第44話 誕生日プレゼントと後輩ちゃん
ケーキを半分くらい食べたところで、後輩ちゃんにプレゼントを渡す雰囲気になった。
俺は、楓に殴られて悶絶していたのに、いつの間にか復活した裕也からプレゼントを受け取る。
中学時代に隠していたプレゼントが後輩ちゃんに見つかったという事件があったため、裕也に預けていたのだ。
俺は後輩ちゃんに渡そうとしたところで、妹の楓に止められる。
「お兄ちゃんストーップ! お兄ちゃんのプレゼントは最後だよ! いい?」
「お、おう」
有無を言わせない笑顔で睨まれた俺は頷くことしかできない。
後輩ちゃんがクスクスと笑っている。後輩ちゃんの瞳が嬉しそうに輝いている。これは相当期待しているな。
気に入ってくれなかったらどうしよう。俺は不安に襲われる。こういう時に自分はヘタレだなぁと実感する。
楓が持ってきた大きな袋を後輩ちゃんに渡した。大きな紙袋だ。このロゴマークは裕也の家の会社のマークか。
裕也の家、鈴木田家は日本でも有名な会社を経営している。体育祭の時にお世話になった裕也の母、葵さんはその女社長だ。バリバリ働く女性としても、美人すぎる社長としても有名らしい。
「これは私たちの両親たちから。山田家と宅島家と鈴木田家から。実際には、選んだのは女性陣でお金を出したのが男性陣。男性陣は一切見てないから安心してね。全部お母さんたちが決めました」
大きな袋の割に軽く持った楓が後輩ちゃんに手渡す。
「お母さんたちから伝言ね。『誕生日おめでとう。頑張ってね』だってさ。あっ! 今見ちゃダメ! 葉月ちゃんが一人の時に見ないとだめだから! 絶対、絶対だよ! 特にお兄ちゃんは見ちゃダメなんだから!」
後輩ちゃんが袋の中身を確認しようとしたら、楓が即座に注意した。
どうやら俺が見てはいけない乙女の秘密らしい。ちょっと気になるけど余計な詮索はしない。
後輩ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとね。後でお礼言っておく」
「うん。で、次は私とユウくんから」
後輩ちゃんが楓から袋を貰う。今度は中を見てもいいようだ。
袋の中から取り出したのは傘? 折り畳み傘のようだ。でも、可愛らしい装飾が施されている。
「これは折り畳み傘?」
「そう! まあ、日傘だけどね。葉月ちゃんってこういうのに意外と疎いから。最近は日差しが強すぎるから日傘しないとだめだよ!」
「そうだね。そういえば私、日傘持ってなかった。ありがとね。大事に使うから!」
「うん!」
「鈴木田先輩もありがとうございます!」
嬉しそうにお礼を言う後輩ちゃん。裕也は照れ臭そうに片手をあげた。やっぱりイケメンだ。イケメンは何をしても似合う。いや、訂正。楓に調教されているときはキモイ。
「あれ?」
まだ何か袋に入っているようだ。ガサゴソと後輩ちゃんが袋から取り出す。
後輩ちゃんの手に握られていたのは箱だった。大人っぽいデザインの箱。
「これって……」
「そう! 避妊具! 実はこれが本命です! 必要でしょ? たくさん入っているのを買ってきました! どやぁ!」
楓と裕也が胸を張ってドヤ顔しながらサムズアップしてくる。
ウザイ。顔がとてもウザイ。
俺は堪らず二人を怒鳴りつける。
「どやぁじゃねえよ! いらん!」
「えー! なんでお兄ちゃんが拒否するの? もしかして避妊しないの?」
「違うわ!」
「なら必要でしょ?」
「もう既に準備してるからっ!」
「「おぉ!」」
楓と裕也が驚嘆の声を上げたのを聞いて、俺は自分が言ってしまった言葉を理解した。
やってしまった、という後悔が襲ってくる。面倒くさい二人の前で暴露してしまった。
二人の顔が今までで一番ニヤニヤしている。
顔が熱い。絶対に真っ赤になっている。
横にいる後輩ちゃんの顔も真っ赤だ。恥ずかしそうに俺のほうをチラチラ見てくる。
「楓さんや? ここは揶揄う所だけど、止めておきませんか?」
「裕也さんや、そうしましょう。逆にそのほうが面白そうだし」
「「ぐふふ!」」
二人の笑い声がすごくムカつく。イラッとするけど、二人はニヤニヤするだけで揶揄ってこない。
