第149話 お風呂上がりの後輩ちゃん

 

 途中からお通夜のような状態になった男湯から上がった俺。旅館で準備された浴衣に着替えることにする。


 そうそう。混浴露天風呂から女湯に入ろうとして、迎撃兵器に股間スマッシュされた三人は、女にならなくて済んだみたい。いつの間にか復活してた。


 火照った体を扇ぎながら、お風呂の外に出て涼み始める。


 男湯の暖簾をくぐった目の前に少しくつろぐスペースがあった。


 そこに自動販売機がある。お茶やジュースも売っているけど、温泉にあるのは……牛乳だ!


 今朝搾りたての牛乳らしい。コーヒー牛乳やフルーツ牛乳もある。


 100円という安さに思わず驚く。


 さてさて、後輩ちゃんを待っている間に、どれを飲もうか決めよう。


 どれにしようかな~? 普通の牛乳もいいけど、コーヒー牛乳も飲みたい。フルーツ牛乳も外せない。とても迷う!


 俺が自動販売機の前でうんうん唸っていると、あまい香りがふわっと漂ってきて、肩をポンポンと叩かれた。


 振り返ると浴衣を着た、お風呂上がりの後輩ちゃんが笑顔で立っていた。



「先輩! お待たせしました!」



 あまりの可愛さに見惚れてしまって思わず言葉を失う。


 火照って桜色に染まった後輩ちゃんの綺麗な素肌。セミロングの黒髪が濡れている。


 お風呂上がりの後輩ちゃんから艶めかしい色気が放たれ、エロく感じてしまう。


 髪が濡れた女性ってなんかいいよね。俺の気持ちがわかる男はどこかにいない?


 見惚れて固まっている俺に気づいた後輩ちゃんが、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべる。



「あれれ~? 先輩ったらお風呂上がりの私に見惚れちゃいましたかぁ~? 仕方がないですね~! 特別に超絶可愛い私の笑顔を見せてあげましょう! にぱぁ~!」



 にぱぁ~、と輝く笑顔の後輩ちゃん。


 ますます俺は固まってしまう。


 どうしよう! 後輩ちゃんが可愛すぎる! このまま抱きしめたい! 思いっきり可愛がりたい! 甘やかしたい!


 でも、ここは家じゃないし……。俺はどうすればいいんだ!?


