第146話 百合と後輩ちゃん
夕食時、俺たちは全員夕食の会場に集まっていた。ここは一番最初に説明を受けた大広間だ。
座布団が敷かれ、目の前には豪華な料理が並べられている。
女子たちは目の前の芸術的な料理をうっとりと眺め、パシャパシャ写真を撮ったり、よく味わって食べている。
そして、男子は夕食よりもある人物に夢中だ。
「おい! ウチのクラスにあんな巨乳美少女っていたか?」
「いなかった。なんだあの美少女は!? 山田さんや美緒ちゃん先生に匹敵する美しさだと!?」
「ヤバい。俺の胸がドキュンドキュンしてる……これが恋か…?」
「女神だ……三人目の女神がご降臨した…運命の三女神だ…!」
男子たちがうっとりと見つめている美少女は………何を隠そう、俺だ!
女子たちに拘束され、女装させられた俺は、浴衣を着て後輩ちゃんの隣に座っている。
俺の胸には桜先生のブラがつけられている。ノリノリの桜先生が無理やりつけてきて、悪ノリした女子たちがタオルやらパッドやら詰め込んできて、桜先生ほどの巨乳が出来上がりました。
巨乳って不便なんだな。だって、足元が全然見えないから!
まだ重さがない分マシだけど、重さがあったら大変なんだろうなぁと思う。
今までも優しくしてたけど、桜先生にもっと優しくしよう。
お風呂上がりに肩のマッサージでもしてあげようかなぁ。
「颯子先輩。人気者ですね」
「誰が颯子だ!」
俺は隣で揶揄ってきた後輩ちゃんに女声でツッコミを入れる。
後輩ちゃんはニヤニヤと笑ってとても楽しそうだ。相変わらず俺を揶揄うのが大好きらしい。
はぁ、とため息をつき、自棄になって女装を楽しんでいる俺は、悪戯で男子たちにウィンクしてみた。
うおー、と野太い声の大歓声が上がり、胸を押さえて倒れ込んだり鼻血を噴き出して痙攣する男子が続出する。
うん、滅茶苦茶お尻がむず痒い。俺のお尻が狙われている!?
はい、そこの腐女子諸君! 鼻血を噴き出さないで!
後輩ちゃんがクスクスと笑いを漏らす。
「結構ノリノリなんですね。新たな趣味が目覚めちゃいましたか?」
「なんで嬉しそうなんだよ。俺は女装趣味なんかないぞ。なんかハロウィンの仮装みたいな気分で楽しいのは認めるけどさ」
「ハロウィン! そうですハロウィンです! 今年のハロウィンで再び先輩を女装させましょう! 今度は楓ちゃんの前で!」
「藪蛇だったか…楓の前ではしたくないなぁ」
目がキラッキラ輝いている後輩ちゃんを見て、後悔が押し寄せてくる。
妹の楓に知られたら大爆笑されて、揶揄ってくるだろうなぁ。絶対にそうなると思う。
何とか逃れる方法を探す俺に、後輩ちゃんがニッコリ笑ってサムズアップをした。
「先輩! 安心してください! すでに楓ちゃんには女装姿の先輩の写真を送ってあります! ついでに、ハロウィンの件も了承を貰いました!」
「いつの間に!?」
慌ててスマホを確認すると、楓から何十件もの着信とメッセージが来ていた。
俺は見ることなく、そっと電源を消した。後回しにしよう。現実逃避だ。
「後輩ちゃん。あ~んしてくれ」
「おっ? 珍しいですね。先輩から、あ~んして、と言うのは」
「今は後輩ちゃんに癒されたい気分なのだ! じゃないとやってられるか!?」
「うふふ。自棄になりましたね。いいですよ。あ~んしてあげましょう! 先輩を癒すのが私の仕事なので!」
茶碗蒸しを掬って、冷やすためにフーフーして、後輩ちゃんがあ~んをしてくれた。
うん、とても美味しい。やっぱり、後輩ちゃんがあ~んしてくれると、より一層美味しく感じられる。
後輩ちゃんが口をパクパクさせてアピールしている。
はいはい。わかってますよ。あ~んして欲しいんでしょ?
「フーフー。はい、後輩ちゃん。あ~ん」
「あ~ん。ふふっ。美味しいです♡」
後輩ちゃんは幸せそうに食べるなぁ。見ていてとても可愛い。
周りで男女問わず歓声が上がっているけど気にしない。
俺たちはあ~んし続ける。
「美少女同士の絡み……尊い…」
「俺、新たな扉が開いちゃったかも……」
「私もして欲しいなぁ…」
気にしない。絶対に気にしない。百合とか言われてるけど絶対に気にしない!
後輩ちゃんと食べさせ合いをしていたら、反対側からかクイクイっと袖を引っ張られた。
「妹ちゃん…私にも!」
羨ましそうな桜先生がおねだりしてきた。
いつものクールさが失われて、ポンコツ教師になってきているけどいいのかな? 一応お仕事中ですよ?
「だってさ、後輩ちゃん」
「あの…違うと思いますよ颯子先輩。お姉ちゃんがして欲しいのは颯子先輩だと思います」
お隣の桜先生が期待の眼差しで、コクコクと首を縦に振っている。
いつもの俺は弟だけど、今は女装しているから桜先生は妹って言ったのか。なるほど、納得した。納得したくないけど納得した。
でも後輩ちゃん。俺は颯子じゃないからな! 俺の名前は颯だ!
「姉さん…じゃなくて、桜先生。お仕事中では?」
「いいのいいの、颯子ちゃん!」
「誰が颯子だ!? 俺は颯だ!」
今度は後輩ちゃんから袖をクイクイっとされた。
「……先輩先輩。さっきからずっと女声ですよ」
「おっと。あーゴホンゴホン。これでいいか?」
「まあ、美少女姿の先輩にその声は滅茶苦茶違和感ありますけど、いつもの声ですね」
「じゃあ、弟くん? 妹ちゃん? やっぱり妹ちゃん! お姉ちゃんにもあ~んして!」
もはや教師であることを放り出したポンコツの姉が口をパクパクさせている。
ああ、うん、もういいや。こうなったらとことん自棄になってやる!
「今日だけだぞ。はい、あ~ん」
「あ~ん♡ うふふ。美味しい」
「お姉ちゃん! 私もあ~んする!」
後輩ちゃんが差し出した食べ物を、桜先生が嬉しそうに口に含んだ。
こうして、三人姉妹になった俺と後輩ちゃんと桜先生はあ~んをして仲良く夕食を食べた。
周りから、尊い、と言われて、鼻血を出している男女が拝んでいたけど、俺は全力で無視した。
なんでこのクラスには変わり者しかいないのだろうか?
「ウチのクラスにオレっ娘のヴィーナスが誕生した……!」
だ~か~ら! 俺はれっきとした男だからな! 女でもない! オレっ娘女神でもない! 絶対に百合じゃない!
俺は男で、後輩ちゃん一筋のノーマルだ!
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