第80話 ラッキースケベと後輩ちゃん 二回目

 

 プルプルとした巨大なプリンが降ってくる。


 横からはふわふわのマシュマロが迫ってくる。


 プリンとマシュマロが襲ってくるのに、俺の身体は金縛りにあったかのように動かない。


 動けなくて焦る。焦って焦って焦るけれども身動きが取れない。


 そして俺はプリンとマシュマロに押しつぶされた。


 ▼▼▼



「はっ!? 夢か」



 俺は一気に目が覚めた。プリンとマシュマロに押しつぶされる夢。とても気持ちよかったけれど、身動きが取れずに苦しかった。そして、汗が出るほど熱かった。


 いや、夢じゃない。身動きが取れないのも、苦しいのも、汗をかいているのも現実のことだ。


 プリンとマシュマロ……じゃなかった、桜先生と後輩ちゃんが俺を抱き枕にして寝ている。夏だから暑い。そして、力が強すぎ。正直重い。


 本人たちに言ったら怒られそうだから言わないけど。



「ぐふっ!」



 俺の心を読んだかのように、眠っている二人が俺を叩いてきた。


 起きてないよね? 寝てるよね? うん、寝てる。なんでちょうどいいタイミングで俺を叩くんだ!?


 桜先生が姉ということになって数日。寂しがり屋の先生におねだりされて、何だかんだで一緒に寝ることになっている。


 毎日毎日俺は後輩ちゃんと先生の抱き枕だ。至福だけど暑い。そして、性的な欲求が溜まっていく。


 俺の理性も限界があるんだぞ!


 朝の生理現象がなかなか治まらなさそうなので、いつもより早い時間だけど起きることにする。


 後輩ちゃんと先生の手足を丁寧に引き剥がし、二人の寝顔を記憶に刻みつけて寝室を後にした。


 向かった先は浴室。汗をかいたのでシャワーを浴びようと思ったのだ。それに冷たいシャワーで興奮を鎮めたいという気持ちもある。


 俺がシャワー浴びている間のことは割愛する。ただシャワー浴びていただけ。他には何もしていない。本当に何もしていない。


 何度も否定すると、逆に何かしていたかのように聞こえるのは何故だろう?


 俺はタオルで身体の水気を拭きとりながら浴室を出た。


 それと同時に、洗面台がある脱衣所の扉が開く。


 入ってきたのは桜先生と仲良く手を繋いだ後輩ちゃん。二人は眠そうに目を擦りながら、半分夢の世界にいる。


 そして、突然のことで固まっている全裸の俺と目が合った。後輩ちゃんと桜先生の半開きの目がカッと見開かれる。



「きゃぁぁぁああああああああああああああああ!」


「ひゃっ!」


「ぎゃぁぁああああああああああああああああああ……………ちっ! 可愛い悲鳴を上げることができませんでした。なんで先輩は『きゃあ!』という女の子みたいな可愛い悲鳴が咄嗟に出るのでしょう? 流石ヒロインポジションの先輩ですね」



 俺を桜先生は驚きで固まっているけれど、後輩ちゃんは一人で何やらブツブツと呟いている。二人とも完全に目が覚めたようだ。



「後輩ちゃん? 姉さん?」


「先輩おはようございます! 良い朝ですね! 朝からラッキースケベがあるなんて思っていませんでしたよ! ラッキースケベは女の子が裸でお風呂から上がってくるのが普通ですけど、流石ヒロインポジションの先輩です。良い身体をしています。最近はヒロインっぽいことしていませんでしたが、ナイスヒロインですよ、先輩!」


「俺はヒロインじゃない! ………………って見るな!」



 後輩ちゃんと桜先生が俺の裸のとある一点をじっと見つめている。


 瞬きすらしない。隠そうともしていない。清々しいほどのガン見である。


 驚きで固まっていた俺はやっと今隠すことができた。



「えぇー! 何度も先輩の裸見たじゃないですか! 今更隠しても遅いですよ」


「わ、私も一度プールの時に見たことあるから気にしないわ。保健の授業の実技よ」


「俺が気にするから! 今から着替えるから……」



 俺の言葉の途中で、開けっ放しだった脱衣所のドアがバタンと閉まる音がした。桜先生が閉めたのだ。



「さあ閉めたわよ。着替えてちょうだい弟くん」


 脱衣所の中●●●●●にいる桜先生が顔を真っ赤にさせ、目をキラキラさせながらガン見している。隣の後輩ちゃんもコクコクと頷いている。



「扉を閉めるんじゃなくて二人が出ていけ!」


「「えぇー! ブーブー!」」


「仲良くブーイングするな!」



 二人は脱衣所から出て行く気は全くないらしい。むしろ、手をワキワキと動かしながらじりじりと近寄ってくる。



「ぐへへ……先輩の身体っていつ見てもかっこいいですよね」


「デュフフフ……弟くんがマッチョ。筋肉がすごい」


「カッチカチのプリップリだよ、お姉ちゃん」


「そう。弟くんはカッチカチのプリップリなのね。男の人の身体ってやっぱりがっちりしてるわね」


「ふ、二人とも近づかないで! 手を動かして近づいてこないで! 怖い! 目が怖いから! 肉食獣みたいな目になってるからぁ!」



 後輩ちゃんと桜先生の雰囲気が怖い。目はギラギラ輝き、今にも涎が垂れそう。


 あっ、妖艶に唇を舐めてる。大人っぽくてエロい。今は見たくなかった。今興奮したら二人に丸わかりだから。


 俺の身体よ、反応するな! 反応したらダメだからな! ………………って考えると反応してしまう俺の身体。俺の馬鹿!



「きゃあ♪ よしっ! 今度は可愛い悲鳴を上げることができました。ふふふ。先輩。大人しくしましょう?」


「………おぉ! 大丈夫よ弟くん。これは体育教師としての学術的な知的好奇心だから!」


「天井のシミを数えている間に終わりますから」


「そうよ弟くん。弟くんは何もしなくていいの。お姉ちゃんと妹ちゃんが頑張るから!」


「頑張らなくていい! ふ、二人とも来ないで! 近づかないでぇえええええええええええ!」



 俺は咄嗟に浴室へ逃げた。必死でドアを押さえる。



「ちょっと先輩! 逃げないでください!」


「そうよ弟くん! お姉ちゃんのお勉強を手伝って!」



 二人がドンドン叩いてドアを開けようとする。二対一はちょっとキツイ。


 あっ、開きそう。俺は必死に抵抗する。



「絶対嫌だぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」



 俺の叫び声が浴室に響き渡った。



 その後、どうなったのか俺は述べない。ご想像にお任せする。


 朝食を作る時間が遅くなったとだけ言っておこう。………ぐすん。


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