第108話 朝の団欒と後輩ちゃん

 

 パンとベーコンの焼ける良い匂いがする。今日の朝食はパンにベーコンエッグにコンソメスープにサラダ。洋食だ。今日の当番は父さんなので、俺は父さんのお手伝いをしている。

 母さんはテーブルに座ってフォークを握っている。小学生が涎を垂らしそうにご飯を待っている姿にしか見えない。

 幼女がテーブルをバンバン叩いて催促する。


「ねえまーだー? おなか減ったー」


「風花さん、もうちょっと待って」


「暇なら姉さんと後輩ちゃんと楓の三人娘を起こしてきて!」


「えぇー! だって颯くんは昨日美緒ちゃんと葉月ちゃんの三人でお楽しみだったんでしょ? 勝手に部屋に入るのはちょっと…」


「………母さんが考えていることは一切してないからな! 俺たちは何もしてないからな!」


「またまたぁ~! お母さんに嘘つかなくてもいいんだよ! 男女が一緒のベッドで寝たらあんなことやこんなことが起きるでしょ? 暴露しちゃいなよ!」


「だから何にもしてないから!」


 なんでこの見た目幼女の母親は下ネタが好きなのだろうか。朝からげんなりする。

 猛烈に否定する俺に母さんは何故か心配そうな視線を向ける。


「颯くんって枯れてるの? それとも不能なの? 病院行く?」


「どっちも違う! いつも元気だっつーの!」


「じゃあヘタレなのか」


「うっさい!」


 ヘタレで悪かったな! それに、昨日はホラー映画のせいで余裕がなかったんだよ! いつの間にか寝ちゃってたし。

 穏やかに微笑んでいる父さんに見守られながら、母さんと言い争っていると、ドアが開いて三人娘が起きてきた。


「おはよー」


「おはよう……ごじゃいましゅ……」


「ふぁ~……………おっは~」


 先頭は、この家にすっかりなじんだ桜先生。眠そうに目を擦っている。

 先生の服の裾を掴んで、眠そうに目が半分閉じているのは後輩ちゃん。未だにウトウトとしていて危うい。

 その後輩ちゃんの服の裾を掴んでいるのが、欠伸をしながら入ってきた楓。眠そうにボーっとしている。


「おはよー我が娘たち!」


 テンション高く挨拶したのは母さん。実際の娘は一人だけだけど。


「おはようございます」


 次に挨拶したのはちょうど朝食を作り終えた父さん。父さんは朝もダンディだ。


「おはよう。三人とも寝癖がすごいな。早く席に座って。すぐに直すから」


 最後は俺。こういう事だろうと思って準備していた櫛で三人の髪の寝癖を直す。いつもこの時間を楽しみにしている俺がいる。


「弟くんありがとね」


 大人しく綺麗な黒髪を梳かれている桜先生。嬉しそうだ。


「先輩私にも!」


 目が覚めた後輩ちゃんもおねだりしてくる。ちょっと待っててください。


「お兄ちゃん久しぶりに私にもよろしくー」


 わかったから、サラダをつまみ食いするのは止めなさい。


「みんな仲いいね! 流石私の子供!」


「風花さん、そこは私たちと言って欲しいな。僕の子供でもあるんだから」


「ごめんねー」


 何やら父さんと母さんが朝からイチャイチャしてるけど無視しておこう。

 桜先生の寝癖は直ったから、食事の邪魔にならないように軽く結んでっと。


「ずっと聞きたかったんだけど、なんで姉さんはジャージ姿なの? 普通の服を着ようよ」


「あら? これも普通の服よ」


「実家…というか、父さんと母さんがいるのにジャージ姿でいいのか?」


「流石にいつもみたいに脱いだりしないから安心して、弟くん!」


「「「おぉ!」」」


 父さんと母さんと楓が何故か感心している。ヤルことヤッてんだ、みたいな顔をしないでくれ。俺は何もしてないから!

 そして、次に三人の視線の先が後輩ちゃんに向かう。


「………………その、私もちょっと頑張っています」


「うんうん。私は知ってるよ、葉月ちゃんが頑張っていること。問題は…お兄ちゃん」


 五人の視線が俺に集まる。はいはい。全て悪いのは俺ですよ。


「楓よ。お前の分は梳いてやらんからな!」


「なんですとー!」


「後輩ちゃんは梳いてやろう! 特別だ」


「わーい!」


 好きな人には甘々の俺。うんうん、後輩ちゃんは可愛いなぁ。朝から癒される。

 後輩ちゃんの寝癖を直し、俺が誕生日プレゼントであげたシュシュで結んであげる。

 そして、嘘泣きして縋りついてきた楓の分も仕方なく髪を梳いてあげる。優しいな俺。盛大に感謝するがいい。

 全員準備が整ったので朝食だ。


「「「「「「いただきます!」」」」」」


 うん、美味しい。全員幸せそうな顔だ。パクパクと食べていく。

 ただ美味しそうに食べるだけ。会話は少なく、みんな食べることに夢中だった。

 全員食べ終わったら一斉に挨拶する。


「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」


 そして、食器を片付けようとしたところで、母さんが立ちあがった……椅子の上に。床に立ったら、立ってるのか座ってるのかわからないくらい同じ身長だからな。目立つために椅子の上に立ったのだろう。

 椅子の上の母親幼女が突然宣言する。


「今日は皆でお買い物に行きたいです! 隆弘くん、今日暇?」


「暇だよ」


「美緒ちゃんは?」


「暇です」


「葉月ちゃんは?」


「暇ですよ」


「楓ちゃんは?」


「暇だよー」


「颯くんも暇だから、じゃあお買い物決定!」


「いや、なんで俺だけ決めつけるの? ねえ、なんで?」


 母さんがキョトンとしている。他の女性陣もキョトンとしている。父さんは穏やかに微笑んでいるだけ。


「颯くんは予定あるの?」


「…………ないけど」


「ほら、聞かなくてもよかったでしょ?」


 最近俺の扱いが酷くなってないか? 息子だぞ息子。なんでそんなに雑なんだ!

 ちょっと心が傷ついたから、後で後輩ちゃんに癒してもらおうっと。

 こうして、母さんの突然の思い付きによって全員でお買い物に行くことになりました。


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