第115話 市民プールと後輩ちゃん 休憩
ウォータースライダーで精神を疲弊させた俺と後輩ちゃんと桜先生の三人は、トボトボと休めるところを探す。
やっぱり恐怖や驚きで心臓がバクバクすることは人生に必要ないよね。ホラーとか絶叫系の乗り物とか。最近のホラー映画だと、怖すぎて心臓が弱い人は見ちゃダメらしいし。うん、必要ない必要ない。
「先輩…悟っているところ申し訳ないのですが、夏休み中にデートに行く予定ですよね? それも遊園地に」
「楽しみであると同時に、絶望しています。何故遊園地にオーケーしてしまったんだぁー! せめて水族館とか動物園にしておけばよかったぁー!」
頭を抱える俺。絶賛後悔中です。デート自体は楽しみなんだけどね。場所が悪かった。あの時の俺のバカ!
「まあ、私も絶叫系はダメそうなので、ジェットコースターは無しでお願いします。その代わり、お化け屋敷を楽しみましょう!」
ニッコリと輝く笑顔の後輩ちゃん。ドS顔が美しい。後輩ちゃんってどっちかというとMだったよね? 本当にMなんだよね? あれっ? 肉食系女子ってMなんだっけ? Sじゃね?
「お姉ちゃんは超絶羨ましいと思っており、深く深く追及したいところなのですが、今はちょっと休ませて…あそこにちょうどいい椅子があるわ。デッキチェアだっけ?」
桜先生が指さした先には白いデッキチェアがあった。休憩用らしい。丁度三人分空いている。俺たち三人はヨタヨタと歩いてデッキチェアに倒れ込む。デッキチェアは思ったよりも大きく、二人でも横になれそうだ。
左右から抱きしめられる俺。右手には後輩ちゃん、左手には桜先生。胸を押し当てられて、脚を絡めてくる。ちょっと窮屈だ。
「あの~? お二人さん? そこに二つデッキチェアが空いているんですけど? どうして俺の隣に無理やり横になっているのですか?」
「先輩の隣が空いているからです!」
「弟くんの隣が空いているからよ!」
「ああ、うん…もう好きにしてください」
「「はーい!」」
早急に諦めた俺。これは絶対に動かないやつだ。どんなに説得しようが無駄なやつだ。今までの経験からわかってる。言うだけ無駄だ。
俺は興奮しないよう心を無にする。無にしなければならないのだ!
「後輩ちゃん、姉さん? ちょっと腕を放してくれる?」
「「?」」
不思議そうな顔をしながらも素直に従ってくれる二人。抱きつかれていた腕が解放される。胸の感触がなくなってちょっと残念だと思ったのは秘密だ。
「で、ちょっと頭を上げてください」
再び素直に従ってくれる。頭を上げてできた空間にスッと腕を差し入れた。後は二人が頭を下ろせば完成。
「こ、これは……!?」
「う、腕枕!?」
驚いている後輩ちゃんと桜先生。そんなに驚くことか? 今までに何回もやってきた………………覚えがないな。あれっ? 何気に腕枕は初めてなのか? そう言えば、いつも腕に抱きつかれているからしたことなかったな。
腕に抱きついていた二人は俺に腕枕され、腕の代わりに身体に抱きついてきた。胸の感触が素晴らしい。おっと、心を無にしなければ! 煩悩退散!
