第84話 8月2日と後輩ちゃん
外は猛暑。遠くにモクモクと入道雲が立ち昇り、ギラギラと太陽が灼熱に輝いている。
殺人的な暑さから一刻も早く逃れるために、急いで洗濯物を取り込む。少しの時間だったのに汗をかいてしまった。
部屋の中がとても涼しい。エアコン様、ありがとう。
座って洗濯物を畳み始めたら、後輩ちゃんが近寄ってきて得意げに仁王立ちになる。
何か見覚えがある光景だ。
「先輩! 突然ですが問題です。今日は何の日でしょうか?」
昨日と同じことを聞いてきた。タイムリープしてないよね? うん、今日は8月2日だ。
「知らん!」
「むぅ! ちゃんと考えてくださいよ~!」
ハムスターのように頬を膨らませて拗ねる後輩ちゃん。とても可愛い。膨らんだ頬を潰したくなる。でも、我慢して洗濯物を畳み続ける。
「あーはいはい。考えた考えた。それで? 今日は何の日なんですかー?」
「もう! 全然考えてないじゃないですか! 楽しくないです!」
「何も思いつきませーん」
「考える気ないですね? いいでしょう! 教えてあげます!」
後輩ちゃんが腰に手を当てて平均より大きな胸をプルンと揺らす。
「今日はなんと! パンツの日なのです!」
「へぇーパンツねぇ………………って俺のパンツを脱がせるつもりか!?」
昨日のこともあり、俺の防衛本能が警戒モードに入る。ガルルルル、と後輩ちゃんを威嚇する。
昨日はおっぱいの日とか言って俺の服を脱がし、胸を触ってくすぐってきたからなぁ。
いつでも逃げ出せる準備をしていると、後輩ちゃんがキョトンとしていることに気づいた。呆気に取られて俺も警戒心が緩む。
「ふぇっ? 先輩のパンツを私が脱がせるですか……。流石に思いつかなかったんですけど。して欲しいならしますよ?」
「しなくていい! じゃあ、後輩ちゃんは一体何を考えていたんだ?」
「せ、先輩が見たいなら、見せてあげようかなぁって。ご、ご褒美です!」
そう言って、真っ赤な顔をしながらスカートを履いた後輩ちゃんは、ゆっくりと裾を掴んで持ち上げ始める。真っ白な太ももが露わになっていく。
「…………ゴクリ」
俺の視線が吸い寄せられるのは仕方がない。うん、仕方がないことなのだ。目が離せないほど綺麗で艶めかしい脚なのだ。
でも俺は理性を総動員させて後輩ちゃんの脚から目を逸らす。なぜなら、真っ赤な後輩ちゃんの口元が悪戯っぽく笑っていたからだ。本人は恥ずかしさもあるけれど、絶対に俺を揶揄ってくる笑い方だ。
これは、後輩ちゃんの自爆覚悟のハイリスクハイリターンの攻撃なのだ。後輩ちゃんの攻撃に負けるわけにはいかない!
