第100話 土下座する美緒ちゃん先生と後輩ちゃん

 

 祝100話! いつもありがとうございます。(by作者)


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 夜。寝室のドアが開いて後輩ちゃんと桜先生が入ってきた。そして、俺に向かってダイブしてくる。



「せんぱぁ~い!」


「弟くぅ~ん!」



 ポフンっと抱きついてきた二人。夏なので、薄着の二人の柔らかな肌の感触が伝わってくる。それに伴い漂ってくるあまい香り。いつまでたっても慣れることはない。


 先日、後輩ちゃんの裸を見てしまうという事件があり、気まずい雰囲気になってしまったが、その日の夜にはお互いにいつもの雰囲気に戻っていた。


 視線も合わせてくれるようになって良かった。あのまま視線を逸らされていたら俺はショックで泣いてた。それくらい辛かった。


 後輩ちゃんのパッチリとした綺麗な瞳と視線が合う。



「先輩! 性感マッサージしてください!」



 桜先生の綺麗な瞳も見つめて来る。



「弟くん! お姉ちゃんにも性感マッサージして!」



 ふむ。何やらおかしい言葉が聞こえた気がするぞ。



「………なぁ? もう一回言ってくれ」


「先輩! 性か……性感マッサージしてください!」


「弟くん! お姉ちゃんにも性か………性感マッサージして!」


「おいコラ! 性感マッサージって何だ!? 俺がやってるのは普通のマッサージだ! 言い直そうとして普通に言うな! 二人とも誤魔化す気ないだろ!」



 明後日の方向を見て口笛を吹く二人。後輩ちゃんの口笛は軽快で複雑な音階を奏で、桜先生の口笛は音が出ておらず、スピースピーと口で言っている。



「……………誰が性感マッサージなんて言った? 楓か?」


「ち、ちがいますよー」


「い、妹ちゃんは関係ないわー」



 汗をダラダラと流し、瞳をキョロキョロと彷徨わせている二人。素晴らしいほどの棒読み口調。明らかに誤魔化している。


 なるほど楓のやつか。今度お説教しておこう。というか二人、隠す気あるのか?



「先輩お願い♡」


「弟くんお願い♡」



 二人からの女の武器を使ったおねだり。瞳を熱っぽく潤ませて、上目遣い。胸の前で両手を合わせている。胸を強調させるのも忘れない。


 色っぽい雰囲気を醸し出した美女と美少女の可愛いおねだりに逆らえる者はいない。



「……わかったよ」



 俺はあっさりと白旗をあげて降参する。後輩ちゃんと桜先生が、よっしゃ、と小さくガッツポーズ。ちょっと可愛かった。



「(楓ちゃんに演技指導してもらった甲斐があったね)」


「(弟くんチョロいわ!)」


「何か言った?」


「「何でもな~い!」」



 そうか。何やら二人でコソコソ喋ってた気がしたけど、俺の気のせいか。


 よし、それじゃあ二人のマッサージを始めて行こうかな。こうなったら全力でやろう。




 ~後輩ちゃんのマッサージ中~


「モミモミ…モミモミ…」


「はぅうん♡ そこっ…あぁっ……だめぇ……堕ちちゃうぅぅううう♡」


 パタリ…ピクピク……ピクピク…





 ~桜先生のマッサージ中~


「モミモミ…モミモミ…」


「やぁんっ♡ んっ…弟くんっ……もっとぉ強く…らめぇぇぇええええ♡」


 パタリ…ピクピク……ピクピク…


 ~マッサージ終了~




 さて、後輩ちゃんと桜先生に対する普通のマッサージが終わったが、どうしようか。現実逃避をするか? いや、意味ないな。じゃあ、まずは叫ぶか。



「どうしてこうなった!?」



 ベッドに横たわる美女と美少女。目は虚ろ。口はだらしなく開いて、涎が垂れている。顔は幸せそうに蕩けきっており、頬が朱に染まっている。髪は汗で肌に貼り付いており、時折、身体全体がピクピクと痙攣している。


 実にエロい!


 何故普通にマッサージしただけなのに情事の後みたいになるのだろうか。不思議だ。


 後輩ちゃんと桜先生のポイズンクッキングみたいなスキルが俺にはあるのか? マッサージをすると性感マッサージになってしまうというスキルが。


 どうしよう。封印するか? でも、マッサージをするのは後輩ちゃんと桜先生だけだし、まあ、俺も年頃の男だから、こういうスキルはありがたいというかなんというか。


 心の中で葛藤していると、ダウンしていた後輩ちゃんと桜先生がムクリと起き上がった。ユラリと身体が揺れて、瞳がギラリと光る。



「えっ? ど、どうしたの? 何かちょっと怖いんですけど!」


「あはっ♡ いいからいいから、大人しくしていてください」


「うふっ♡ 弟くんは何もしなくていいわ。全部私たちに任せて?」


「途轍もなく嫌な予感がするんですが! 近寄らないで! あっ! 手を掴むな! って力強っ! あっ! ダメだから! 服を脱がそうとするな! や、やめろぉぉおおおおおおお!」




 ~後輩ちゃんと桜先生によるマッサージ中~


「あははっ♡」


「うふふっ♡」


「あぁぁぁあああああああああああああああ!」


 ~マッサージ終了~




「シクシク……シクシク……女性って怖い……肉食系女子って怖い……」



 俺はシーツを体に巻き付け、泣いていた。


 女子って怖い。肉食系女子って恐ろしい。もう獣だよ獣。ウチには獣が二匹もいるんだよ。勝ち目なんかない。うぅ…。



「はぁ…先輩が可愛かったです」


「悶える弟くん…萌えたわ」



 後輩ちゃんと桜先生が満足そうな顔で遠くを見ている。ぎらついていた瞳も落ち着いて、悟りを開いたかのよう。賢者モードに入ったらしい。


 よし決めた! そろそろ限界。二人にはちょっとお説教しよう。



「二人とも床に正座」


「へっ? なんでですか?」


「正座」 ニコッ!


「「ヒィッ! ひゃ、ひゃいっ!」」



 何やら後輩ちゃんと桜先生がビクッと怯えて即座に正座したな。ビクビク震えている。


 何故だろう。俺はニコッと微笑んだだけなんだけどな。



「さて二人とも。最近ちょ~っとやりすぎじゃないですかねぇ? まあ、俺も嫌ではないんだけど、そろそろ止めないと更にエスカレートしそうだからお説教します」


「ご、ごめんなさい。お姉ちゃんができて調子に乗っておりました。誠に申し訳ございません」



 俺のことを良く知っている後輩ちゃんが即座に土下座して謝る。



「い、妹ちゃん!?」


「お姉ちゃんも早く謝って! いいから早く!」


「え、えっと、妹ちゃんができて調子に乗っておりました。ごめんなさい?」



 訳が分からないけど、取り敢えず土下座して謝る桜先生。他の生徒には見せられない光景だな。



「ふぅ~ん? 俺のことを良く知っている後輩ちゃんは気づいていたんじゃないか?」


「あはは~。最近ちょっとお姉ちゃんとはしゃぎすぎかなぁって思ってました。はい。ごめんなさい」



 綺麗な土下座する後輩ちゃん。桜先生はまだよくわかっていないらしい。



「えーっと、どういうこと?」


「私たちがちょっとはしゃぎすぎていたので、先輩のイエローカードが発動しました。即座に謝らなければレッドカード。刑罰が執行されます」


「刑罰って?」


「今までにあったのは、一カ月間先輩の部屋へ進入禁止とか、一日手を繋がないとか。これは中学の頃でしたけど。最近では女子会の後の一週間ナデナデ禁止とか、ですかね。長くて辛い一週間でしたよ。死ぬかと思いました」


「な、なんて極悪非道で残忍なことを!?」



 いや、そこまでではないと思うけど。まあ、この罰は諸刃の剣で俺にも影響があるんだけどね。どれも辛かったけど、最近の一週間ナデナデ禁止は大変だったなぁ。無意識に後輩ちゃんの頭を撫でようとしたから。あれって俺の癒しでもあるんだよねぇ。それを禁止なんて。いやー、辛い一週間だった。



「今回は即座に謝ったけれど、姉さんの分もあるのでレッドカードを発動します」


「そ、そんなぁ……」



 絶望する後輩ちゃん。桜先生も恐怖している。



「今回は、三日間俺が家出します。その間、俺の部屋には進入禁止とします」


「せ、せめてこの部屋には入らせてください。お願いします!」



 必死で頼み込む後輩ちゃん。いや、なんで? 自分の部屋が丸々一部屋あるよね? お隣の部屋は後輩ちゃんの部屋だよね?



「わ、私からもお願い! 私たち死んじゃう!」



 顔を真っ青にした桜先生も必死で頭を下げて頼み込んできた。だからなんで? 桜先生も自分の部屋あるよね? 真下は先生の部屋だよね? ねえなんで?



「はぁ…わかった。俺の部屋に入ってもいいから、その代わり、このベッドで寝ることは禁止な。それでいいか?」


「はい! あとは、期間を減らしていただけたらなぁっと…。せめて一日に…」


「却下します! 三日間俺なしで頑張ってください。家事はしなくていいけど、ご飯はお弁当を買ったりしてください」


「「そんなぁ~」」



 絶望する後輩ちゃんと桜先生。この世の終わりのような顔をしている。これでちょっとは罰になるかな?



「今出て行ったりしませんよね?」


「明日からのつもりだけど」


「じゃあ、今日はたくさん甘えます」



 ピトッとくっついてくる後輩ちゃん。身体がふわふわで柔らかい。少し甘い汗の香りがする。何か興奮する。



「じゃあ、お姉ちゃんも!」



 後輩ちゃんとは反対側にくっついてくる桜先生。後輩ちゃんとは違った香り。大人の色気を放ちながら抱きついてくる。



「………………好きにしろ」



 俺は二人に甘いなぁって心の底から思う。嬉しそうな二人の顔を見て、この二人と三日も会えないのかと思うと途端に後悔してきた。


 三日も家出なんてやり過ぎたかなぁ。


 俺は心の中で後悔しながら二人の抱き枕になっていた。


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