第65話 ラッキースケベと後輩ちゃん

 

 クラスマッチは順調に進んでいる。お昼休みが終わった午後。俺のクラスは男女ともに決勝戦に残ることができた。全ての試合が圧倒的勝利。まさかここまで強いとは思わなかった。絶対ご褒美に釣られているな。まあ、楽しいからいいけど。

 俺は体育館のステージ上に座って現在行われている3位決定戦を眺めている。俺の右隣には後輩ちゃん、左隣には桜先生が座っている。俺の左右でお喋りをしているのだ。

 会話がしにくいかなと思って移動しようとしたら、後輩ちゃんに睨まれたので、現在小さくなって大人しくしております。


「美緒ちゃん先生疲れてませんか?」


「あはは。バレちゃった? 期末テストで保健のテストもあったでしょ? 採点に時間がかかっちゃってね。それにこのクラスマッチ。体育の先生たちは最近忙しいの」


「美緒ちゃん先生も大変ですねぇ。それで今週は家に来ないんですね?」


「帰りが9時過ぎてるからね。流石にお邪魔できません!」


 俺を挟んで会話する後輩ちゃんと桜先生の話に割り込んだ。


「桜先生、別に気にする必要ありませんよ。遅くても俺たちの家に来てください」


「えっ…でも…」


 桜先生の顔に『行きたいけど、夜が遅いと迷惑がかかるから』と書かれている。別に気にしなくていいのに。

 実を言うと、食事を桜先生の分まで作っているので余ってしまうのだ。先生も忙しいらしく、連絡が来たときには作り終わっている。食費も貰っているし、食べに来てくれた方がありがたい。


「いつも作って待ってるので、温かいものを食べてください。それに、一人だと寂しいでしょう?」


「先輩…」


「宅島君…」


 後輩ちゃんと桜先生がキラキラした瞳で俺を見つめてくる。うわぁ…とても恥ずかしい。美女と美少女に挟まれて、キラキラしたまなざしで見られるのは嬉しいけど、滅茶苦茶恥ずかしい。よし、誤魔化すか。


「というのは建前で、本音は余り物を食べて欲しいだけですけどね。もったいないので」


「ちょっと! 本音の部分はいらないでしょ! お姉さんドキッとしてキュンってしたのに! 全部台無しよ!」


 涙目で抗議する桜先生。本当に残念そうな表情だ。その桜先生に後輩ちゃんが余計なことを言う。


「美緒ちゃん先生。先輩は恥ずかしくて誤魔化しただけですよ。照れ隠しです。本音と建前が逆です逆!」


「後輩ちゃん! 余計なことを言わないで!」


 ニヤニヤとする後輩ちゃん。後輩ちゃんは俺のことなんかお見通しだからバレてはいると思ったけど、まさか暴露して揶揄うとは…………いや、後輩ちゃんなら嬉々として揶揄ってくるな。俺の認識不足だった。


「へぇー。照れ隠しなのか。可愛いところもあるんだねぇ」


 ニヤニヤする桜先生。おもしろいおもちゃを見つけた子供みたいな瞳だ。


「そうなんです! 先輩って普段はかっこいいんですけど、とっても可愛いところもあってキュンキュンするんです! たまに母性本能がくすぐられますよ」


「なにそれ! 見たい!」


 俺の左右で美女と美少女が盛り上がっている。出来れば俺がいないところで話して欲しいな。滅茶苦茶恥ずかしいから。そして二人に言いたい。俺は可愛くない!

 桜先生と後輩ちゃんの盛り上がるお喋りをボーっと聞きながら、目の前で行われているドッチボールの試合を見る。一進一退の攻防。熱気に包まれている。

 外野のハンドボール部が横からボールを勢い良く投げた。力みすぎたフォームから投げられたボールは猛スピードで違う方向に飛んでいく。ボールの先にいるのは後輩ちゃんだ!


 全てがスローモーションになった。


 後輩ちゃんは桜先生とのお喋りに夢中で横を向いておりボールに気づいていない。

 俺は油断して座っていたため、身体が思うように動かない。前に出て庇うこともできないし、後輩ちゃんを押し倒すのも間に合わない。押し倒しても後輩ちゃんが怪我をしそう。

 ボールの軌道を変えることに決めた。


「山田さん!」


 ボールに気づいた桜先生の叫び声が聞こえた気がした。後輩ちゃんが振り向く気配がする。

 俺は半身だけ後輩ちゃんの前に出て庇う。

 空気を斬り裂きながら迫ってきたボールに右手の手のひらをぶつける。軽く掌底するような感じで、受け止めるのではなく斜め上に軌道を逸らす。軌道を変えられたボールは、後輩ちゃんにぶつかることなく斜め上に飛んでいった。幸い誰にもぶつからなかったらしい。

 俺は安心してホッと息を吐いた。スローの世界から現実の世界に戻る。

 しかし、油断したところに横から柔らかい衝撃がぶつかってきた。


「うわっ!?」


 何が起こったのかわからない。気が付いたら俺は倒れていた。そして、柔らかいものに包まれ、甘い香りが鼻を満たす。特に顔と左右の手が心地よい弾力に包まれている。


「ほえっ?」


「へっ?」


「えっ?」


 三人の戸惑った声が聞こえた。最後の「えっ?」は俺だ。最初の二人は女性の声で、俺の下と左から聞こえてきた。

 嫌な予感がして恐る恐る顔を上げる。戸惑った後輩ちゃんと視線が合った。目の前には平均より大きな後輩ちゃんのお胸。右手は反対の胸を包み込んでいる。


「おぉ! これが所謂ラッキースケベなんですね!?」


「えっ?」


 いち早く状況を理解した後輩ちゃんが顔を輝かせている。しかし、俺は混乱して後輩ちゃんの言うことが理解できない。思わず手に力が入る。


「ひゃんっ♡」


「あんっ♡」


 最後の声は後輩ちゃんだった。だとすると、最初の声は誰なのだろう?

