第56話 クラスの女子会と後輩ちゃん 後編

 

 クラスの女子会が行われているカラオケボックス。俺と後輩ちゃんが住んでいるアパートに桜先生も住んでいることが判明した。クラスの女子たちは大盛り上がり。今度家まで遊びに来ると言い出す女子が大勢いた。俺は丁寧に断ったが。

 俺は丁度喉が渇いたし、女子から逃げ出すために、飲み物を取りに部屋の外に出た。ここのカラオケはお茶やジュースが飲み放題だが、全てセルフサービスなのだ。ちなみに、お酒は別料金で部屋まで持って来てもらうシステムだ。

 俺はコップをセットしてお茶を注ぎ始める。店内の音はうるさいけど、周りにはちょうど誰もいなかったからホッとする。少しの間ここにいることに決めた。


「あれっ? 宅島君?」


「桜先生」


 お手洗いの帰りの桜先生が通りかかって足を止めた。そして、顔を赤らめながらチラチラと俺を見てくる。


「えーっと、その、ごめんね? 恥ずかしいところ見せちゃって」


「あーいえ。誰にも話すつもりなはいので安心してください」


 まさか桜先生が土下座するとは思わなかった。泣き出すし、男性とお付き合いしたことないと言うし、家事能力皆無らしいし、他の男子には言えないな。秘密にしておこう。


「あはは。出来れば忘れてください」


「無理ですね」


「即答!? 酷い! まあ、私もプールの時間にやり過ぎちゃったからお相子かな」


 あれ? プールの時間とは一体何のことだろう? 思い出そうとするたびに激しい頭痛が……。


「それはそうと、宅島君はここで何やってるの?」


「お茶を注ぎに来ました。ついでにちょっとゆっくりしようかなと」


「女の子ばかりで大変だもんね。宅島君は女の子に人気だねぇ」


 俺は何も言わない。最近女子たちが積極的なのは感じていたが、ここまでとは思わなかった。嬉しさもあるけれど、申し訳ない気持ちが大半だ。俺は後輩ちゃんが好きだから。

 視線を逸らした俺の頭を桜先生が優しく撫でてくる。


「頑張り給え少年! 何かあったらこの美緒お姉さんに相談してね! 恋愛相談をいつでも待ってるよ!」


「………男性経験ないのに?」


「うぐっ! 宅島君…意外と容赦ないね。お姉さんの心にグサッと突き刺さったよ」


 俺と桜先生は一瞬見つめ合った後、同時に吹き出して笑い始める。

 先生と笑っていたら、他の客が飲み物を補充しに来たから場所をあける。チャラチャラした大学生くらいの若い男性たちだ。髪を染めて、ピアスをつけている。明らかにチャラ男だ。チャラ男の三人は飲み物を注いでいると、桜先生に視線を向けた。舐めまわすようにいやらしく桜先生の全身を見つめる。


「ねえそこのお姉さん。俺たちと一緒に歌わない?」


「へぇー綺麗だな」


「お金は俺たちが持つからさ。ね? いいでしょ?」


「えっ? えっ?」


 突然ナンパされた桜先生は混乱してアタフタしている。あんまりこういう事に慣れていないらしい。きっぱりと断ることができない。男慣れしていないと判断したチャラ男たちが調子に乗り始める。桜先生の身体を触って自分たちの部屋に誘導しようとする。

 チャラ男の手が先生に触れる前に、俺は先生の前に躍り出た。背後に先生を隠す。


「すいません。彼女は俺の連れなので、諦めてください」


「あんっ? ヒーロー気取りか? ガキは引っ込んでろ」


 俺が手に持っていたお茶が入っているコップを跳ね上げられた。コップの中のお茶が宙を舞って俺の顔や服にかかってしまった。びっしょりと濡れる。ハンカチを取り出して脱ごうとする先生を止めて、彼女の腰に手をまわして部屋に誘導する。


「わかりました。引っ込みますね。行きましょう」


「えっ! あっ、はい」


 俺は先生を連れて自分たちの部屋に戻った。背後で怒りのこもった舌打ちが聞こえたが、それ以上のことはなかった。

 部屋に戻った俺たちは注目を集める。部屋が静まりかえった。そりゃそうだよね。俺はびしょ濡れだから。あれ? 先生の顔が赤い?


「先輩! どうしたんですか!?」


 後輩ちゃんが真っ先に駆け寄ってきてハンカチで俺のことを拭いてくれる。桜先生もハッと気づいて拭き始めた。二人がかりで拭いてくれたから水が滴ることはなくなった。って二人とも! 濡れた服を脱がそうとしないで! 女子たちも参戦しないでくれ!

 俺は必死で抵抗して、何とか女子たちが落ち着きを取り戻した。


「それで? 一体何があったんですか?」


「実は……」


 俺は先生がナンパされて、チャラ男たちに水をかけられたことを話した。先生が申し訳なさそうに謝ってきたけど、別に謝る必要はないと何度も説得する。

 話し終わったら女子たちの顔が怒りに染まっていた。


「よし。その男どもをぶっ飛ばしましょう!」


「後輩ちゃん!? いつからそんなに過激になったんだ!?」


「冗談ですよ。みんな! 一人では外に出たらダメだよ! 絡まれたら叫び声をあげるか、すぐに逃げ出すこと! いいね?」


「「「「は~い」」」」


 女子の一体感がすごい。とても仲が良いなウチのクラスは。それに対してウチの男子は……うん、ないな。全然仲良くない。俺、嫌われてるし。

 こんなことがあったけど、その後は何事もなく楽しくワイワイと過ごしていった。みんなで歌ったり、暴露大会が行われたり、とても楽しかった。他の男子の愚痴は聞きたくなかったけど。

