第106話 ホラー映画と超可愛い先輩

 

 ふふふ。うふふふふ。あーっはっはっはっは!


 来た! とうとう私の時代が来た! ホラー映画の時間だ!


 外はまだお昼。先輩のお家にお邪魔している私。先輩のご家族とお昼ご飯を食べてのんびりしている。


 私の親友の楓ちゃんが「映画を観よう!」と誘ってくれて全員が了承したところだ。


 もちろん、私の根回し済み。お義父とうさんとお義母かあさんにも許可を取ってある。お姉ちゃんは……言わなくて大丈夫だよね? お姉ちゃんは嘘つくの下手だし。先輩にはもちろん言っていない!


 ふふふ。私の完璧な作戦大成功! さあ、先輩を愛でる時間だ!



「せ~んぱい! 一緒に観ましょうね!」


「ああ、いいぞ」



 私が先輩の腕に抱きつくと、穏やかに微笑んでくれた先輩。とてもかっこいい!


 ソファにはお義父とうさんとお義母かあさんが二人仲良く座り、私と先輩も隣同士で座る。ちょっとソファを詰めて、私の反対側の先輩の隣にお姉ちゃんが座り、さらにその横に楓ちゃんが座った。


 楓ちゃんがお姉ちゃんのおっぱいをモミモミしているけどいいのかな? 二人とも気持ちよさそうだけから放っておこう。


 ホラー映画が始まった。オープニングはホラー映画とわからない作品を選びました。


 そろそろいいかな。私は楓ちゃんに借りたものを取り出す。


 ガチャリ、ガチャリ!


 先輩が不思議そうに自分の手と私の手を繋いだ物体を眺めている。



「後輩ちゃん? 何故手錠をつけたんだ? そして、何故手錠を持っているんだ?」


「この手錠は楓ちゃんから借りました」



 お姉ちゃんに抱きついておっぱいをモミモミしていた楓ちゃんがブイサインしている。



「いえーい!」


「………………後輩ちゃん。物凄く嫌な予感がするんだけど。俺、今すぐここから立ち去りたいんだけど!」



 立ち去りたくても手錠があるので、もう逃げられませんよ。私は先輩に輝く可愛い笑顔を向ける。



「もう遅いです!」


『キャーーーーーーーーーーー!』



 突如テレビから発せられる女性の悲鳴。あはは。襲われてる。


 そして、私の隣でも上がる可愛らしい叫び声。



「きゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」



 ガタガタと震え私に抱きついてくる。………ちょっと手錠が邪魔だな。



「あははははは! はぁ~先輩可愛い~! はぁ…先輩が可愛すぎます……」



 尊い。怖がる先輩が尊い。神か? 私の可愛い神様か? あっ、私の可愛い将来の旦那さんだった。まだ付き合っていないけど。



「えっ? なになに!? なんで弟くんがこんな風になってるの!?」



 先輩がホラーが苦手ということを知らないお姉ちゃんが目を白黒させている。


 そして、再び上がる大きな音と女性の悲鳴。もちろん先輩の悲鳴も。



『ギャーーーーーーーーーーーー!』


「きゃぁぁぁあああああああああああ! もう嫌ぁぁあぁあああああ!」


「うふふ。あははははは! くぅ~先輩が可愛すぎます! はぁ…ずっと眺めていたい。先輩、可愛いですよ。もっと怯えて、もっと恐怖して、もっと震えて、もっともっと可愛くなってください…」



 はぁ…私、このために生きてるかも。先輩が可愛すぎる。


 全然わかっていないお姉ちゃんに楓ちゃんが説明してくれる。ごめん、今は先輩を愛でるのに忙しくて他のことができない。



「お兄ちゃんはね、大のホラー嫌いなの。大っ嫌いなの。だけど、お父さんやお母さん、私や葉月ちゃんは大丈夫! というか、葉月ちゃんは大好きで、恐怖で震えるお兄ちゃんのことをいつも愛でているの」


「あぁ~! なるほど。気持ちはわかるわ。だって弟くんったらこんなに可愛いんだもん! はぅ…イケナイ扉が開きそうだわぁ」



 涎を垂らしそうなくらい顔を蕩けさせて先輩を見ているお姉ちゃん。同志がここにいた!



「あぁ…美緒お姉ちゃんも葉月ちゃんと同類なんだ。お兄ちゃんご愁傷様♪ ガンバ!」


「ガンバじゃねぇえええええええ!」



 先輩が顔を上げ楓ちゃんに向かって吠えるが、ちょうどいいタイミングでテレビから悲鳴が上がる。



「きゃぁぁぁあああああああああああ!」



 あぁ…先輩の可愛い悲鳴。私に抱きついてブルブル震える先輩。顔を私の太ももというか、丁度股のところに顔を押し付けている。先輩の熱い息がくすぐったい。


 いろいろと変な気分になってきた。



「はぅ…せんぱい…いい子いい子…」



 ガタガタ震える子供のような先輩の頭を撫でる。意外とサラサラで撫で心地がいい。お姉ちゃんも先輩の背中を撫でている。


 少し安心して震えが治まる先輩。でも、私は容赦しない!



「ふぅ…」



 先輩の首筋や耳に生暖かい息を吹きかける。



「嫌ぁぁあああああああああああああああああ!」


「くくくっ! あはは! あぁ~楽しい~!」



 ついでにお姉ちゃんも先輩の背中の服の中に手を入れる。



「うわぁぁああああああああああああああああ!」



 バタバタと暴れて背中をバタバタと叩く先輩。追い打ちをかけてテレビから悲鳴が上がる。



「~~~~~~~~~~~っ!?」



 声にならない悲鳴を上げて、私のちょっといけないところにグリグリと顔を押し付ける先輩。可愛すぎる。そして気持ちいい。私とお姉ちゃんは蕩けた笑顔が止まらない。


 ブルブルと震えて幼児退行した先輩がちょっとだけ顔を上げる。



「葉月のばか。姉さんのばか。大っ嫌い」



 そして、また私のいけないところに顔を隠す。


 きゃー! 何この可愛い生き物! 私の心臓がドッキューンと撃ち抜かれた。ど真ん中を貫かれた。お姉ちゃんも心臓を押さえている。


 でも、私は悪戯を仕掛ける。目をウルウルさせて、ショックを受けたように震えて悲しげな声を出す。本当は笑いを堪えているだけだけど。



「……先輩…私のこと嫌いになっちゃたんですか?」


「お姉ちゃんのことも嫌いになったの?」



 即座にお姉ちゃんも演技する。ナイスお姉ちゃん!


 先輩がビクッとして、ブルブルと顔を横に振っている。


 私は更に悲しげな、かつ少し心配や安堵も込めて声を出した。こういう時の演技は最高に得意だ。



「本当に嫌いになっていませんか?」



 精神が幼児化した先輩がちょこっと顔を上げた。



「嫌いにならないもん。ばか」



 きゃー! 何この可愛い生き物! 涙でウルウルした瞳の先輩。私は先輩の可愛さに撃ち抜かれて悶絶する。


 ヤバい。興奮しすぎて鼻血が出そう。あっ、お姉ちゃんは鼻血が出てる。大丈夫かな?


 こうして、ホラー映画が終わる二時間の間、私とお姉ちゃんで先輩を弄って弄って弄り倒しました。滅茶苦茶可愛かったです!


 私、もう大満足! 可愛い可愛いとっても可愛い先輩のことが大好きです!


 映画が終わった後、先輩の身体から魂が抜けてたけど大丈夫かな?


 こんな可愛い先輩を見せてくれるホラー映画よ、ありがとう!


 またお世話になりまーす!


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