第55話 クラスの女子会と後輩ちゃん 中編

 

 何故か俺も参加している女子会が盛り上がっている。歌を歌ったり、写真を撮ったり大盛り上がり。俺は女子に囲まれてとても気まずい。幸い、隣に後輩ちゃんがいるから気は楽だ。

 司会役の女子がマイクに向かって叫ぶ。


「さて淑女諸君! 今から質問コーナーに移りたいと思います! 質問されたら正直に答えること! 回答者は答えたくなかったらノーコメントって言ってね! では、最初の質問は私から! 葉月と颯! ぶっちゃけあんたらどこまでやってんの?」


 女子全員が俺と後輩ちゃんにキラキラとした瞳で見つめてくる。みんな興味津々だ。身を乗り出して俺たちの答えを待っている。

 うわー、答えたくない。絶対に答えたくない。

 俺は答えようとした後輩ちゃんの口を手でふさぐと、はっきりと答えた。


「ノーコメント!」


 盛大なブーイングが巻き起こる。全員不満げだ。桜先生まで不満そうにブーイングしている。

 ちょっと物を投げるな! これ誰の上着だ! ハンカチを投げるな!

 俺は大量のハンカチをぶつけられた。幸い、硬いものは投げられなかったから怪我はしなかった。みんな自分のハンカチを拾って席に着く。そこは大変行儀がいい。


「ぷはっ! ちょっと先輩! いつまで私の口を塞いでいるんですか!」


「おっと後輩ちゃん忘れてた。すまんすまん」


「むぅ~! ここへ来てから私の扱いが酷いです! 改善を要求します!」


 そう言って後輩ちゃんは俺の脚の上に座ってきた。後輩ちゃんの柔らかなお尻の感触が伝わってくる。俺の手も掴まれて、後輩ちゃんのお腹に回される。ふぅ~、と後輩ちゃんは安心して息を吐いた。女子たちの視線が集まっている。


「葉月…あんたらいつも家ではそんな感じ?」


「そうだけど」


「羨ましい! リア充爆発しろ!」


 女子たちが悔し涙を流し始める。後輩ちゃんが得意げだ。だからお仕置きをする。後輩ちゃんの弱点をくすぐった。小さく悲鳴を上げて後輩ちゃんは大人しくなった。

 ただ一人、訳が分かっていない桜先生がおずおずと手をあげて質問をした。


「あの~、家でってどういうことなの?」


「あぁ! 美緒ちゃん先生は知りませんでしたね。この二人、今一人暮らしなんですけど、アパートの部屋が隣同士だそうなんです。颯が風邪をひいたときは葉月が看病したみたいですよ。学校を欠席して」


「えぇっ!?」


 桜先生が目を見開いて、視線が俺と後輩ちゃんの間を交互に行ったり来たりする。そしてもう一度「えぇっ!」と驚いている。いいなぁ、とボソッと聞こえたのは気のせいだろうか? うん、気のせいに違いない。


「じゃ、じゃあ、宅島君の家に山田さんがお邪魔して、お掃除したり料理作ったりしてるの? 漫画や小説みたいに?」


「あ、逆です逆。俺が掃除や洗濯、料理買い物をしています。後輩ちゃんは家事能力皆無なので。後輩ちゃんに任せていたら部屋が汚部屋になりますよ。いや、あれは魔界ですね。人が住めるところではありません」


 何故か胸を張ってドヤ顔をしている後輩ちゃんの弱点をくすぐって大人しくさせる。後輩ちゃんの料理の腕を最近知ったクラスの女子たちは、あぁ~、と納得している。桜先生が大きな目をパチクリとさせた。


「下着はどうするの?」


「全部先輩に任せています! いつも綺麗に畳んでくれますよ」


「山田さんは何もしないの?」


「私は先輩を癒すという大事な仕事があるのです!」


 クラスの女子全員が、チッ、と舌打ちをした。いつもは真面目な女子や大人しい女子まで全員が悔しそうに舌打ちをした。女子って怖い。


「山田さんは掃除洗濯料理とか家事能力皆無なのね?」


「はい! 掃除をすれば逆に汚れますし、洗濯したら部屋中が泡だらけになります。料理なんてカラフルな何かが出来上がるだけです!」


「ここにも仲間がいた!」


 桜先生が立ち上がって、同志を見つめるような瞳で後輩ちゃんを見つめている。後輩ちゃんも俺の脚の上から立ち上がり、桜先生に近づいて、二人で固い握手をする。ここに同志がいたのか、という雰囲気を二人から感じる。俺を含め全員がポカーンとする。

