第114話 市民プールと後輩ちゃん ウォータースライダー
「おい見ろよアレ!」
「くっ! 羨ましい!」
「俺もあんな風に美女と美少女に挟まれてぇ…」
「死ね! マジ死ね! 本当に死ね! 死ね死ね死ね!」
俺は絶賛男性たちから睨まれています。殺意の波動がビシバシと送られている。殺意のこもった視線で睨まれるのはまだいい。中指を立てて俺を殺しそうな男性もいる。本当に止めてくれ。あぁ~胃が痛い。
「お姉ちゃん! なにして遊ぶ?」
俺の右腕に抱きついて胸を押し当て恋人つなぎをしている後輩ちゃん。俺が男性たちがから睨まれる元凶だ。後輩ちゃんが桜先生に問いかけた。
「う~ん、そうねぇ…」
桜先生は俺の左腕に抱きついている。後輩ちゃんと同じように巨乳を押し当て恋人つなぎだ。自然と桜先生が握ってきたから今更変えられない。まあ、姉と弟だし大丈夫だよね。
美少女と美女が俺を挟んで会話をしている。
男としてこの状況はとても嬉しいけど、同時にとても辛い。胃が痛いよぉ~。
「ねえ! あれ! ウォータースライダーしよ!」
桜先生はウォータースライダーを指さす。キャーっという悲鳴が聞こえている。
後輩ちゃんが目を輝かせた。
「いいね! では、レッツゴー!」
「おぉー!」
俺の意見は聞くこともなく二人の女性に引っ張られる。まあ、拒否なんかしませんけど。だから、俺にも話しかけてください。ちょっと寂しいです。
ウォータースライダーは結構人でにぎわっていた。一人で滑るのもよし、複数人で滑るのもいいらしい。最大四人までらしいけど。
順番待ちの列に並ぶ。現在は十五分待ちらしい。
係員の男性に舌打ちをされながら時間を待つ。とても気まずい。
「おっ! 兄ちゃんと姉ちゃんもスライダーに来たのか?」
俺の水着をずら下げた小学生三人が背後に並んだ。俺は再び下げられないようにこっそりと水着を握る。
「少年たち、いぇーい!」
「「「いぇーい!」」」
後輩ちゃんとハイタッチする少年三人。同盟を組んで俺を倒した四人は仲良くなったようだ。桜先生は訳がわからずキョトンとしている。
「えっと、誰?」
「さっき仲良くなったの。一緒に如意棒を持つ魔人を倒したの」
誰が如意棒を持つ魔人だ!
桜先生はますます不思議そうにキョトンとしている。
「孫悟空を? なんで?」
「こんな可愛い姉ちゃんと一緒に居たら倒したくなるだろ?」
「男の本能」
「非リア充の宿命」
今どきの小学生ってませてるなぁ。確かに、後輩ちゃんはとても可愛い。だけど、俺に八つ当たりをしないでくれ! そこの『最後尾』と書かれたプラカードを持った係員さん? 深く頷いて同意しないで! そして、舌打ちのマシンガンを止めてください。
何となく状況を察した桜先生がよしよしと俺の頭を撫でてくれる。その優しさが心にしみる。
「で、何か新しい姉ちゃんが増えてるんだけど!」
「おっぱいでか!?」
「巨乳の姉ちゃんエッロ!」
「ウチの弟と妹がお世話になりました」
余所行きのクールな表情を取り繕う桜先生。ポンコツ感がなくなった。家でもそうしてればいいのに。
「弟? 妹?」
「ということは兄ちゃんの女じゃないのか?」
「じゃあ、俺たちと遊ぼうぜ! 巨乳の姉ちゃん!」
最近の小学生はナンパまでするんだなぁ。すごい。感心する。俺だってナンパはしたことないんだぞ。
ナンパされた桜先生は、ニッコリと微笑み、俺の腕により一層ムギュッと抱きつく。腕が胸に埋まっていく。係員の男性の舌打ちがさらに激しくなる。
「ごめんなさい。私は弟くんのモノなの」
小学生三人が俺と後輩ちゃんと桜先生の間を行ったり来たりする。そして、三人は納得したように深く頷くと、俺に向かってニカっと白い歯を輝かせてサムズアップした。
「兄ちゃん、ヘタレだと思ってたけど、立派な男なんだな」
「ハーレムは男の夢だよな。うんうん。わかるぞ、その気持ち」
「師匠! 俺にもハーレム道を教えてください!」
うん、なんかイラッとする。そして、誰が師匠やねん! ハーレムなんか作っていない! ハーレムなんか作っていない……はず。傍から見たらハーレムに見えるけれども!
あの、さっきまで舌打ちをしていた係員さん。急に舎弟の雰囲気を出さないでください。そんなに見つめられても何も教えませんよ。
「俺はハーレムなんか作ってない!」
「えぇ!? 先輩…私たちのことは遊びだったんですか!?」
「酷い…酷いよ弟くん…あんなに恥ずかしいこともあったし、イケナイところまで見られたのに……責任取ってくれないの?」
左右の二人がここぞとばかりに俺を揶揄ってくる。瞳をウルウルして上目遣い。傍から見たら遊ばれていたことを知った可哀想な女性。だけど、俺にはわかる。二人の口元が緩んでいることに。
周りがヒソヒソと囁き合い、俺に、最低男、という視線で睨まれる。
酷いと言いたいのは俺だ。桜先生はエロ本を見られたり自分から服を脱いでいたじゃないか。
「お兄ちゃんひどーい!」
「サイテー!」
後ろから聞きなれたバカップルの声が聞こえた。ニヤニヤと笑う楓と裕也が小学生三人の後ろに陣取っていた。こいつらずっと盗み聞きしていやがったな!