 ギギギッと錆びついた歯車のように首を動かすと、左手で巨乳を揉みしだいていた。この巨乳の持ち主は当然桜先生。先生も何が起こったのかわかっていないらしい。パチクリと瞬く瞳と視線が合った。


「ふむふむ。私を庇ってくれた先輩に、同じく庇おうとした美緒ちゃん先生がぶつかり、先輩が私を押し倒したんですね。で、先輩の顔が私のおっぱいに突っ込み、右手で反対のおっぱいを揉みつつ、左手は美緒ちゃん先生の巨乳を揉みしだいている。こういう状況なんですね?」


「お、おぅ」


「な、なるほど?」


 冷静にこの状況を説明する後輩ちゃんの言葉を聞いて納得はしたけど、俺も桜先生も絶賛混乱中。どうしたらいいのかわからない。それに、両手に心地よい感触がしていて、手を離したくても離れない。


「先輩! 初めてのラッキースケベですね! これが突発性ハレンチ症候群というやつなのでしょうか? 先輩はそんなに性欲リビドーを持て余しているんですか? ふむ! 私、もっと頑張りますね!」


 嬉しそうに宣言する後輩ちゃん。ラッキースケベされて嬉しいのか?


「頑張らなくていい! って、後輩ちゃん桜先生ごめんなさい!」


 馬鹿なことを言う後輩ちゃんのおかげで何とか正気に戻った。俺は慌てて二人の胸から手を離し、後輩ちゃんの上から退いた。後輩ちゃんはちょっと残念そう。そして、桜先生はまだ混乱中。


「本当にごめんなさい」


 俺は後輩ちゃんと桜先生に土下座する。二人の胸を触ってしまったのだ。平手打ちも覚悟している。


「謝らなくていいですよ。むしろ助けてくださってありがとうございました。ラッキースケベに関しては助けてくれた先輩へのご褒美です。美緒ちゃん先生もありがとうございました」


「えっ!? あっ…はい。怪我はなかった?」


「大丈夫です」


「先生ごめんなさい!」


「あ、頭を上げて! 私のほうこそ押し倒してごめんなさい! その、気にしてないから!」


 頭を上げると顔を真っ赤にしてアタフタと慌てる桜先生がいた。俺とは目を合わせようとしない。そりゃそうだろうな。俺に胸を揉まれたんだから。


「あの? 後輩ちゃん? 桜先生? 俺を叩かないんですか?」


「叩く?」


「なんで先輩を叩かないといけないんですか? お互いにご褒美だったのに。あっ! おっぱいを触ったから申し訳ないって思っています? 私は気にしませんよ。先生も……気にしてなさそうですね。そんなに罰を望むのなら周りを見てくださいな。その視線が先輩への罰ですね」


 俺は周りを見てみた。おぉ…視線がすごい。特に男子から。今まで以上に殺されそうだ。悔しそうに唇を噛みしてめている。今にも血が出そう。女子も多くは”最低”っていう目つきだけど、ウチのクラスの女子は全く蔑んだ目はしていない。むしろこれは…羨望? うん、見なかったことにしよう。


「先輩? 理解しました?」


 後輩ちゃんがニヤニヤと笑っている。とても楽しそうで嬉しそうだ。


「大変理解しました」


「えっ? えっ? 私が宅島君を押しちゃったせいなのに!」


 俺に視線が突き刺さっていることに気づいた桜先生がとても申し訳なさそうにアタフタしている。小動物みたいでちょっと癒された。


「まあまあ、先輩はこの視線に慣れていますからね。美緒ちゃん先生は気にしなくていいですよ」


「原因は後輩ちゃんの気がするんだが?」


「なんのことでしょうかー?」


 後輩ちゃんが悪戯っぽく笑って俺の腕に抱きついてくる。腕に後輩ちゃんの胸の感触が伝わってくる。気持ちいいけど、男子たちから殺意のオーラが漏れだしてるから止めてくれない? ………止めないんですね、わかりました。


「二人とも仲いいね」


「えへへ。美緒ちゃん先生にも渡しませんからね!」


 宣戦布告する後輩ちゃん。俺の腕をギュッと抱きしめる。更に伝わる至福の柔らかさ。

 後輩ちゃん? 流石に人目が多いので止めて欲しいのですが………はい、わかりました。止めないんですね。

 桜先生は羨ましそうに見つめてくるが、何も言わなかった。

 そして再びお喋りタイムになる。今度は後輩ちゃんを真ん中だった。まったりとした時間が過ぎる。

 しばらくして、桜先生が用事で立ち去った後、後輩ちゃんが小さく囁きかけてきた。


「先輩? 家に帰ったらもっとおっぱい触りますか?」


 可愛い子悪魔の後輩ちゃんの甘い誘惑。腕に絶え間なく伝わってくる柔らかな感触。そして、思い出す至福の揉み心地。

 俺がなんて答えたのかはご想像にお任せする。俺と後輩ちゃんの秘密だ。

 今回起きたラッキースケベで男子全員と一部の女子に嫌われてしまったが、俺も男だ。心の中で大声で叫ぶ。

 後輩ちゃん! 桜先生! 最高でした! ありがとう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます