第109話 家族でお買い物と後輩ちゃん

 

 お盆期間なので賑わうショッピングモール。大勢の人が買い物を楽しんでいる。家族連れが多いようだ。小さい子供から里帰りした子供、祖父母も連れて大賑わい。

 その家族連れの中、一際目立つ家族連れがいた。特に男性たちの視線を釘付けにしている。

 まあ、わかるだろうけど俺たち宅島家。

 ダンディな父さんは小学生のような幼女の母さんと手を繋いでいる。これが夫婦だとはだれも気づかないだろう。俺から見ても親子に見える。

 その幼女の母さんの反対の手を握っているのは桜先生。先生は中身はポンコツだけど、見た目は超絶美人なので男性の視線を集めている。流石にジャージ姿ではない。どう見ても、父さんが父親で、桜先生が母親、二人の間の母さんが娘に見える。

 その三人の斜め後ろを歩くのは楓と裕也のバカップル。楓は楓で美少女だし、裕也は誰から見てもイケメンだ。美少女とイケメンのカップルが腕を組み、ハートマークを振りまきながら恋人つなぎをしている。イケメン爆発しろ!

 そして、その後ろを歩くのが俺と後輩ちゃん。後輩ちゃんは一旦家に帰り、オシャレをしている。ハッとするような美少女。後輩ちゃんも周りの視線を集めている。俺の腕をむぎゅッと抱きしめ、恋人つなぎ。平均より大きな胸が俺の腕に当たっている。とても心地よい柔らかさだ。


「……うぅ、人が多いです。うへぇ…」


「大丈夫か後輩ちゃん?」


「……大丈夫です。そうだ! 周りを見ずに先輩だけ見てればいいんです! というわけで、案内よろしくです! 私は前を見ません!」


 人混みが嫌いな後輩ちゃんがじっと俺の顔を見つめたまま歩き出す。全て俺に任せたようだ。じっと見つめられるので恥ずかしいな。


「あらあら裕也さん! 見てくださいな。あの二人はお熱いですねぇ~!」


「そうですね楓さん! 甘すぎて胸焼けがしそうですねぇ~!」


「「ごちそうさまです!」」


「うっさい!」


 裕也と楓のバカップルのニヤニヤがとてもうざい。それに、お前らのほうがラブラブしてるだろうが!


「あらあら奥さん見てくださいな。二人とも無自覚のようですよ」


「あらあら旦那さん。付き合い始めたばかりかしら。二人とも初々しいですよ」


「「ごちそうさまです!」」


「だからうっさい!」


 俺たちはまだ付き合ってないから! まあ、俺が告白しないせいだけど。うぅ…俺ってヘタレだなぁ。反省しよう。

 さっきから後輩ちゃんの視線がすごい。宣言通りすっと見てくるなぁ。横を向いたら後輩ちゃんと視線が合った。


「…はぅ…先輩の横顔もかっこいい……はっ!? い、今の無しで」


「お、おう!」


 お互いに気まずくて視線を逸らしてしまう。なんで心の声が洩れてるんだよ。心の声は心の中でお願いします。じゃないととても恥ずかしいから!


「「ごちそうさまです!」」


「さっきからうっさいぞバカップル!」


 裕也と楓がコソコソと話し始める。『お前が言うな』とか、『お兄ちゃんたちがいちゃついているのが悪い』とか、『早く付き合え』とか言ってるけど、全て聞こえてるからな! 後でお仕置きしよう。


「というか、なんで裕也がいるんだよ!」


「楓ちゃんに誘われたからに決まってるだろうが! 愛する楓ちゃんに言われたら、俺はどこだって行くぞ!」


「じゃあ、地獄に行ってきて♡」


「楓ちゃん! それは流石に酷くない!?」


 まあ、ドSとドМのバカップルのいつものやり取りか。ハードだな。

 おっ、母さんたちのお目当てのお店に着いたようだ。ふむ、女性ものの洋服のお店か。


「我が娘と息子たちよ! このお店に行きまーす!」


「「「「息子? 娘?」」」」


「わかったよ、母さん」


「「「「母さん!?」」」」


 何やら周りが騒がしい。全員驚愕しているのは何故だろう? あっ、この幼女が母親に見えなかったのか。周りのお客さんたちの視線が母さんと桜先生を行ったり来たりしている。

 桜先生が母さんから離れて俺に近づき、後輩ちゃんとは反対の腕に抱きつく。大きな胸が腕を包み込む。


「お姉ちゃんの分は弟くんが決めてくれる?」


「「「「お姉ちゃん!? 弟!?」」」」


 あんな美人で巨乳の姉がいるなんて羨ましい、という男性たちの嫉妬の視線を感じるけどすべて無視する。しかも、美少女の彼女持ち…ハーレム野郎死ね、という殺意の視線ももちろん無視する。

 周りのことは放っておいて、俺は桜先生の言葉に感動を隠せない。前回服を買いに来たときはジャージしか買う気なかったのに、ちゃんとした洋服を欲しがるなんて成長したんだなぁ。弟として姉の成長に涙を隠せない。


「わかったよ、姉さん。後輩ちゃんの分もちゃんと決めるからな」


「まあ、無理しないでください。私も一応お洋服はいろいろ持っていますので」


「片付けは出来ないけどな」


 うぐっ、と桜先生が胸を押さえた気がするけど、いつものことだ。片付けができない後輩ちゃんはもう開き直っている。ドヤ顔をしている。


「取り敢えず、まずは姉さんの部屋着を決めないと! まだまだ部屋着が少ない。後輩ちゃんも選ぶのを手伝ってくれ!」


「 Yes,sir!」


「お母さんもお手伝いしまーす! 美緒ちゃんは綺麗な美人さんだから、お洋服の選び甲斐がある!」


「僕は風花さんに似合う服でも見てみようかな」


 流石父さん。女性服のお店なのに臆することなく一人で探し始めた。尊敬する。まあ、母さんに合うサイズがあるかどうかは疑問だが。

 取り敢えず、最優先は先生の洋服だ。そして、後輩ちゃんの洋服も。張り切って選ぼう!


「あーあ。お兄ちゃんのスイッチが入っちゃった」


「どういうこと、楓ちゃん?」


「お兄ちゃんって乙女で世話好きでしょ? 普通の女の子よりもお洋服選びとか大好きなんだよね。私もよく着せ替え人形になったんだよ。お兄ちゃんのセンスは良かったから文句はないんだけど」


「ということは……」


「葉月ちゃんもお姉ちゃんもお兄ちゃんの愛玩人形になっちゃいます」


「…………嬉しそうだからいいんじゃね?」


「それもそうか」


 裕也と楓のこんな話をしているとは知らず、俺は母さんと一緒に桜先生と後輩ちゃんの洋服を熱心に選んでいた。









<おまけ>


「そう言えば、お義母かあさん? 私の誕生日プレゼントのあの下着は…」


「私たち母親で選びました! 役に立った?」


「はい。ありがとうございました。先輩の理性を崩壊させることは出来ました。けど、先に私がギブアップしちゃって……」


「そういうことはゆっくりと進んでいくものなの! 焦らず安心して颯くんに身を委ねなさい!」


「はい! 頑張ります!」


「んっ? 後輩ちゃんと母さんはコソコソと何の話をしてるんだ?」


「「乙女の内緒!」」


 乙女ねぇ。母さんは乙女っていう年齢じゃ……すいません。ごめんなさい。



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