第72話 白状する後輩ちゃん

 

 二度見されること数えきれず。

 胸を撃ち抜かれて倒れ込む人数えきれず。

 周りから『何事!?』と驚かれること数えきれず。

『リア充爆発しろ!』と冷たく睨まれること数えきれず。

『死ね!』と呟かれること数えきれず。

『仲いいわねぇ』とおば様方から温かく見つめられること片手で数えきれるほど。


 全ての原因は俺の腕に抱きついている後輩ちゃんだ。顔は幸せそうに蕩けて、口から笑い声が漏れ出している。


「イヒヒヒヒ!」


 もう少し可愛らしく笑って欲しい。そして、顔をもう少しどうにかしてほしい。ポワポワと幸せオーラをまき散らし、学校に来るまでに、男女問わず、年齢問わず、あらゆる人を虜にして、ズキューンと胸を撃ち抜いた。後輩ちゃんは罪な女だ。


「ウヒヒヒヒ!」


 学校の敷地内に入って、笑顔で男子生徒を全て打ち倒した後輩ちゃん。漏れ出る笑い声が抑えられない。

 靴を履き替えるときしか俺の腕を離してくれない。まあ、胸の感触が気持ちいいし、甘い香りがするからこのままでいいけど。でも、ちょっと恥ずかしい。


「後輩ちゃん後輩ちゃん。もうそろそろ教室だけど、少しくらいはその幸せオーラを引っ込めてくれませんか?」


「え? 何のことですかぁ? キヒヒヒヒ!」


「せめて笑い声を何とかしてくれ」


「はーい! ケヘヘヘヘ!」


 うん、ダメだ。笑い声が止まらない。もう諦めよう。絶対にクラスの女子から尋問を受けるなぁ。全て後輩ちゃんに任せるか。

 男子生徒がパタパタと倒れる音を聞きながら、俺と後輩ちゃんは教室へ向かう。

 教室のドアをくぐった瞬間、男子たちが一瞬で目をハートにして、胸を押さえながら倒れ込んだ。幸せそうにピクピク痙攣している。いつも見慣れているウチのクラスの男子でさえこれだ。他の男性が耐えられるはずがない。

 クラスの女子たちは…お喋りを止めて目を見開き硬直している。

 その間に俺たちは席に着く。


「クフフフフフ!」


 後輩ちゃんの奇妙な笑い声で女子たちの硬直が解かれた。男子たちを踏みつけながら勢いよく俺たちの周囲を囲む。


「女子しゅーごー!」


「なになに!? なにその緩みきっただらしない顔は!」


「昨日帰ってから何があった!? お姉さんたちに詳しく聞かせなさい!」


「フヒヒ! だめー! 教えてあーげなーい!」


 嬉しそうに拒否する後輩ちゃん。緩みきった顔を隠そうともしない。奇妙な笑い声が止まらない。

 目を輝かせた女子たちが、後輩ちゃんから一斉に俺へと対象を変える。獲物を狙う肉食獣のような迫力がある。


「「「「「颯 (くん)!?」」」」」


「ノーコメント!」


 ふぅ。何とか拒否することができた。すごい迫力。冷や汗が止まらない。一瞬でも気を緩めたら素直に白状してしまいそうだ。

 女子たちが何やらコソコソと作戦会議を始める。そして、女子の一人が代表で口を開いた。


「颯くんとエッチした」


「………」


「颯くんに告白された」


「………」


「キスした」


「エヘヘヘヘ」


 夢見心地で遠くを見上げ、今まで以上に顔が蕩ける後輩ちゃん。無意識なのか手で唇を触っている。とても幸せそうだ。そして、キスのことを思い出したのか恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて、いやんいやん、と身体をくねくねさせている。