 理性と欲望が俺の中でせめぎ合っている。


 可愛い笑顔の後輩ちゃんの後ろから、お風呂上がりの桜先生が現れた。


 お風呂上がりで浴衣を着た桜先生は大人の色気がムンムンの絶世の美女だ。



「どうしたの? あらあら。これは固まっちゃってるわね」



 桜先生が俺の顔の前で手を振っている。


 いや、見えているし意識はあるんだけど、身体が動かないだけです。


 超絶美少女と絶世の美女が俺の視界で微笑んでいて、欲望が理性を上回り始めた。


 身体が勝手に動いて、誘われたようにふらふらと後輩ちゃんに近づいてしまう。



「おっ? ハグですか? ぎゅ~ですか? いいですよ。むぎゅ~!」



 後輩ちゃんも自ら俺の腕の中に飛び込んできて、俺たちはギュッと抱きしめ合う。


 お風呂上がりでシャンプーやボディーソープの香りが強いけど、後輩ちゃんの甘い香りもして、この温もりと柔らかさがとても落ち着く。


 後輩ちゃんが俺の胸に顔をスリスリと擦り付け、スンスンと匂いを嗅いでいる。そして、はふぅ、と息を吐き、安心して俺に身をゆだねている。



「後輩ちゃん……」


「何でしょう、先輩?」


「周りがうるさくないか?」


「うるさいですね」



 俺は見たくはないが、騒がしい方向に嫌々視線を向ける。


 きゃー、と黄色い歓声を上げるクラスの女子たちがパシャパシャ写真を撮っている。


 後輩ちゃんが俺の腕の中でクルリと回転した。


 俺は後輩ちゃんを背中から抱きしめるような格好になり、自然と後輩ちゃんのお腹に腕をまわす。


 フニフニしてとても気持ちいい。



「みんな!」



 後輩ちゃんが声を張り上げた。女子たちは静まり返る。


 何を言うのかな、と思っていたら、腕の中の後輩ちゃんが得意げに胸をポヨンと張って、ただ一言述べた。



「どやぁ!」



 会心のドヤ顔。女子たちは膝から崩れ落ちる。



「くっ! これがリア充か!」


「私も彼氏が欲しいよぉ~」


「顔か? 身体か? それとも性格か? どうして私には出会いがないんだ!? 私のどこが駄目なんだぁ~!」


「いやいや、あんたは全部だめでしょ!」


「なん…だと!? って、あんたも似たようなもんでしょ!」



 女子のリアルな叫びが聞こえてくる。一部では喧嘩が始まりそうだ。


 俺はどうすればいいのかわからず、後輩ちゃんのお腹をフニフニしながら問いかける。



「後輩ちゃん? これはどうすれば…」


「別に何もしなくてもいいですよ。お約束というか、みんなノリがいいですからねぇ。演技に満足したら戻りますよ。ほら!」



 後輩ちゃんの言葉の途中で、打ちひしがれていた女子たちが何事もなかったかのようにスッと立ち上がった。みんなで示し合わせたかのように一斉に立ったのがちょっと怖い。



「みんなもういい? 満足した?」



 女子たちはコクコクと首を縦に振っている。


 後輩ちゃんが笑いながら振り返った。



「だそうです」


「お、おう。やっぱり少し変わってるなぁ」



 前から思っていたけど、俺のクラスの女子はどこか少し変わっている。


 まあ、仲が良くて女子の間のギスギスがないからいいけど………………ないよね?



「そう言えば先輩? うんうんと何を唸っていたんですか?」


「おっとそうだった! 牛乳とコーヒー牛乳とフルーツ牛乳が売ってあったから、どれを飲もうかと考えていたんだった! どれにしよう?」



 後輩ちゃんを抱きしめたまま、俺は自動販売機に向き直る。


 桜先生や他の女子も近づいてきて、みんなで自動販売機を眺めはじめる。



「こ、これは迷いますね……」


「だろ?」


「お姉ちゃんはどれにしようかな…?」



 もはや教師であることを忘れて、プライベートの状態になっているポンコツの姉。


 まあ、女子しかいないからいいけどさ。学校が始まったら大丈夫か?


 皆で真剣に悩んでいると、女子の一人が声を上げた。



「みんな見て! アイスも売ってるよ!」


「「「「「なんだとっ!?」」」」」



 こ、これは悩む。アイスもあるのか。選択肢が増えてしまった。


 お風呂上がりの飲み物かアイス…これは迷う!


 でも、滅多に来れない温泉旅行だから、少しくらい欲に身を任せてもいいか。



「後輩ちゃんと姉さんや?」


「何でしょう先輩?」


「何でしょう弟くん?」


「ここは飲み物とアイスを両方買ってシェアしないか?」


「「賛成!」」



 というわけで、三人でシェアすることになりました。


 それを聞いた女子たちも、今日くらいはいいか、と即座にグループを作りシェアすることに決めたようだ。


 俺たちは手際よく分かれて飲み物とアイスを買う。


 全員分買ったら、即座に部屋へと戻る。


 部屋に戻りながら後輩ちゃんが囁いてきた。



「先輩? アイスをあ~んしてあげましょうか?」


「………………お願いします」


「ふふふ。了解です」



 後輩ちゃんがクスクス笑っている。


 仕方がないじゃないか! 俺も年頃の男だぞ! あ~んに憧れるじゃないか! それに、後輩ちゃんにあ~んされるととても美味しいんだ!


 後輩ちゃんに揶揄われながら女子部屋についた。




 そして………


 このあと滅茶苦茶あ~んされた。俺も滅茶苦茶あ~んした。


 あ~んされたアイスはとても美味しかったです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る