逆にそれが恥ずかしい。これなら揶揄ってきてくれたほうが気が楽だ。
気まずい。隣に座る後輩ちゃんを意識してしまって、とても気まずい。
「あ、あの! あ、ありがたく…受け取ります……」
後輩ちゃんがボソボソと小さな声で呟いた。避妊具の箱を袋に戻す。
「というか、少しはラッピングしたらどうだ? 生々しいぞ」
「だからそのままにしたんじゃん!」
「二人の顔を見るために楓ちゃんと相談したんだぞ!」
「そうかいそうかい。それでどうだったんだ?」
「「二人とも最高!」」
仲のいいバカップルが声をそろえて言った。後輩ちゃんが恥ずかしさで体を小さくし、俺は仏頂面でそっぽを向く。
楓が同じ高校じゃなくてよかった。同じ高校だったらすごく面倒くさかっただろう。
「さて、私たちのプレゼントも渡し終わったし、最後はお兄ちゃんだよ」
俺は袋を真っ赤な顔をしている後輩ちゃんに渡す。
「はい、後輩ちゃん。誕生日おめでとう」
恥ずかしいから言葉は少なめ。後輩ちゃんも恥ずかしそうに受け取ってくれる。
「ありがとうございます。中を見てもいいですか?」
俺は頷いた。後輩ちゃんが袋の中身を取り出す。三毛猫のぬいぐるみとシュシュなどが入った袋。
後輩ちゃんがぬいぐるみを持ち上げる。
「おぉ! ぶちゃいくな猫さん! かわいいです!」
後輩ちゃんが目を輝かせてボテッとしたぽっちゃりしたふてぶてしい猫のぬいぐるみを抱きかかえ、身体のあちこち撫でている。気に入ってくれたようだ。
「気に入ってくれてよかった」
「ふふふ。先輩ありがとうございます」
「どういたしまして」
後輩ちゃんに輝く笑顔でお礼を言われて俺はドキッとしてしまった。後輩ちゃんが可愛すぎる。
「へぇー。お兄ちゃんセンスあるね」
楓も羨ましそうに後輩ちゃんが抱きかかえているぬいぐるみを眺めている。楓も欲しかったのだろうか?
裕也は呆然と俺たち三人を順に凝視している。
何故だろう? まるで、お前たちのセンス大丈夫か?と言っているみたいだ。
「えーっと…この袋は何ですかね……シュシュ?」
後輩ちゃんがシュシュなどの髪ゴムを取り出した。目を輝かせているので気に入ってくれたみたいだ。
俺はホッと安堵する。後輩ちゃんに似合うやつを選んだし、気に入ってくれると思ったけれど、やはり不安だったのだ。後輩ちゃんが喜んでくれているみたいで安心した。
後輩ちゃんがシュシュを一つ取って俺に差し出してきた。ピンク色のふわふわで薔薇のように見えるシュシュだ。
「先輩、結んでください」
「わかった」
今日の後輩ちゃんは髪を結んでいない。俺は後輩ちゃんの後ろに回ると、綺麗な黒髪をささっとポニーテールにする。
やっぱり後輩ちゃんはポニーテールが似合う。
「どうですか?」
後輩ちゃんが首を左右に振って俺に見せてくる。とても似合ってる。見惚れるほど可愛い。
「似合ってる。可愛いよ」
後輩ちゃんの顔がポフンと爆発的に真っ赤になり、抱きかかえた猫のぬいぐるみのぽっちゃりとしたお腹をポコポコ叩いている。
俺は愛おしい葉月の身体を後ろから優しく抱きしめる。ピクッと身体を反応させたけど、すぐに俺にもたれかかってきた。ぬいぐるみで顔を隠している。でも、耳まで真っ赤なのは隠せていない。
「可愛いよ」
俺はもう一度耳元で囁いた。そして、後輩ちゃんも俺にだけ聞こえるくらい小さな声で呟いた。
「………ばか」
恥ずかしそうで、とても嬉しそうな後輩ちゃんはとても可愛かった。
楓と裕也がスマホを構えて、ぐへへ、と涎が垂れそうなほどいやらしく笑っていたのは当然無視した。
プレゼントを渡し終わった俺たちは残りのケーキを食べたり、お喋りをしたりして過ごした。
楓と裕也に揶揄われたのは言うまでもない。特に楓が生き生きとして俺を揶揄ってきたのでとても疲れた。
後で後輩ちゃんを可愛がってストレス発散をしようと決意する。
こんな感じで後輩ちゃんの誕生日パーティは終わり、楓と裕也が仲睦まじい夫婦のように手を繋いで帰っていった。
家にはいつも通り、俺と後輩ちゃんの二人きりになった。
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