第144話 秘密の花園と後輩ちゃん

 

「紳士諸君、行くぞ!」


「「「おぅ!」」」



 俺の掛け声に三人の男子が答える。期待の籠った熱い眼差しを背後に受けながら、俺と三人の男子が偵察として男子部屋を後にした。


 キョロキョロと周りを確認しながら少しずつ進んでいく。


 現在、俺たちは偵察任務中。


 主な任務は女子部屋までの経路の確認と、先生の巡回経路の確認、そして、いざという時の避難経路の確認だ。


 俺たちは忍び足で高級旅館の中をゆっくり進んでいく。


 女子の部屋は一つ上の部屋らしい。階段をそろりそろりと上って、徐々に女子部屋へと近づいていく。


 まあ、全て後輩ちゃんに密告してあり、そこから女子全員に伝わっているから、こうして忍んでいるのも意味ないけど。


 俺たち四人は何とか階段を上り、ゴクリと唾を飲み込んで、緊張感に包まれながらも覚悟を決めた男の顔で女子部屋へと近づいていく。


 俺たちは角に隠れてそっと女子部屋のほうを覗き込む。



「あそこが楽園エデンの入り口か」


「美しい花が咲き誇っているに違いない!」


「このまま突撃したい!」



 一緒に来た男子三人は男の顔でじっと楽園エデンの入り口を眺めている。



「その場合は、乙女たちに殺されて、今後一切無視されて嫌われるだろうなぁ」


「「「だよなぁ」」」



 絶対にこれから先見向きもされなくなるだろう。


 高校一年生だけならまだいいが、女子たちの情報網は恐ろしい。他クラスの女子まで伝わり、卒業まで見向きもされない可能性まであるのだ。


 ここは慎重にいかなければ!


 まあ、そろそろ数人の女子が通りかかって見つかる手はずになっているけど。



「リーダー。そろそろ帰るか?」



 十分偵察は行ったので、みんなで頷き合って帰ろうと決めた瞬間、背後からとてもとても冷たい声が聞こえてきた。



「へぇー。もう帰っちゃうんだ~」



 この状況を知っていながらも、俺はビクッと震えてしまった。


 バッと後ろを振り向くと、腕を組んで絶対零度よりも冷たい瞳で睨みつけている女子二人の姿があった。


 俺たち四人は即座に床に正座し、冷や汗が背中をダラダラと流れ落ちていく。



「ねえ~? そこでコソコソ隠れて何やってるの~?」


「もしかして、秘密の花園に突撃しようとしてた? これだから男は……この変態!」



 蔑んだ表情で罵倒してくる女子二人。いつもは笑顔が綺麗な明るい女の子なのに。


 これ、演技だよね? 本当に演技だよね? 素じゃないよね? 素だったら俺、立ち直れないかも。


 冷たい表情で見下してくる女子の一人が、冷え冷えとした声を出した。



「で?」


「あ、あの”で”とは?」



 普通に声を出したつもりだったが滅茶苦茶震えてしまった。女子って恐ろしい。



「首謀者は誰?」


「「「コイツです!」」」


「こ、この裏切者!」



 女子の圧力に一瞬で負けた他の三人が、少しの迷いもなく俺を指さした。


 この裏切者! あれだけ固く絆を確かめ合ったじゃないか!


 ………まあ、本当の裏切者は俺だけどね。



「他にもお風呂の覗きも計画しておりました!」


「あっ、馬鹿!」


「それは言うなよ!」


「ふぅ~ん? なるほどねぇ~。覗きねぇ~」


「「「ひぃっ!?」」」


「どうする? 四人で連帯責任を負うか、首謀者の颯くんに全ての責任を押し付けて今すぐ逃げ帰るか、どっちにする?」



 えっ? なにそれ!? 初耳なんだけど!? どっちにしろ俺って逃げられないじゃん! 俺がチクったのに! それって酷くない!?


 男子の一人が恐る恐る手をあげて質問した。



「あの~? どんなお仕置きがされるのでしょうか?」


「う~ん……少なくとも男じゃなくなるかもね~」


「「「今すぐ逃げ帰ります!」」」



 股間がヒヤッとした男子は、股間を手で押さえ内股になりながら、即座に俺を見捨てて逃げてしまった。


 俺も逃げようとしたけれど、瞬時に両腕をがっちりと捉えられてしまった。


 ほ、本当に男じゃなくなるのか!? い、嫌だぁぁあああああああ!


 二人がぎゅっと腕を抱きしめてくるため、胸の柔らかさを感じながら処刑場女子部屋へとドナドナされる。



「颯くん遺言は何にする? ………な~んてね!」


「えっ?」



 冷たい声が一瞬で柔らかくなった。あれほど冷たい蔑みの視線をしていたのに、女子は二人ともいつもの優しい笑顔に戻っている。



「びっくりした~? 全部演技だよ~真なる裏切者く~ん!」


「私たちって役者できそうじゃない? 我ながら惚れ惚れしたわぁ!」


「よ、よかった……マジで死ぬかと思った」


「あはは~。まあ、葉月ちゃんから全部聞いてたからね~。迎撃するのは、くじ引きで私たちになりました~」


「それはわかってるけど、なんで俺は連行されているんだ?」



 俺は胸を押し付けられ、がっちりと掴まれたままズルズル引っ張られている。


 この方向は明らかに女子部屋の方向だ。というか、もう扉の前だ。


 女子二人は顔を見合わせ、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。



「秘密の花園に突入しようとした英雄にご褒美をあげようと思って」


「綺麗なお花が愛で放題だよ~。というわけで、いらっしゃ~い!」



 俺が抵抗する前に、女子二人は連携してドアを開けて、女子部屋の中に連れ込まれた。


 男子部屋と似たような部屋の中では、辺り一面綺麗なお花が咲いていた。


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