 女子たちにバレてしまった。きゃー、と大歓声が響き渡った。女子たちは大騒ぎ。顔を真っ赤にさせながら目をキラキラさせている。

 俺はどさくさに紛れて席を立って逃げようとしたけれど、肩をがっちり掴まれて捕まった。勘のいい女子たちだ。俺は逃げ道を失った。


「葉月ちゃん! キスのご感想は?」


「幸せでしたぁ」


「きゃー! どうだったどうだった!? ファーストキッスの感想は!? 柔らかかった? 柔らかかったよね? 柔らかかったでしょ! ねえねえ! 味は!? 味はどうだった!? 甘かった? どうだったどうだった!? キスは一回だけだったの? それとも何回も? 優しく触れるだけ? それともじっくりねっとりとブチューッと? キスしながら抱きしめたの? キスしたときの状況を心情を交えながら具体的に詳細に明確に詳しく原稿用紙5枚以上で述べよ!」


 んっ? どこかで聞いたことがあるセリフだな。流行っているのか?

 夢見心地の後輩ちゃんは素直に感想を述べる。


「もう身も心もトロットロに蕩けました」


 再び巻き起こる黄色い歓声。甲高い声で耳が痛くなりそうだ。


「なになに!? エッチはしてないんだよね?」


「してないよ。キスだけ。でも凄かった。触れるだけだったのに、凄かった! 幸せすぎて死にそう」


 うん、それはわかる。俺も死にそうだった。キスってすごいな。


「では次は颯くん! 感想をどうぞ!」


「ノーコメント!」


 巻き起こるブーイングの嵐。本当にみんな仲が良いな。いつもなら混ざってブーイングする後輩ちゃんは、幸せそうにボーっとしている。唇を触る仕草が大人っぽくて色っぽくて艶めかしい。ドキッとしてしまった。


「あぁー! 葉月に見惚れてるー! ヒューヒュー!」


「ああもう! 俺を揶揄うな!」


「颯が怒ったぞ! さては恥ずかしいんだな?」


 そうですよ! 恥ずかしいですよ! もう勘弁してくれ! 俺を一人にさせてくれ!


「あぁ…先輩がかっこよかったです…!」


 周りを気にせずボソッと呟いた後輩ちゃん。後輩ちゃんは一人甘い思い出の世界に羽ばたいている。女子たちがシーンと静まり返って後輩ちゃんの言葉を待っている。


「ご褒美と称して不意打ちでキスしてきた先輩。咄嗟のことで混乱したけれど、一回では物足りなくて思わず煽っておねだりをしたら、本気の先輩がまたキスしてくれました」


「後輩ちゃん!? もごもご!」


 後輩ちゃんを止めようとしたら女子たちが俺を押さえて口を塞ぐ。って誰だ指を口に入れてきたのは!? って服の中に手を入れようとするな!


「何度も何度も何度も何度も何度もキスしてくれて幸せでしたぁ。もう柔らかくて、気持ちよくて、かっこよくて、いい香りがして、かっこよくて、頭の中が真っ白になって、幸せで、かっこよかったぁ。今日の行ってきますのキスも唇だったし、私、幸せすぎて死にそう…」


「………………あんたら、行ってきますのキス、してんの?」


「……じゃあ、ただいまのキスも?」


 うわー! 何を白状したんだ後輩ちゃんは! 言っちゃダメだろそれは! 後輩ちゃん止まって! お願いだから止まって! 周りの女子の視線がすごいことになってるから!

 しかし、後輩ちゃんは止まらない。雨の日に相合傘で帰っていることや、一緒にベッドで寝ていること、この間のクッキーゲームのことなど、今まであった出来事をほとんど話してしまった。あんなことやこんなことを言わなかったのはありがたい。でも、俺は恥ずかしくて死にそうだ。

 ニヤニヤと笑うクラスの女子たち。止まらない後輩ちゃんの話。

 ああもう! 殺せ! 誰か俺を殺してくれ~!




 結局、今日は一日中後輩ちゃんの暴露話が止まらなかった。

 くっころ!

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