第99話 抱きつく後輩ちゃん

 

 後輩ちゃんの裸を見た事件の後、気まずい朝食を終えた俺。


 桜先生は渋々お仕事へ行き、楓と裕也は「修羅場が~修羅場が見たいよぉ~」と言いながら帰って行った。いや、正確には家から追い出した。


 修羅場なんて起こりませんから!


 三人がいなくなり、俺と後輩ちゃんだけになった部屋の中。俺たちの間に会話はない。とても気まずい。



「むぅ~~~~~~~~~!」



 可愛い唸り声を上げた後輩ちゃん。トンッと俺の背中に衝撃があった。そのまま俺の身体に腕が回され抱きしめられる。


 背中には後輩ちゃんの柔らかな胸の感触。思い出すのは後輩ちゃんの美乳。


 あっまた鼻血が……。



「こ、後輩ちゃん!? 背中に胸が……」


「むぅ~~~~~~~~~!」



 ドンドンと背中に衝撃が。後輩ちゃんが頭をぶつけているらしい。軽くだから痛くない。なんか仕草が可愛い。



「あの~? 離れるつもりはないんですか?」


 コクコクッ


「今日は掃除するぞ? いいのか?」


 コクコクッ


「その間、お胸の感触を楽しんでいてもよろしいのですか?」


 ドンッ! コクコクッ



 許可が出ちゃいました。というわけで、後輩ちゃんの胸の感触を楽しみながら、お掃除をしたいと思います。


 まずは、朝食で使った食器を洗う。いつもより二人分多かったけれど、食器洗いには慣れているからササッと終わらせる。



「むぅ~~~~~~~~~!」



 後輩ちゃんは背中に抱きついたままだ。時々スリスリと顔を擦り付けていた。


 次は洗濯物を洗いましょう。今日は天気がいいからよく乾くだろうなぁ。洗濯機のボタンをポチっと。



「むぅ~~~~~~~~~!」



 洗濯機が動いている間に部屋の掃除。昨日パーティで使ったから、念入りにお掃除。ついでに全部の部屋を掃除しちゃえ。



「むぅ~~~~~~~~~!」



 洗濯物が終わったな。ベランダに干そう。日差しが痛いなぁ。流石夏だ。熱気がムワッとする。最近日差しがおかしくない?



「むはぁ~~~~~~~~! あちゅい」



 何か可愛い声が聞こえた気がする。


 後はトイレとお風呂のお掃除もしちゃえ。ふんふふ~ん♪ ふんふふ~ん♪



「ふんふふ~ん♪ ふんふふ~ん♪」



 後輩ちゃんも鼻歌を歌っている。


 トイレとお風呂の掃除の時は流石に離れてくれた。でも、俺と顔を合わせないように外で待っている。遠くに行かないところが可愛い。


 時々、顔を半分だけ出して覗くところにキュンとする。


 トイレとお風呂の掃除が終わったら、即座に俺の背中に抱きついてきた。スリスリと擦り付け、スンスンと匂いを嗅いでいる気がする。



「後輩ちゃん? 後輩ちゃんの部屋も掃除したほうがいい?」


 ビクッ! コクコクッ



 では、後輩ちゃんの部屋の掃除をしましょう。同じように部屋を掃除して、ついでにお風呂を掃除する。トイレは………大丈夫そうだ。最近この部屋使っていないからな。


 寝室はベッドがぐちゃぐちゃ以外は大丈夫そうだ。まあ、パジャマが散らかっているけど、桜先生と後輩ちゃんの二人分だしパパっと拾っておく。


 ベッドは…………………ゴクリ。後輩ちゃんが裸で寝ていたベッドではないか! あっ、鼻血が。



「むぅ~~~~~~~~~! むぅ~~~~~~~~~! 先輩がまた想像した~~~~~~~! うぅ~~~~~~~~~! うぅ~~~~~~~~~!」



 ドンドンッと背中から抗議の頭突きが炸裂する。そして、強い衝撃が走る。



「うおっ!」



 ベッドに押し倒される。うつ伏せで倒れ込む。そして香るあまい香り。後輩ちゃんの香りだ。ってここは後輩ちゃんが寝ていたところではないか!


 まあ、背中には後輩ちゃんがくっついたままなんだけど。相変わらず柔らかい感触と温もりが心地良い。


 うぅ~~と唸っていた声が消えた。後輩ちゃんがボソッと呟く。



「先輩のえっち」


「うぐっ!」



 後輩ちゃんが背中からいなくなった。ベッドに顔を押し付けてうつ伏せになっている。何やら手が動いてきた。指でクルッと何やら合図をしてくる。



「仰向けになれってことか?」


 コクコクッ



 俺は言われた通りに仰向けになった。後輩ちゃんが髪で顔を隠したまま、モソモソと動いて俺の上に乗ってきた。俺の胸に顔を押し付けて隠す。



「…………頭撫でろ」



 後輩ちゃんはナデナデをご所望のようだ。俺は後輩ちゃんの頭を撫でる。


 リラックスしたみたいだ。脱力して俺の匂いを嗅いでいる。俺も頭を撫でることで落ち着いた。甘い香りを思いっきり吸い込む。



「なあ後輩ちゃん、ごめんな」


「………別に怒ってません。恥ずかしくて、嬉しいだけです」


「嬉しい、のか?」


「先輩が思いっきり意識してくれているので嬉しいですよ? 今も頬が緩んでニマニマしているので顔を見せられないだけです」



 なにそれ! 見たいんだけど!



「後輩ちゃん? ちょっと顔を見せてくれないかなぁ?」


「………………嫌です」


「ちょっとだけ! ほんのちょっとだけでいいから!」


「い・や!」



 あぁ…残念だ。見たかったなぁ、後輩ちゃんのニマニマ顔。


 俺が残念そうな雰囲気を醸し出していると、後輩ちゃんがため息をついた。



「はぁ………ちょっとだけですよ」



 よしっ! 作戦成功! 後輩ちゃんが顔を上げる。



「はい! ………………………………はい終了」



 いやいや。いやいやいやいや。ものすっっっっっごく無表情だったんだけど! 感情が一切ない無表情だったんですけど! ちょっと怖かったです。



「ふぅ…頑張りました」


「えっ? あの? 無表情…だったのですが」


「…………当たり前です。こんな顔見せられません……」



 恥ずかしそうに俺の胸で顔を隠して呟く後輩ちゃん。耳まで真っ赤だ。とても可愛い。


 ヤバい。鼻からじゃなくて口から血を吐きそう。鼻血じゃなくて吐血。後輩ちゃんが可愛すぎる。


 後輩ちゃんの身体をギュッと抱きしめた。



「後輩ちゃんが可愛い」


「ひゃうっ! と、突然何を言うんですかっ!?」



 あっ、後輩ちゃんが顔を上げた。顔を真っ赤にしている。顔を上げたことに気づいた後輩ちゃんが、瞳を泳がせ再び俺の胸に顔を押し付けて隠れてしまった。



「だって後輩ちゃん可愛いし、時々自分でも言ってるじゃん。『超可愛い後輩ちゃんですよ~』とか」


「うぅ~~~~~~~! うるさいです」



 顔を隠したままポコポコと叩いてくる。そして、何やら覚悟を決めた後輩ちゃんが顔を上げた。悪戯っぽくニヤリとしている。



「せんぱぁ~い♡ 先輩の超好みのおっぱいはどうでしたかぁ~? この可愛い可愛い後輩ちゃんに教えてくださいよぉ~♡」


「うぐっ!」



 感情を押し殺して揶揄ってきやがった。やるな後輩ちゃん。それに、俺がメールで返した内容を使っている。


 誤魔化すことは……できないな。本当のことを言うか。



「………………とても綺麗でした」


「そ、そうですか」



 気恥ずかしい沈黙が訪れる。後輩ちゃんは顔を隠そうとしない。チラチラと視線が合う。



「えーコホン。せんぱぁ~い♡ 私のおっぱいもっと見たいですかぁ?」



 そう言った後輩ちゃんの顔が驚愕している。自分で恥ずかしさを誤魔化すために揶揄ったのはいいが、とんでもないことを口走ってしまった、みたいな顔だ。あたふたと慌て始める。



「あの! えっと、これはその…………………忘れてください」


「おぅ」


「でも! もうちょっとだけ待ってください! いずれ気絶しないようになりますから!」


「焦らなくてゆっくりでいいぞ」


「私、頑張りますから!」



 覚悟を決めて見つめてくる後輩ちゃん。俺は可愛い後輩ちゃんの頭を撫でた。嬉しそうに、にへら~と頬を緩めている。


 うむ、蕩けきった後輩ちゃんの笑顔。とても可愛い。


 ハッと気づいた後輩ちゃんは顔を隠してしまった。



「先輩のばか、へんたい、えっち」



 でも、後輩ちゃんの声は嬉しそう。グリグリと顔を擦り付けてくる。甘い香りが漂い、優しげな温もりが伝わってくる。


 俺はそんな後輩ちゃんの頭をずっと撫で続けていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る