こうなったら最終手段を取るしかないな。
「あぁ~あ。折角家に帰ったら俺の手作りのプリンがあったのになぁ。意地悪する人にはあ~げない! 俺と父さんと母さんで美味しくいただかせてもらいます!」
「「「「っ!?」」」」
ビクンッと反応する俺の身内四人。そして、一斉に頭を下げた。
「「「「揶揄ってごめんなさい! だからプリンをください!」」」」
「ふむ。いいだろう。だけど、トッピングは無し!」
「「「「えぇー!」」」」
いやいや、こんなに人が多いところで俺を揶揄ってきた四人が悪い。残念ながらプリンアラモードは俺と両親だけです。
「ねえ、兄ちゃん。結局何だったんだ?」
小学生三人が首をかしげている。周囲の人たちも訳がわかっていないようだ。
「この二人と後ろの二人が俺を揶揄って遊んでいたんだ。まあ、特別に俺を倒した少年たちには俺がモテた理由を教えてやろう。俺はこの美女と美少女を餌付けしたんだ。料理とか家事が上手だと女性にもてるぞ。ちょっとずつでいいから親のお手伝いをしてみたらどうだ?」
「流石師匠だぜ! 情報サンキュー!」
「なるほど、餌付けか!」
「母ちゃん! 今日から俺、手伝うぜ!」
やる気に満ち溢れた小学生三人。これでご両親も少しは楽になるだろう。そして、盗み聞きしていたそこの係員さん? ”師匠マジパネェっす! 情報あざっす!”みたいな顔でぺこぺこと頭を下げるの止めて!
「お姉ちゃんお姉ちゃん。プリンにトッピングがあるということはプリンアラモードだよ!」
「な、なんですって! 弟くんの作ったプリンアラモード…想像しただけで涎が出ちゃう…これはなんとしても食べなければ!」
「使えるものは全部使って」
「プリンアラモードをゲットね!」
後輩ちゃんと桜先生が何やらコソコソと喋っていた。お互いに頷き合って覚悟を決めている。一体何をするつもりなのだろう?
「次の方どうぞ!」
やっと俺たちのウォータースライダーの番が来た。係員の女性が微笑んで案内してくれる。
「どんな体勢にします? 縦に三人並ぶか、横に三人で滑るか。横の場合だと、真ん中の方にギュッと抱きつく体勢になりますが」
「「横で!」」
即答する桜先生と後輩ちゃん。
「横だそうです」
係員の女性は微笑ましそうに頷いてくれた。
俺が真ん中に座り、左右に後輩ちゃんと桜先生が抱きついてくる。むぎゅッと抱きつき、そして、脚まで絡めてくる。ふわふわスベスベの太ももが左右から挟まれる。なにこれっ!?
「ふっふっふ。覚悟してください、先輩!」
後輩ちゃんが妖艶に微笑んでいる。スリスリと脚を動かさないでください!
桜先生も艶美に微笑んでいる。
「うふふ。女の武器を使ってプリンアラモードをゲットよ!」
な、何故かプリンアラモードのことがバレている。俺は一言も言っていないのに! ってお願いだから絡ませた脚をスリスリしないで! 胸も押し付けないで!
「プリンアラモードをくれないと、もっとすごいことをしますよ?」
「女の子は甘いものを食べるためには手段を選ばないの。どうする弟くん? プリンアラモードをくれる? それとも理性が崩壊して蹲って立てなくなりたい?」
さ、流石にこれ以上は危ない。本当に立てなくなる。社会的に死ぬ!
「わかったから! 二人にも作るから離れてくれ!」
しかし、係員の女性から笑顔で注意される。
「ダメですよー。今からウォータースライダーを滑るんですから、離れたら危ないです。というわけで、いってらっしゃい!」
ドンッと背中を押される俺たち。覚悟も決めていないのに勢いよく滑り落ちていく。
「きゃぁあああああああああああああ!」
「ぎゃぁぁああああああああああああ!」
「ひゃぁあああああああああああああ!」
速い速い速い! 思ったよりも速すぎる! 誰か助けてくれ!
ザッブーンッと盛大に水しぶきを上げてプールに着水する。幸い誰もポロリはしていない。
ほんの十数秒の落下がとても長く感じた。左右の後輩ちゃんと桜先生がむぎゅっとつかまっていたのも忘れていた。全然余裕がなかった。もうこりごりです。ウォータースライダーでこれだから、俺は絶叫系もダメみたい。
「なあ、少しゆっくりしないか?」
「「賛成」」
ぐったりと疲れた様子の後輩ちゃんと桜先生。二人も絶叫系はダメらしい。ホラーは大好きなのに。
一気に疲れた俺たち三人はゆっくりとプールから這い上がる。その背後を小学生三人や楓と裕也のバカップルが楽しそうに滑り落ちていた。
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