第105話 俺の家族と後輩ちゃん
実家に帰省して二日目。俺は朝から母さんと一緒に朝食の準備をし、お皿洗いや洗濯物の手伝いをした後、今はリビングでのんびりしている。
うつ伏せになって読書。いつもの日常だ。
「颯くん颯くん! お盆の予定はー?」
母の風花が俺の右太ももを枕にして、新聞チラシを眺めながら問いかけてきた。
「う~ん、今決まってるのはプールに行くくらい? 後輩ちゃんとか姉さんとか楓と裕也も」
「いいなぁ。隆弘くん、私たちもプール行こ?」
リビングのソファに一人で座ってかっこよく読書をしていた父さんが顔を上げる。
ちなみに、読んでいるのはライトノベルだ。異世界転生ハーレムものらしい。俺の部屋にあるやつだ。よく俺の家族は勝手に持ち出して読んでいる。
「んっ? もちろん喜んで! 久しぶりにプールに行くのもいいね。風花さんの水着を期待してもいいのかな?」
「もちろんだよ!」
母さんはブイサインで応じているだろうな。俺からは見えないけど。
この見た目小学生のロリっ子の母さんがプールに行くのか。父さん犯罪者として捕まらないよね? 不安だ。………あっ、親子として見られるか。なら安心だ。
「颯?」
「颯くん?」
「な、何も考えていませんよー」
あ、焦ったぁ。父さんと母さんから物凄く低くて冷たい声で名前を呼ばれると恐怖が襲ってくる。この話題を考えるのは止めておこう。
「お兄ちゃんったらバカだなぁ」
母さんの隣で俺の背中を枕にしている妹の楓が呆れている。
楓とは反対方向、俺の背中を枕にしながら左側で寝そべっている後輩ちゃんも呆れている。
「先輩。親や女性は結構敏感なんですよ。考えていることなんて丸わかりです」
「そうよ、弟くん!」
後輩ちゃんの隣、俺の左太ももを枕にしている桜先生も同意する。
「弟くんがお姉ちゃんに抱きしめられて、満更でもないと思っているのもお見通しです!」
ま、まじですかぁ。もしかして、後輩ちゃんも気づいてる?
「私も知ってますよー。でも、弟が姉に甘えるのは普通のことです! もちろん、妹が姉に甘えるのも普通のことなのです! だから、お姉ちゃ~ん!」
「妹ちゃ~ん!」
「「むぎゅ~!」」
仲良さそうですね二人とも。でも、二人で仲良く抱き合っているのはいいですけど、二人が今枕にしているのは俺のお尻ですけど。ちょっと移動してくれませんかね?
「で? 後輩ちゃん。なんで後輩ちゃんが朝から俺の家にいるんだ?」
「父と母が仲良くラブラブイチャイチャデートに出かけたので避難してきました。あの二人仲良すぎです。そのうち弟か妹ができそうで不安なんですけど」
「まあ、いいんじゃない? ウチも似たようなものだし。ね? お母さん?」
楓が母さんに同意を求める。確かにウチも似たようなものだけどさ。
「いえーい! 颯くん、楓ちゃん。妹か弟欲しい?」
「勘弁してくれ」
「私はどっちでもいいけど、お父さんもお母さんも体力あるの?」
「んっ? まだまだ現役だけど? 昨日だって…」
「あーあー! 聞こえなーい! それ以上親のそういうこと聞きたくなーい!」
俺が大声を上げると女性三人、楓、後輩ちゃん、桜先生、から抗議の声が上がる。いやいや、そういうことが聞きたかったら、俺のいないところで、女性陣だけで話してくれよ。
父さんはダンディにかっこよく本を読んでるし。本はラノベだけど。
「まあ、話を戻しますが、家で一人でいるのは暇……というか、死んじゃいそうなので遊びに来ました。ついでに両親から既成事実を作るようにと言われました。というわけで、既成事実でも作ります?」
「作りません! ………………まだ」
おいコラ! ヒューヒューって言ってる奴らうるさい! って何気に父さんまで言ってるし!
「颯くん颯くん! お母さんたちお買い物でも行ってこようか?」
「お兄ちゃん! 男は度胸だぜ!」
「きゃー! 弟くん、きゃー!」
女性陣がうるさい。なんで俺の家族はこういう奴らばかりなんだ。
「既成事実の前に告白でもいいですよ?」
後輩ちゃんがそう言った途端、騒いでいた連中が静まり返る。突然静まり返ったことで俺は驚いた。一体何が起こったんだ?
「えっ? 颯くんまだ葉月ちゃんに告白してなかったの!?」
「そうなんだよお母さん。この間の花火大会の時もこのヘタレ野郎はヘタレたの。ほんっとうにヘタレだよね、ヘタレお兄ちゃんは」
「弟くん。流石にお姉ちゃんでもヘタレすぎだと思うの」
「颯、流石にヘタレるのもいい加減にしたらどうだ? 何年ヘタレてる?」
くっ! 楓や母さん、桜先生はともかく、父さんまで言うのか。父さんまで言うなら俺って相当のヘタレなんだな。
みんなが一斉に落胆のため息をついた。
「だ、だって、せっかく告白するなら、一生思い出に残る場所とか雰囲気とか、そういう所にもこだわりたいから……」
「「「「「はぁ……乙女だなぁ」」」」」
全員そろって乙女って何だよ! 俺は男だ!
「葉月ちゃん、ウチのヘタレの乙女くんがごめんね」
「本当にごめんな、ウチの乙女が」
何故後輩ちゃんに謝る俺の両親よ。まあ、俺のせいだけど。でも、一つ言っておく。決して俺は乙女ではない。ないったらないのだ!
「お
「葉月ちゃん、もうお兄ちゃんのこと襲ったら? そのほうが手っ取り早いかもよ?」
「そうしたい気持ちも少し……いや、結構強いけど、私のほうがまだ…恥ずかしくて気絶しちゃう」
「きゃー! 妹ちゃんが可愛い!」
桜先生が後輩ちゃんに抱きつく気配があった。俺からは見えないけど。
「くっ! 葉月ちゃんが隣に居たら私も抱きつくのに!」
「美緒ちゃんズルい! 母である私にも抱きつかせるのだー!」
幼女の母さんがコロコロと移動して、後輩ちゃんを抱きしめに行く気配があった。全て俺の背中であっていること。俺からは見えない。見ようとして首を動かせば、抗議の声が上がるのだ。寝にくいらしい。
俺の身体の左半分に後輩ちゃんと桜先生と母さんがいて、右側に妹の楓がいる。全員俺の身体を枕にしている。
「あのー? 今さらですが、何故全員俺の身体を枕にしているのですか?」
母さんが元気よく答える。
「颯くんの母親だからです!」
楓も元気よく答える。
「お兄ちゃんの妹だからです!」
桜先生も元気よく答える。
「弟くんのお姉ちゃんだからです!」
後輩ちゃんは恥ずかしそうに答える。
「先輩の、しょ、将来のお嫁さんだからです!」
「「「きゃー!」」」
女性陣が後輩ちゃんを揉みくちゃにしているようだ。俺の背中が騒がしい。
今のは正直言って胸をドキューンと撃ち抜かれた。この言い方はズルい。後輩ちゃんはズルい。出来れは言った時の後輩ちゃんを見たかった。とても可愛かったことだろう。見れなかったのは実に残念だ。
俺の母・妹・姉は、俺の将来のお嫁さんを抱きしめて揉みくちゃにし、父はそれを微笑ましそうに優しく微笑んでいた。
俺の家族は今日も賑やかだ。
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