く濁ったお湯で見えないが、今の後輩ちゃんは全裸のはずだ。
俺は緊張と興奮で固まってしまう。
肩と肩が僅かに触れてしまう。後輩ちゃんの素肌は温泉の影響でスベスベというか、ヌルヌルというか、不思議な感じがした。
俺たちは同時にビクッとしてしまう。
「何か恥ずかしいな」
「そ、そうですね。お互いに裸と言うのは今までありませんでしたからね」
「いや、俺は裸というか……」
「むぅっ? もしかして………あぁっ! 腰にタオルを巻いたままじゃないですか! マナー違反ですよ! 没収です!」
「あぁっ!」
鋭い後輩ちゃんに気づかれてしまった。お湯が濁っているからバレないと思ったのに。
お湯の中で俺の腰に巻かれたタオルを奪い去った後輩ちゃんは、身体を乗り出して湯船の外でタオルをギューッと絞っている。
俺からは丁度後輩ちゃんの腕で胸が隠されていた。慌てて顔を背けて後輩ちゃんを見ないようにする。後輩ちゃんの胸を見てしまったら、理性が保てないと思ったからだ。
湧き上がる興奮を必死で抑える。
「まったく! マナー違反はいけませんよ!」
「ごめんなさい」
「まあ、いいです。これでお互いに裸です!」
お互いに裸、ということが徐々に理解してきて、後輩ちゃんの顔が真っ赤になる。これは温泉のお湯のせいではないだろう。
俺の顔も物凄く熱い。のぼせてしまいそうだ。
「先輩………あんまり見ないでくださいね。恥ずかしいので」
「おぅ」
「でも、私は先輩の裸をガン見します!」
「なんで!?」
思わず後輩ちゃんを見ると、真っ赤になりながらも本当にガン見してた。
後輩ちゃんを見てしまった。俺はお湯に浸かる後輩ちゃんを見てしまった。
恥ずかしさと温泉のお湯で白い肌を火照らせ、後輩ちゃんのきめ細かな肌に水滴が浮かんでいる。
白くて綺麗な首筋にスゥーッと水滴が流れ落ちた。
見るからに張りと柔らかさがある平均より大きい胸の谷間が見えている。
綺麗な星空と幻想的な露天風呂の光景も相まって、後輩ちゃんは妖精とか、美の女神とか、夜の女神のように綺麗で美しかった。
お湯を肩にかける仕草も美しい。
興奮よりも感動を覚えた。あまりの美しさに興奮することがおこがましいとさえ思った。
月夜に温泉に入る後輩ちゃんは、いかなる絵画よりも綺麗だった。
俺は無意識に呟いた。
「葉月…綺麗だ…」
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