 楽しげな雰囲気の中、お喋りを続けていると、部屋のドアがバタンと勢いよく開いて、女子が二人慌てて入ってきた。二人とも大人しい女子だ。顔を真っ青にして震えている。

 部屋が静まりかえった。

 そして、全員そろっているはずなのにドアが勝手に開いて、誰から入ってきた。さっきのチャラ男たち三人だ。


「ねーねー! 一緒に歌おうよ!」


「たくさんのほうが楽しいでしょ」


「あれっ? うおー! 可愛い子ばっかりじゃん! ねえねえ俺たちも混ぜて!」


 チャラ男たちがいやらしい笑いを浮かべて部屋の中に入ってくる。女子たちの顔が恐怖に歪み、震え始める。桜先生が立ちあがってチャラ男たちに怒鳴りつける。


「出て行ってください! 警察を呼びますよ!」


「あれっ? さっきのお姉さんじゃん! これも運命かな?」


「俺たちも一緒でいいよね? じゃあよろしく!」


 男たちは全く気にせず近くにいた女子に手を伸ばし始める。女子は恐怖で動くことは出来ない。手が触れる瞬間、俺は男の腕を本気で捻り上げる。

 流石に俺も我慢できない。女子たちには怖がられてもいい。殺気や怒気を纏って目に力を込めて男たちを睨みつける。


「痛だだだだだだだだだだだだだだ!」


「なにしやがるガキ!」


「手を放せ!」


 最後に思いっきり捻り上げると一人の男から手を離した。筋を傷めるように捻ったから、しばらく治らないだろう。

 俺は残り二人の男を睨みつける。男たちは一歩後退ったけど、プライドが傷ついたみたいだ。襲い掛かってこようとする。俺は容赦なく全力で男たちの首を掴むと壁に叩きつけた。男たちから、ぐぇっ、と変な声が聞こえたけど俺は気にしない。手に力を込めて首を絞める。


「今すぐ出ていけ」


 男たちが反応しない。苦しそうにしているだけ。目に力を込めてもう一度言う。


「出ていけ」


 二人が恐怖を浮かべ、苦しそうに頷いた。俺はパッと二人から手を離した。男たちは咳き込みながら床に倒れ込む。大人しく出て行くかと思ったら、懲りずに襲い掛かってきた。なので蹴りと拳を叩きこむ。

 あ~あ、蹴ったほうは肋骨に罅が入ったかもな。俺は知らないぞ。

 気絶して沈黙した二人と、まだ痛がっている男を部屋の外に放り出した。後は店員さんを呼べば何とかなるだろう。

 俺は気を静めると部屋の中の少女たちに向き直る。


「みんな大丈夫だったか?」


 後輩ちゃん以外、みんな恐怖で腰が抜けたみたいだ。座り込んだまま動けないらしい。安堵したのか今にも泣きそうだ。息を荒げている女子が多い。


「先輩!」


「うおっ!」


 後輩ちゃんが飛びついてきた。ぎゅっと強く抱きしめてくる。


「怖くなかったか?」


「フーッフーッフーッフーッ!」


「…………あの? 後輩ちゃん? なんで発情したネコみたいに鼻息が荒いの?」


「先輩のせいです! 本気の先輩を見せるから当てられちゃったんです! 私だけじゃなくて他の全員も!」


「あー俺、そんなに怖かったか?」


「違います! 確かにあの男どもが入ってきたときは怖かったですけど、先輩は怖くなかったです。すごくかっこよかったです! だからみんなこうなっちゃったんです! あぁもう! 我慢できない!」


 後輩ちゃんが俺の首筋や頬に何度も何度もキスしてくる。女子の目の前だと言うのに何度も何度もキスしてくる。後輩ちゃんの甘い香りが俺の頭をボーっとさせる。


「ちょっ! 後輩ちゃん! みんなの前だから!」


「フーッ! フーッ! 気にしません!」


「なんで気絶しないの!? いつもの気絶する後輩ちゃんはどこに行ったの!? ちょっと誰か止めて! あっ、桜先生お願いします!」


 ゆっくりと立ち上がった桜先生が近づいてくる。あれっ? 髪で隠れて顔が見えないからちょっと怖い。何か雰囲気が違う気がするんだけど。


「山田さん……」


「何ですか?」


「一人だけズルいわよ!」


「はい? 桜先生一体何を? 後輩ちゃんを止めて欲しいんですけど…」


 俺は桜先生の言うことが理解できない。何がズルいのだろうか?


「平等にお礼することを要求します!」


 女子たちが桜先生に同意して、後輩ちゃんに抗議し始める。だから一体どういうことなの!?


「私は私で勝手にお礼をします。皆さんも勝手にすればいいですよ。ただし! 唇にキスはなしですからね! それだけは絶対になしです!」


 後輩ちゃんの言葉をきっかけに、女子たちの目がギラリと光る。彼女たちはゆらりと立ち上がった。

 あれっ? どこかで似たような経験をした気がする。俺の直感センサーが危機を告げている。背筋に冷や汗が流れた。


「淑女の皆? 宅島君にお礼をしましょうか」


「「「は~い」」」


「あれ? みんな? お礼なんかいいから、ね? 手をワキワキさせながら近づかないでくれないかな? なんで舌なめずりをするのかな? 目が怖いんだけど! いや、近づかないで! いやぁぁああああああああああああああああああああああ!」


 俺は荒ぶる女子たちに群がられて滅茶苦茶にされた。何をされたのかはご想像にお任せする。俺は思い出したくない。

 こうして、恐怖の女子会が終了した。

 ガタガタブルブル……女子って怖い……肉食系女子って怖い。

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