 マイクを持った女子がハッと我に返った。マイクを使って桜先生に問いかける。


「美緒ちゃん先生? もしかして、美緒ちゃん先生も家事ができないとか?」


「あはは…情けないことに何もできないの。ご飯はいつもコンビニ弁当、部屋の中はぐちゃぐちゃ、洗濯はコインランドリー。何にもできないせいで今まで彼氏もできたことないの! もう三十歳になっちゃった。キスもまだなのに…」


 桜先生がどよ~んと落ち込んでいる。後輩ちゃんや周りの女子が必死で慰めている。

 暗い瞳の桜先生が絞り出すように女子に伝える。


「……みんな…私のようになっちゃダメよ」


 女子たちは年上の女性からの重みのこもった言葉に頷いて、心に深く刻みつける。

 気まずい。めちゃくちゃ気まずい。これは俺が聞いてはいけない話だ。桜先生が、あの男女ともに超絶な人気を誇る大人で美人の桜先生が後輩ちゃんと同じ家事能力皆無だったとは。イケナイことを聞いてしまった。

 桜先生と視線が合ってしまった。先生の瞳にじわじわと涙が溢れてくる。


「あぁ……宅島君がいたんだった……私もう消えたい……儚く消え去りたい……」


「先輩! なんでここにいるんですか! 女子会なのに!」


「後輩ちゃんが無理やり連れてきたんだろうが! 桜先生? 俺は何も聞いていませんからね?」


 後輩ちゃんがプンプン怒って理不尽なことを言ってくる。何故か女性が俺を非難の目で見つめてくる。なんで!? 俺が悪いことしたのか!?


「美緒ちゃん先生を泣かせた先輩には罰を与えます!」


「だからなんで!?」


「先生のお家を綺麗にしてください! 同志として放ってはおけません!」


 そーだそーだ、と女子から同意の声が上がる。


「勝手に決めたらダメだろ! 先生の意見は…」


「許可します! むしろ定期的に綺麗にしてください! お願いします!」


「まさかの土下座!?」


 三十歳の大人の桜先生が綺麗な土下座している。先生の部屋はそれほどのことなのか!? 後輩ちゃんも懇願してくる。俺はため息をついた。


「はぁ…わかりましたよ。やるからには徹底的にしますからね」


「お願いします!」


「後で住所教えてください。連絡先は…後輩ちゃんにお願いします。俺が聞くといろいろ問題になりそうなので」


 桜先生と後輩ちゃんが嬉しそうに連絡先を交換し始める。それをきっかけに、女子たちが桜先生の連絡先をねだって大規模な交換会が勃発した。

 俺はコップのお茶を飲んでゆっくりと見守る。俺は空気になる。空気になるんだ!

 交換会が終わったら、後輩ちゃんが俺の隣りに戻ってきた。


「後輩ちゃん…」


「あー、なんかすいません。同志として美緒ちゃん先生のことを放っておけなくて」


「後輩ちゃんのお願いだから聞いたんだぞ。今度俺のお願いも聞いてもらうからな」


「はいっ!」


 相変わらず後輩ちゃんのお願いに弱いな、俺。後輩ちゃんが嬉しそうだからまあいっか。


「山田さん! 忘れないうちに住所送っといたよ」


「はーい! どれどれ~………あれっ? この住所……」


 後輩ちゃんがスマホに送られた住所を見て首をかしげている。そして、俺の腕を叩いてきた。


「先輩先輩! この住所を見てください!」


「んっ? 住所がどうかしたのか? ………………はぁっ!?」


 俺は住所を見て驚きの声を上げた。この住所は…………この住所は……。


「二人ともどうしたの? 私、四月に新しいアパートに引っ越ししたんだけど、何かおかしかった?」


 俺と後輩ちゃんは桜先生をじーっと見つめた。


「美緒ちゃん先生……先生のお部屋は私たちの…いえ、先輩のお部屋の真下なんです。美緒ちゃん先生は103号室。私が202号室で先輩が203号室。私や先輩と同じアパートですよ、ここ」


「えっ?」


 そう。桜先生が住んでいる住所は俺と後輩ちゃんが住んでいるアパートのものだった。桜先生が真下に住んでいるなんて今まで知らなかった。後輩ちゃんも知らなかったらしい。桜先生もびっくりして固まっている。

 こんな偶然ってあるのかっ!?

 (あるんです! by作者)

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