「……せんぱい………見てくれないんですか…?」
若干悲しさを含ませた残念そうな声。思わず後輩ちゃんに視線が行きかけたけど、何とか我慢できた。手元の洗濯物を見つめる。
おっ、良いもの見つけた。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。そんなに見せつけなくても大丈夫! だってここに後輩ちゃんの下着があるから!」
俺は洗濯物の中にあった後輩ちゃんのピンク色の下着を手に取って見せつける。
後輩ちゃんは下着が見えないギリギリのところで止まっている。キョトンと固まっている後輩ちゃん。俺は美脚を記憶と心に刻みつける。
俺はピンク色の下着をパパっと畳むと、もう一つの白い下着を手に取る。
「ほら! ここにもあった!」
「それはただの布ですよ? 私が穿いている姿、見たくないですか?」
正直見たい。見たいけれど今振り向いたら絶対ニヤニヤ笑っている後輩ちゃんがいる気がする。揶揄いたい揶揄いたい揶揄いたい、というオーラが後輩ちゃんから伝わってくる。
チラッと気づかれないように後輩ちゃんを見たら、スカートの奥が少し見えた。
あれ? このスカートって下着が見えないようになってるやつじゃん! 確か、インナーパンツスカート、とか言うやつ。
どうやっても下着が見えないことに気づいたら、急速に興奮が消えて………いかない! だって艶めかしい太ももが全開だから。
「別に今日は見なくていいかなぁ」
「………………(チッ! 洗濯物を畳んでいるときにするんじゃなかった。これだと先輩への誘惑が半減じゃん)」
「………………今舌打ちしなかった?」
「んっ? してませんよ」
後輩ちゃんが綺麗な笑顔で答えてくる。舌打ちが聞こえたと思ったんだけどなぁ。一瞬だけ悪女の顔が見えた気がするんだけどなぁ。
「本当に?」
「ええ。本当です」
キラキラと見惚れるほど可愛い笑顔の後輩ちゃん。そうか。俺の気のせいだったか。ニコニコ笑顔なのに物凄い迫力があって、プレッシャーを放っているのも気のせいか。
白い下着を畳んで薄いラベンダー色の下着を畳み始める。
「おっ! これは昨日後輩ちゃんが着けていた下着だな」
「なぁっ!? 先輩覗いたんですか!? 盗撮ですか!? ストーカーですか!?」
爆発的に顔を真っ赤にさせてスカートを押えている。そうやって押さえても見えないじゃん。それにほぼ同居しているのにストーカーなんて酷いなぁ。
「昨日のワンピースはスカート丈が短かったです。俺が寝転がっていた時に、後輩ちゃんが今みたいに仁王立ちしてたらどうなるかわかるよな?」
「………………先輩のえっち」
悪戯っぽく笑って、チロッと舌を出してあっかんべーをしてくる。
「うぐっ!」
えっちですいませんね。俺よりも後輩ちゃんがえっちな気がするんですが、そこは指摘しない。まあ、積極的な後輩ちゃんも可愛いし。
そのまま後輩ちゃんは俺の背中に抱きついてきた。無言で俺を後ろから抱きしめ、顔を擦り付けてスリスリしてくる。
俺は後輩ちゃんの温もりと柔らかさと甘い香りを堪能しながら洗濯物を畳んでいく。
ゆっくり畳んで背中の後輩ちゃんを感じていたけれど、全て畳み終わってしまった。大変残念だ。
「よし終わり!」
「じゃあ、私が先輩を癒してあげますね」
色っぽい声で囁かれる。甘い香りが脳を溶かし、耳に熱い息がかかってゾクッとした。ドクンッと心臓が飛び跳ねる。
「何をして欲しいですか?」
「………膝枕をしたいです」
「そうですか。では、私の生足に…」
「いや、今日は俺が膝枕したい。後輩ちゃんが俺の膝に寝て」
「ほえっ? いいんですか? 先輩の癒しにならないと思うのですが」
「いいからいいから!」
後輩ちゃんが俺の背中から離れて、正座した俺の脚を枕にする。
良い場所を見つけた後輩ちゃんの顔がふにゃりと崩れた。とても気持ちよさそう。
「ふへ~。気持ちいいですぅ~」
「それはよかった」
後輩ちゃんの結んでいないセミロングの黒髪を優しく撫でる。サラサラして気持ちいい。ふわっと甘い香りが舞い上がってくる。
「スゥースゥー」
「あれ? 後輩ちゃん? ………寝てる」
後輩ちゃんはいつの間にか可愛らしく寝息をたてて寝ていた。
まだ膝枕をしてから1分も経っていないんだけど。本当に寝つきがいいなぁ。気持ちよさそうだからしばらく寝させてあげるか。
俺はしばらく、後輩ちゃんの無防備な可愛らしい寝顔を眺めながら、綺麗でサラサラした黒髪をナデナデしていた。
<おまけ>
お昼寝から起きてニヤニヤした後輩ちゃんが、楽しそうにじりじりと近寄ってくる。
「こ、後輩ちゃん?」
「先輩? 動かないでくださいね?」
「動きたいけど……俺は動きたいんだけどぉ!」
「うふふ。動けませんよね? 私が良いことをしてあげます♡」
「俺にとって悪いことだから! 全然良いことじゃないから! 近寄るなぁ~!」
「潔く諦めて覚悟を決めるのです! とりゃ!」
「うぎゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!」
後輩ちゃんの細い人差し指が、俺の痺れた脚を容赦なくツンツンした。
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