「先輩先輩! 私のような超絶美少女とお姉ちゃんのような絶世の美女を侍らせているなんて、傍から見たらハーレムですね!」
「う、うぐっ! 折角考えないようにしていたのに……」
現在進行形で男性たちから睨まれております。俺を呪い殺しそうな目つきで睨まれております。小さく不気味にブツブツと呟いている人いるし。血の涙を流している人もいるし。こ、怖いな。
「ね、姉さんはいいのか? 彼氏は作らないの? そろそろ行き遅れに…」
「ぐ、ぐふぅっ!? お、弟くんの辛辣な言葉がお姉ちゃんの心を滅多切りにするぅ~! 傷物にされた! お姉ちゃん傷物にされちゃったぁ~! というわけで、責任取ってください」
途中まで泣き真似をしていた桜先生が、最後の言葉をケロッとした顔で述べる。まあ、泣き真似というのはバレバレだったけど。
「先輩酷い! こうなったら私とお姉ちゃんの責任を取るしかないですね!」
「しれっと後輩ちゃんまで含まれているし…俺、好きな人いるんだけど」
「お姉ちゃんならいいですよ。別に姉弟なら私は気にしません」
「そうよ! 姉は弟の性欲を受け止める存在なんだから! お姉ちゃんは弟くんと妹ちゃんがいればそれでいいの!」
いろいろとツッコミどころがあるんだけど、二人の姉弟に関する知識はぶっ壊れているからどうしようもない。本当にどうにかしてほしいんだけど、誰かどうにかなりませんか? (なりませんby作者)
「あぁー! 私の子供たちがラブラブしてるー!」
「みんな仲いいね」
手を繋いだ親子…ではなく夫婦が近くを通りかかった。父さんと母さんだ。俺たちに気づいて近寄ってくる。
「隆弘くん、私たちも休憩しよ!」
「わかりました風花さん」
父さんと母さんも隣のデッキチェアに二人仲良く一緒に腰掛ける。親子に見えるけど、実際は夫婦なんだよなぁ。
隣に両親がいることでちょっと気まずくて恥ずかしい。腕枕を止めたいところだけど、予測された後輩ちゃんと桜先生に阻止される。益々ギュッと抱きしめられた。煩悩退散!
「あぁー! 私の家族がラブラブしてるー!」
「おぉ! みんな仲いいなぁ」
そこに通りかかったのは楓と裕也のバカップル。二人仲良く手を繋いでいる。楓は父さんと母さんに笑顔でピースしている。母さんもピースを返した。
そして、楓と裕也は俺たち……いや、俺を見てにやにやと笑う。
「ヘタレのお兄ちゃんがハーレムしてる」
「
わざと存在感を消しているんだから仕方がないだろ。でも、ちょっと悪戯してみるか。
俺はいつも抑えている存在感を全力で解放してみる。滅多に出さない本気だ。
「ひゃっ!?」
「はぅっ!?」
左右の後輩ちゃんと桜先生がビクンと体を震わせた気がしたのだが、気のせいだろうか?
俺は裕也に向かってニヤッと笑う。
「どうだ? これで存在感が出ただろ?」
「お、おぅ…ヤバいな」
裕也の顔が引きつっている。その隣の楓は目を輝かせている。
「おぉー! 滅多に出さないお兄ちゃんの本気! まさに覇王とその王妃だね! いつもそうしていればいいのに」
「疲れるからヤダ! それに後輩ちゃんから止められてるし…って、あれっ? 後輩ちゃん?」
「せ、せんぱい……今すぐ存在感を…消して……ください」
「くっ!? な、なにこれっ!? こ、これはダメっ!」
「えっ!? ご、ごめん!?」
何やら後輩ちゃんと桜先生が苦しそう。即座に存在感を消す。でも、二人の震えが止まらない。俺の身体にしがみついて震えている。一体どうしたんだ!?
「あぁ~あ。お兄ちゃん、しばらく何もしないでじっとしておけばいいよ。そのうち二人も治まるから」
「二人はどうしたんだ!? 何かの発作か!?」
呆れたような、悪戯っぽく笑っているような、何とも言えない顔をしている楓に問いかける。何が二人に起こっているのか知っているなら即座に教えろ!
「葉月ちゃんと美緒お姉ちゃんは強制発情モードに入りましたぁー!」
「はっ? ふざけてるのか?」
「大まじめです。お兄ちゃんの存在感って強すぎて女性の中の女を刺激するんだよねぇ」
「だからそんな冗談はいいから!」
「うん、まあ、冗談だと思っておけばいいよ。二人ともじっとしておけば治るから、そのまま寄り添ってあげてて! ユウくん! 私たちもちょっと休憩しよ!」
「お、おぅ!」
楓と裕也のバカップルは空いていたもう一つのデッキチェアに仲良く一緒に座り、イチャイチャを始める。隣で両親と妹のイチャイチャを見せられる俺。勘弁してほしい。
「後輩ちゃん、姉さん、大丈夫か?」
「ら、らいじょうぶれふ~」
「しんぱいしにゃいで~」
お酒で酔っぱらったかのように瞳をトロ~ンと蕩けさせている二人。本当に大丈夫なのか? 取り敢えず、しばらく様子を見よう。
グリグリと顔を押し付けてくる後輩ちゃんと桜先生を優しくなだめながら、ずっと腕枕をしていた。
少しして、元に戻った後輩ちゃんと桜先生にビシバシと叩かれたのは何故だろう?
結構痛かったです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます