第145話 男じゃなくなった俺

 

 秘密の花園に足を踏み入れた俺は、思わず呆然と固まってしまった。


 部屋の中には、あられもない少女たちの姿があった。


 カラフルな下着をつけた少女。乱れた服の少女。半裸だったり全裸姿の少女。


 俺の一番近くにいる全裸姿の女性は豊満な胸を揉まれていた。


 ボンキュッボンの大人の色気を漂わせる女性……桜先生だ。


 男なら誰もが心躍るような光景が広がっていた。



「あ、あれっ?」



 俺を掴んでいる少女の一人が理解不能な様子で首をかしげた。


 部屋の中の女子が俺を見て固まっている。



「えっ? 先輩? って、ダメですぅぅううううううううううう!?」



 いち早く復活した後輩ちゃんが周りの状況を把握して、慌てて俺に突進してきた。


 幸い後輩ちゃんは洋服を着ている。


 俺を押し倒した後輩ちゃんは必死に両目を手で塞いでくる。ちょっと痛い。



「先輩見ちゃダメです! 絶対に見ちゃダメです! みんな早く服を着て!」



 女子たちがドタバタと慌てて服を着始める音がする。


 俺は後輩ちゃんにのしかかられて、目を塞がれて何も見えない。



「先輩を連れて来るなんて聞いてないよぉ~!」


「あ~ごめん! 英雄にちょっとご褒美をあげようと思って……」


「ねぇ~? みんなで何やってたの~?」



 俺たち男子を撃退するために部屋の外に出ていた女子が興味津々で質問している。



「………野球拳」



 なるほど~野球拳かぁ………………………………って、野球拳!?



「へぇー楽しそう!」


「どうして私たちを誘ってくれなかったの~!」



 女子の二人の楽しそうな声と悔しそうな声が聞こえてくる。


 そんなに野球拳がしたかったの? というか、女子って野球拳するの!?



「先輩。もういいみたいですよ」



 後輩ちゃんの手がスッとなくなり、眩しい光で目をショボショボさせながら、秘密の花園の中をぐるりと見渡す。


 裸や下着姿を見られた女子たちが恥ずかしそうにもじもじしている。


 なんか申し訳ない。


 俺はその場に正座をして、土下座をすることにする。



「ごめんなさい。突然のことでいろいろと見てしまいました」



 あちこちから、気にしないで、と俺を許してくれる声が聞こえてきた。誰一人文句や恨みを言ってこない。


 俺のクラスの女子たちは優しすぎる。



「弟くん………じゃなかった、宅島君。顔を上げていいわ。野球拳をしていた私たちも悪いの」



 桜先生の声が聞こえて俺は頭を上げた。


 というか、なんで止める立場である桜先生まで野球拳をしてたんだ? 謎だ。



「でも、俺が見てしまったのは変わりない。罰でも何でも受けるから!」


「誰も嫌がっていないので、そこまでしなくていいと思うのですが、まあ、律義なところが先輩のかっこいいところですよね。ヘタレ先輩が罪悪感で苛まれているので、何かしてあげましょうか。みんな何か案はある?」



 流石後輩ちゃん。俺のことをよくわかってる。このまま罰を受けなかったら罪悪感で押しつぶされそうだ。


 皆好きな人や彼氏がいるだろうに、俺なんかがいろいろと見てしまって本当に申し訳ない。


 だが、後輩ちゃん。何故ヘタレ先輩と言った?



「じゃあ、さっき逃げた男子にも言ったんだけど、男でいられなくしようよ!」


「何それ詳しく!」



 興味津々で輝いている後輩ちゃん。他の女子も楽しそうだ。



「えーっとね、ゴニョゴニョ…」



 女子全員が身体を寄せあって作戦会議をしている。何気に桜先生まで加わっているし。


 あの~? 何をするんですかね? 股間がヒヤッとしたんですけど!?



「みんないい?」


「「「任せて!」」」


「作戦開始!」



 後輩ちゃんの合図で女子たちが一斉に俺を取り囲む。


 瞬く間に俺は手足を紐で拘束された。その紐どこから出したんだ!?


 後輩ちゃんが俺のポケットを探ってスマートフォンを抜き出す。



「パスワードは……ホイホイっと! よし! 入った!」



 慣れた様子で俺のスマホを操作する後輩ちゃん。


 なんでパスワードがわかるの!?



「先輩。私のこと好きすぎじゃありません?」



 あぁ、うん。パスワードは0617。後輩ちゃんの誕生日だった。そりゃすぐわかるよね。


 女子全員がどこからともなく黒の覆面を取り出して顔に被った。全員が銀行強盗のようになる。


 だから、どこから取り出した!?



「みんな決めポーズ! はいチーズ! ついでに私も入れて、はいチーズ! 皆覆面取って、はいチーズ! そして、私のスマホに送信! ついでに皆にもお裾分け!」



 パシャパシャ写真を撮られた縛られた俺。


 みんな嬉しそうにしているから、ここにいる女子にも送信したようだ。



「次は男子のグループに覆面女子に囲まれた先輩の写真を送信! 女子からの拷問中って書いておいて…」



 拷問されている証拠を乗せるようだ。


 俺は縛られて、取り押さえられているから身体を動かせない。


 ニヤニヤして、とてもとても楽しそうな後輩ちゃんが指揮を執る。



「お姉ちゃん! やっちゃって!」


「弟くん、ごめんね!」



 桜先生が言葉では謝罪したけど、顔はウキウキとしながら、ノリノリで近づいてきた。


 手には何故かメイク道具が……ま、まさか!?



「じっとしててね~♪」


「や、やめろぉ~!」



 桜先生の手が、慣れた手つきでササッと動き、瞬く間に俺の顔に化粧が施される。


 最初は抵抗していたけど、顔も一切動かせないので、もう諦めて大人しく罰ゲームを受けることになりました。


 お化粧が終わった桜先生が離れた。


 周りの女子が俺の顔を見て固まった。



「なにこれ……嘘でしょ?」


「これはあり…」


「くっ! 私よりも可愛いだと!?」


「女の私でもムラムラするんだけど……襲っていい? 食べちゃっていいよね? 食べるよ?」



 何故かギラギラと睨みつけられる俺。俺に危機が……貞操の危機が迫っている!



「きゃー! 先輩可愛いー! 先輩こっち向いて! きゃー! 先輩上目遣いでポーズをしてください! きゃー! 可愛いですぅー! 流石ヒロイン属性の乙女先輩! 前から女装させたら可愛くなると思ってたんですよー!」



 一人大盛り上がりの後輩ちゃん。パシャパシャ写真を撮っている。


 誰が乙女だ!? ヒロイン属性持ちだ!? 俺は男だ!


 一仕事終えた桜先生が何やら悩んでいる。



「誰かウィッグ持ってない?」



 ウィッグだと!? 流石にないはず……。



「あっ! あたし持ってる!」



 何故持ってる!?


 ということで、俺はウィッグを被せられました。


 周りの女子からため息が出る。桜先生は、完璧、と出来栄えに納得している。


 後輩ちゃんは……鼻血が出そうなほど大興奮で写真を撮っている。



「ここまでしたのなら、洋服まで着せたいわね」


「姉さん!? じゃなくて桜先生!? 何言ってんの!?」


「「「賛成!」」」


「ちょっと!?」


「洋服は………お姉ちゃんの服なら弟くんも着れると思うわ。胸とかお尻の関係で大きめの服を買ってるから! あんっ…ちょっとみんな揉まないで!? 八つ当たりしないで! あぁんっ♡」



 桜先生が女子生徒に埋もれてしまった。中から艶美な声が聞こえてくる。


 男の俺もいるので止めてくれないかな?


 しばらくして、熱い息を荒げた桜先生が出てきた。ちょっとピクピクと痙攣している。


 周りの女子たちの肌がツヤツヤしている。


 お肌をツヤツヤさせた女子がニヤニヤしている。



「でも、ただ着せるだけじゃ面白くないよね~!」


「そうだ! 野球拳しよう! 女子の一人と対戦して、颯くんが勝ったら私たち女子全員が服を脱いでいきます! 颯くんが負けちゃったら、服を脱いで美緒ちゃん先生の服を着ていくの! みんなどう?」


「「「異議な~し!」」」



 はい! 俺からは異議があります! はいはい! ここに異議がある人がいますから! 異議があるから無視しないで!



「対戦相手はもちろん葉月!」


「えっ? 私? ふふっ。いいでしょう! 受けて立ちます! 本気でいきます! 先輩を完全に女の子にしてあげましょう!」


「俺、やるって言ってないんだけど……あっ、誰も聞いてない」



 俺の言葉は大盛り上がりの女子たちには届きませんでした。完全にやる気だ。


 ああ、うん、もういいや! 自棄になってやる! こうなったら本気で勝って後輩ちゃんや桜先生や女子全員を裸にしてやる! 覚悟しろ皆!


 俺は、今までにないほどやる気に満ち溢れている後輩ちゃんに立ち向かっていった。














 数分後、ストレート負けして撮影会用のポーズを取っている男の娘が居ましたとさ。


 一体誰のことなんだろうね? 私…じゃなくて、ボク…でもなくて、俺は知らないなー。誰だろうねー。グスン。


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