第54話 クラスの女子会と後輩ちゃん 前編

 

「それでは、第一回女子会を開催したいと思います! みんな拍手!」


 パチパチパチと大きな拍手が沸き起こるカラオケの一室。大部屋にクラスの女子が全員そろっている。みんな楽しそうに盛り上がっている。見慣れない私服姿の女子たち。部屋の中が女性特有の甘い香りが漂っている。


「えーっと、今日は特別ゲストをお呼びしております! 桜美緒ちゃん先生です!」


「こんにちは~! 休日なのに拉致されてきました桜美緒です! みんないいの? 私、三十歳のおばさんだよ?」


「大丈夫です! 美緒ちゃん先生はおばさんではありませんから! お姉さんです!」


 そうだそうだ、と女子全員が頷いている。桜先生はとても嬉しそうだ。

 司会役の女子がマイクに向かって叫ぶ。


「それでは今日は飲んで食べて歌って喋って脱いで羽目を外して赤裸々トークをぶっちゃけましょう! 淑女の皆! 盛り上がろうぜっ!」


 わーっと歓声が上がり、女子会がスタートした。いや、脱いで羽目を外したらダメだと思うんだけど。そう思ったが、誰も気にしていない。みんな思い思いのことをし始める。

 本当に脱ぎ始める人がいた。幸い、暑くなったようで上着を脱いだだけだったけど、下着が見えている。出来るだけ視界に入れないようにする。


「先輩! 歌でも歌いますか?」


 隣に座る後輩ちゃんが曲を確認しながら楽しそうに問いかけてくる。


「俺、音痴だから」


「やっぱりそうなんですか? 楓ちゃんに聞いたときは嘘だと思いましたが」


「なになに? 颯って音痴なの?」


「へぇーそれはそれで聞いてみたいなぁ」


「おっ! 美緒ちゃん先生も興味ありますか? さあ颯! 歌え!」


「絶対に歌わないからな!」


 俺は声を荒げて拒否する。俺は絶対に歌わない。絶対に歌わないぞ!

 俺は立ち上がって、ずっと言いたかったことを叫ぶ。


「どうして女子会に俺がいるんだ! おかしいだろ! 男一人って気まずすぎる!」


 女子が全員俺に視線を向ける。何を今さら、という表情だ。


「だって葉月ちゃんが颯くんが一緒じゃないと外に出たくないって言うから。なら颯くんも一緒に呼んじゃえって、みんなが」


「ちょっと待て! 提案したのはあんただ!」


「おっとバレちゃった♪ ナイスアイデアを出した私にみんな拍手!」


 女子全員が大きな拍手をする。よくやったって言う声があちらこちらから聞こえてくるんだけど! なんで誰も拒否しないんだ!? おかしいだろ! って桜先生もしれっと拍手してるし。


「先輩、みんな歓迎してますから楽しみましょう! ハーレムですよハーレム! 男の夢ですよ! 私に刺されないように気を付けてくださいね!」


「………後輩ちゃんはそれでいいのか? ………後輩ちゃんが楽しそうだから今回は諦めるけど。みんないいか!? 俺がいるのを忘れるなよ! 羽目を外して脱いだりするなよ! あと、赤裸々ぶっちゃけトークも俺は聞きたくない!」


「「「えーっ! ブーブー!」」」


「ブーイングするなよ」


 俺はガックリと項垂れる。女子ってみんなこうなのか? 俺の幻想が砕け散っていく。何気に桜先生も楽しそうにブーイングしている。それでいいのか先生?


「生々しいえっろい話をするよ? 聞きたくないの?」


「聞きたくない!」


「私の下着見えてるよ? スカートも短いし、覗く?」


「覗かない!」


「頭を撫でて! お兄ちゃん!」


「誰だお兄ちゃんって言った人! まだ誰か特定できていないんだけど!」


「先輩の頭なでなでは癖になるくらい気持ちいいですよね……あっ」


 後輩ちゃんがボソッと呟いたのに女性全員が聞こえていたみたい。全員の目がギラリと光る。俺の背中がゾクッとした。肉食動物たちに狙われている気がする。

 後輩ちゃんが立ち上がった。よかった。助けてくれるらしい。


「みんな! 先輩の頭なでなで10秒で200円! どうする?」


 全く助けてくれなかった。女子たちが歓声を上げる。「200円!? 安!」「あたし1分!」「私は有り金全部!」「えっ? いくら?」「えーっと、5万くらい?」「ズルい!」という会話が聞こえてくる。女子って怖い。桜先生……諭吉さんを出さないでください。あなた先生でしょ!


「よかったですね、先輩。大儲けですよ」


 悪い顔している後輩ちゃんの頭にチョップを落とし、大盛り上がりでお金を準備し始めている女子たちに向かって叫ぶ。


「みんな! 頭を撫でるのはいいけど、お金はいらん! それと15秒間だけな! それも一回だけ!」


 こうでもしないと暴動が起こりそうだ。案の定ブーイングが起こる。


「「「えー!」」」


「俺はしなくてもいいけど」


「じゃあじゃあ! また今度撫でてくれる?」


「機会があったらな! あっ、後輩ちゃん。一週間、頭なでなで禁止な」


「なぁっ!?」


 顔を真っ青にして絶望する後輩ちゃん。この状況を作り出したんだ。当然の罰だぞ。「せめて三日! いえ、一日だけにしてください!」という後輩ちゃんの懇願は無視する。


「じゃあ、一列に並んでくれ」


 サッと列を作る女子たち。大変行儀がいい。隣で縋ってくる後輩ちゃんを無視しながら、女子たちの頭を撫で始める。彼女たちの髪は一人一人違って撫で心地はいいし、あまい香りはするし、ちょっと楽しかったのは秘密である。桜先生まで並んでいたのは驚いた。いいのか? 先生でしょ?

 女子全員の頭を撫でたけど、正直言って大変だった。次の機会は来なくていいかなぁ。

 こうして、俺が一人だけ混ざった女子会がスタートした。

 もう帰りたい…。


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